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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百四日目 洞窟を抜けて

 夜が明ける。小さく伸びをして関節を動かすと、油がある程度馴染んできたのか軋む音が減った。


 横目で子どもたちを確認すると、全員ぐっすり眠っている。


 こんな森の中で見張りもなしに熟睡なんて、正直どうかしてると思うけど、この子達はまだその辺りわからないんだろう。


 まぁ、俺が見てるからそれで安心してるのかもしれないけど……昨日会ったばかりの見ず知らずの人をあてにするのはよろしくないね。その辺りのことを彼らに教えてくれる人がいれば良いのだけど。


 子どもだし、しょうがないのかなぁ……


「イベルより年上かな……? ああ、でもイベルは実年齢は関係ないか」


 俺より頭いいもんイベル。コミュニケーション能力も高いし。


 というか、ウチで一番コミュニケーション能力低いのは多分俺だと思う。俺が普段いろんな人と話しているのは仕事だからだし、俺単純に友達少ない。


 ソウルとかは見た目から受け入れられやすいからズルいよな。あいつはあいつで顔が良い事による苦労もあったらしいけど。


「ぅう……ん? 朝?」


 最初に起きたのは昨日の夜に話しかけにきた女の子だった。うっすら明るくなり始めた空を見てぼんやりと薄い毛布を体に巻きつけ直している。


 森や山の朝はかなり寒いしな。


「あの、おはようございます」

「おはようございます。日があの高さまで昇ったらここを離れます。それまでに準備をしておいてください……ああ、それとこれを」


 夜のうちに描いておいた森を抜けるための道をざっくり示した地図を渡す。


 本当ならこれ料金発生するけど、この状況で金取るほど強欲じゃない。情報屋として接してるわけでもないしね。


「その通りに進めば森を抜けられるでしょう。森を出て家に帰ったらその地図は燃やして捨ててください」

「えっ? どうして?」

「必要なことだからです。ちゃんと燃やしてくださいね」


 地図を無料で提供することは情報屋や地図屋の反感を買う事がある。


 昔にあった事だが、無料で渡してしまった為に「他の情報屋は無料で渡してくれたからお前もそうしろ」とか言い出す客が出た。そんな事言われたら商売にならない。


 基本的に道などを教える際には「他言無用」でいろというのが暗黙の了解になっている。みんな自分より誰かが得することはなんとなく嫌がるので、買った情報をわざわざ無料で広めようとする人も稀だ。そういう人いたらブラックリスト入りでどの情報屋からも情報売ってもらえなくなるんだけどな。


 そういった事情があるから、これバレたら俺が叩かれる。下手に騒がれると俺の失脚を狙った連中が面倒をおこすだろうし、かき回さないに限る。


「わかりました、燃やします……」


 この子が他の人に言わないと約束できるのなら別に良いんだけど、どこからどう漏れるかわからない。念には念をだ。


 色々と出しっ放しになっていたものを鞄に詰め直して牛に乗せる準備を始める。


 そうこうしていたら日が高くなってきたからか、他の子ども達も目を覚ました。


 軽く食べられるパンをいくつか子ども達に渡して立ち上がる。もうここにいる必要はない。ある程度この辺の野生動物は寝てたり遠くに行っていたりするから、しばらくは子ども達だけでも大丈夫だろう。


「あ、あの……お名前、聞いても良いですか? お礼もしたいし」

「いえ……お互いに知らなくて良いでしょう。大したこともしていないので、礼も結構です。それでは、頑張って帰ってください。風の導きがありますように」


 洞窟に向かって歩き出すと、子ども達はその場に立ち止まったままこっちを見ていた。多分、不安だから送ってもらいたいとでも思っているんだろうけど、俺も俺で忙しい。それに、さっき気づいたが彼らの保護者らしき人が結構近くで彼らを探しているみたいだ。あの地図通りの道に行けば保護者と合流できるだろう。


 保護者と鉢合わせて時間を喰いたくない。少しでも早く前に進まないと。








 洞窟の中はそこそこ広い。この牛が数頭横並びで進めるくらいだ。馬車も二階建てとかじゃなければ通れるだろう。


 自然にできた洞窟だが、魔族領の近くまで行けるトンネルとして使われている。ただ、昔この世界に来た時に会ったとんでもない脚力のウサギとかもこの洞窟にはいるから……そこそこ強い護衛がいないとここは通れない。


 最短ルートではあるけど、死への最短ルートとか言われていた時期もあったせいで人があまりこないんだ。


 昔よりは強い生き物はいないらしいから、まだマシだとは聞いたけど。


「ブゥウウ……」


 周りを警戒して牛が鳴いた。こいつの声初めて聞いたかもしれん。


 でも警戒してるってことは、なんかいるのか。今の俺はほとんど索敵できないから全然わからない。多分その辺は牛の方が敏感だと思う。


「早めに抜けるか。牛、走ろう」


 牛に跨って合図すると牛が走り始めた。


 蹄の音が洞窟内部にガンガン響いている。位置を知らせてるようなものだが、むしろ出てきてくれた方が対処しやすいから助かる。暗闇に紛れて襲いかかられたら反応できないかもしれないしね。


 牛が走ること二十分。何事もなく洞窟を抜ける事ができた。


 いや、何事もなかったわけじゃないけど、牛に乗ったまま俺が対処したから何事もないと言っていい。


 この体、仕込み銃が内蔵されているから牛の上で狙撃できるのが地味に便利。


 あまり武器を持たずに俺が街を出たのも、この銃が入っているから。仕込み銃がなかったらもう少しちゃんと準備しただろう。


「牛、あの街まで走って」


 洞窟を抜けた先には遠く、街が見える。あそこから魔族領に行ける船が出ているはずだ。

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