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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百六日目 シルビアはやばい

 どうしよう。正直に言ってもダメっぽい……まぁ自分が怪しいのはなんとなくわかってるけど。


 かと言ってこれ以上なんとかする方法なんて思いつかない。


 最悪強行突破しかないかなぁ……一旦ここから離れて全力で隠密行動をとればいけない事はないと思うけど。


 いやでも船に乗る時捕まるかも。


「あの、何かありましたか?」


 急に横から声をかけられた。足音が小さくて全然気付いてなかった。


 見慣れたメイド服の、女の子が。


 今の俺には存在しない心臓が跳ねた気がした。全然知らん子だけど、どう考えても俺の関係者だ。だって俺ん家のメイド服だもんそれ……。エステレラ家所属の身分証明としても使われる服だから、実は特注品だったりする。


 見覚えのない子という事は、新入りかもしれない。


 やばい。余計にまずい状況になりつつある。今俺の正体が身内にバレたら確実に連れ戻される。


「あ、いえ、その……なんでもないです。失礼します」


 バレる前に逃げるに限る。方向転換をすると兵士さんに肩をがっしり掴まれた。


「いや待て。はぐらかすという事は、やはり騙りか。念の為同行してもらう」

「嘘じゃなくて、でもほら、その……」


 とっさの言い訳が思いつかない! しかも逃げられない!


「? あの……?」

「ミアさん。この者はあろうことか『白黒』を名乗ったんですよ」

「えっ? マスターを?」


 おいおいオイオイ何言っちゃってんの君! 俺の名前はこの子の前で出すなよ!


 しかもミアって聞き覚えがある。数ヶ月前に入った子だ。死にかけたりとか、色々忙しくて最近の子は把握できていない。ウチへの加入条件は「推薦」と「一軍の誰か」の承認の二つだ。


 主にメイドからの推薦で来た子を採用するかどうかは「一軍」つまり俺かソウル、ライト、エルヴィン、キリカ、ピネ。そして各拠点のリーダーのことだ。一応レクスもメンバーではあるが、あいつはまだ所属はエステレラではないので除外する。


 エステレラでの「一軍」は俺を含めた最強メンバーだ。中身は主に俺の家族。「一軍」という名前は傭兵の仕事の時に使う。一軍が出る仕事はあまりないが、俺やソウルが出なければ危険だという「相当な仕事」が来た時は一軍を招集することがある。


 普段の傭兵の仕事は二軍以降のナンバリングされた小隊に任せているんだけど、明らかに難易度が高い仕事とかだと一軍を出す。二軍以降の小隊は基本的に各地のリーダーが指揮を執るが、一軍に関しては出ることを判断するのも動かすのも俺だ。たまにソウルやエルヴィンに指揮任せることもあるけどね。


 つまり、一軍の誰かの承認が必要なメイド試験だが。各地域のメイド長も一軍に入るので、俺が面接する事はかなり少ない。たまにあるけど、俺が面接するというよりかはソウルが面接する横でボケっと見てる役だったりする。


 だって俺よりソウルの方が圧倒的に人を見る目があるし。俺が承認するよりソウルが考えて決めてくれた方が多分組織のためになる。


 そういうわけで、知らない子も多くいるんだけど。


 流石に最終的な承認は俺が出す。ハンコ押すだけの仕事だけどね。キリカやソウルが見て大丈夫だと判断されたという事は大丈夫だから、俺はほとんどただの素通り機関だ。ただ、素通りさせているとはいえ、一応目を通している。ミアという名前とこの顔も見覚えがあるから、多分本当にウチの関係者だろう。


「本当に、マスターなんですか? メイド長は嘘を絶対に許しませんよ」

「え、えっと……」


 ここの町の拠点って……シルビアだ! やばいまじで殺される! 殺されるというより壊される! この体が!


 シルビアはキリカより数段過激だ。今まで上がってきた報告の中にシルビアが破壊した町の修理費用の書類とか、家の修繕費とか、経費としてそこそこ払っている。


 シルビアはとにかく喧嘩っ早い。ちょっと挑発されるとじっとしていられない。


 絶対にメイド向きじゃない性格だけど、仕事はできる。超できる。なんならキリカと同レベルといっても過言ではない。


 完璧超人のキリカと同じくらい仕事ができるのなら『副メイド長』とかでも全然いける、と最初は思った。最初からあの子なんか凄かったし。


 できる人って、オーラ的なものがあるよね。


 でも、手が出るのが異様に早かった。びっくりするぐらい早かった。


 喧嘩を売られた三秒後には相手を殴ってしまうくらいには早かった。そしてそれをチンピラとかだけじゃなく貴族にまでやってしまったが為に一時大惨事になった。真面目にエステレラ家取り潰しの危機に陥った。


 かなり頑張って火消して、根回しして、そこそこ大金払って揉み消した。俺、結構頑張った。その時に悟ったんだよ、この子ヤベェって……。


 ただ本当に仕事はできるし、忠誠心も強い。ただ沸点が異様に低いだけで。そこが問題なんけどね……。


 それでも彼女をこの重要拠点に配置しているのはちゃんと理由がある。彼女を抑えられる人材がいたからだ。実質、この町のメイドのまとめ役。一応トップはシルビアだけど、そのシルビアのストッパーとして派遣した()がほぼ牛耳っている。


 そう、俺の部下には珍しい男性。まぁ、その話は一旦いいか。問題は今どうやってミアちゃんから逃げるかだ。


 運よく逃げられたとしてもシルビアに報告されたらまずい。シルビアは俺への忠誠心は実はそんなにないんだけど、キリカに心酔している。さっき言った「忠誠心」は俺に向けられているものではなく、キリカに向けられているものだ。


 彼女はキリカに助けてもらってるから、そのイメージが強いんだろう。俺よりもキリカのために働いている。


 問題はそこだ。


 もしここで俺が正体をバラせば100%キリカに伝わる。俺が口止めしてもシルビアはキリカに報告する。だって俺のことよりキリカの信頼を得る方が大事だもん。……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


 だが、俺が白黒を名乗っている事は今、ミアちゃんに伝わってしまった。いつもなら記憶を改竄するとか、取れる手はいくらかあるんだけど。残念ながら魔法はほとんど使えない。今の俺ができることなんて、そこらのちょっと強い一般人と同等だ。


 シルビアには到底及ばない。ミアちゃんはなんとかできるかもしれないけど、個人的な心情だが従業員を傷つけるなんてしたくない。


 だからここで俺がするべき事は、なんとかしてミアちゃんを味方につける事だ! そしてシルビアには報告させないよう立ち振る舞う事!

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