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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百二日目 こんなところに、迷子?

 牛に乗ること数時間、川の近くにある洞窟に着いた。


 この洞窟を抜ければショートカットできたはず。……中で崩壊してなきゃだけど。


 もし崩れてたら大幅な時間ロスになるんだけど、もうここは信じて進むことにする。


 とはいえ、もう真っ暗だ。洞窟内を進むから外の天候は関係ないけど、この体のメンテナンスも必要だし、今日は入り口で一晩明かすことになる。


「よく走ってくれたな。ゆっくり休んでくれ」


 牛を撫でると、大きくフスンと息をついてから横になった。体重が重いからか、ドスン、と結構大きな音がした。


 こいつ本当に何キロあるんだ……? 普通の牛に比べたら凄い筋肉量だし、かなり重そう。


 来る途中で牛の背から手を伸ばして集めた枝に火を着けて焚き火をする。


 別に暖をとる必要も、食事の必要もないから、あんまり火を付ける必要はないんだけど。火を焚いていた方がこの辺の野生動物は近寄らなくなるし、固形のオイルを溶かして関節部に垂らすから使い道はある。


 着火はその辺の枝を擦り合わせた時の摩擦熱で。これ、人間がやると相当大変なんだけど、今の体は機械だからかなり高速で動かせる。疲れないしね。


 小さな火が着き、大きく燃え上がっていく。


「よし、あとは……?」


 ガサガサと真後ろから音がした。音からして人だ。この体だと索敵能力はかなり低くて、一般人とそう変わらないくらいになっている。人間型のアニマルゴーレムをほとんど作っていないのもこれが理由だ。アニマルゴーレムって基本的に索敵用だから体が大きくて目立つ人間型はあまり向いていない。


 そもそもコストかかりすぎだし、戦闘用としてもちょっと微妙なライン。うちの一般メイドに負けるくらいだ。低ランク冒険者とベテラン冒険者の中間くらいかな?


 今の俺みたいに中に人が入ってるのなら、まだある程度動けるんだけど自律で動かすと……なんかわかんないけど常にフルスロットルで動いちゃってすぐにオーバーヒートして使い物にならない。


 動きをセーブするように設定してもあんまり変わんない。そもそも人型はあんまり向かないんだろうね。


「あの、旅の方ですか……? もしよければご一緒しても?」


 ゴーレムの運用について、どうでもいいこと考えてたら話しかけられてた。そこにいたのは五人組の男女グループ。見た感じまだかなり若い。十代前半か?


「……ご一緒、とは?」

「そ、その、ちょっと監督生と逸れちゃって……帰りたいんですけど、もう真っ暗になるし、帰り道もわかんなくなって」


 つまりは迷子か。カントクセイってのが何なのかは分かんないけど、多分保護者みたいな立ち位置だろ。


 なんにせよ、このくらいの時間からは夜行性の野生動物が活発に動く。子どもを放っておくのは後味が悪い。


「……わかりました。ただし、こちらも先を急いでいるので夜が明けたらすぐに去ります。帰るルートだけはお教えしますが、お送りすることはできません」

「それは、全然っ……! 一晩一緒に居ていただけるだけで本当にありがたいです」

「そうですか」


 まぁ、こういう時って本当に心細くなるしな。これくらいはいいだろう。


 子どもたちはホッとした表情で少し離れた場所に腰を下ろした。森は危ないとわかっているから見知らぬ怪しいやつと一晩過ごす方をとったとは、なかなか勇気がある。


 正直、これが俺じゃなくて見た目年齢の近いイベルとかだったらもっと距離感は近いと思う。


 そんな状態で誰も喋らないまま数分。誰かの腹が鳴った。結構でかい音で。


「「「…………」」」


 全員、無言。うち一人の女の子が顔を真っ赤にして俯いた。


 見ないことにしてやるのが大人の対応なんだろうが、このまま全員の腹が鳴って夜中に腹の虫が大合唱とか気になって仕方ない。


「……食べ物、持っていますか?」

「えっと……持ってないです。朝から、何も食べてなくて」


 答えた彼も辛そうだ。どんな準備で森に入ったんだよ。もしも遭難したらって考えて最低限の食料と水、ロープとかは持っておいた方がいい。


 彼らの場合、もう手遅れだけど。


「……わかりました、少し待っていてください」


 街を出る時、手ぶらだと怪しまれるから色々ダミーをカバンに突っ込んでおいてよかった。鍋も干し肉もある。


 その辺にあった太めの木の枝を組み合わせて簡易的なトライポッドを作り、焚き火の真上に持ってくる。鍋に川の水を入れ(ちゃんと水質は確認した)てからトライポッドに吊るした。


 沸騰したのを確認してから一旦火から離し、少し冷ましたところで色々と持ってた食材を適当に切ってから突っ込み、さらに煮る。一回冷ましたのは生水だから念のために煮沸させただけだ。雑もいいところだが、そもそもこの体は食事がいらない。


 まともな食材なんて持ってないからこれが限界だ。器は三つだけ持っていたから、そこにスープを入れる。スプーンはその辺の木から削り出して急遽作った。


「雑ですが、これで我慢してください。これくらいしか手持ちがないのでこれ以上作れませんから、喧嘩しないで食べてください」

「えっ、あの、あなたは」


 食べれないよ、とは言わないほうがいいかな。


「大丈夫です。あなた達で食べてください。……やることがあるので少し席を外します。もし何かあったら大声をあげてください」


 はぁ、ちょっと離れたところで体の点検しますか。目の前で体分解したらビビるだろうし。


 よくわかんない状況になっちゃったなぁ。

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