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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百九十六日目 送還

 国崩しから三日。他国への連絡などで色々とてんやわんやして、やっと落ち着き始めた。


 国が一つなくなったんだ、そりゃ普通に大事件だわ。


 それに俺が関与してるってバレてるのが面倒くさい。


 国に連絡してる最中に「お前は何やったんだ?」って毎度聞かれる。酷いところだと開口一番に「お前は何人殺した?」って聞いてきた人もいたよ。殺してねーよ。


 俺そんなに各国の事情に首突っ込んでそうに見えるの? なるべく触れないよう気をつけてるつもりだよ?


 まぁ、仕事の都合上覗き見はするけど。


 そんなこんなで、三日。三日も過ぎた。


「まだ来ない……」

【不安になるのはわかるけれど、そこで陣取っていても仕方ないでしょ。他にできることをするべきよ】


 通信機の前でずっと待っているんだけど、未だにソウル達から連絡は来ない。


 国崩しの一件で、この街で規制されていた魔法系の道具の使用が許可された。


 許可されているとはいえ、申請はしなきゃいけないけどね。


 この国は魔法使いの国。道具も特別なものが多く、危険なものもある。


 使えるけど、ちゃんと報告してから使ってね。ということになっている。


 ちゃんと俺の持ってる道具は申請したから問題はない。銃火器については申請してないけど。あれの説明も面倒だし、収納に入れといて使わなきゃバレようもない。


 一応銃火器は魔法の武具に分類される。着火などの工程に魔法が使われるからだ。


 個人的には魔法じゃなくて物理系の道具だと思うけど。


 そんなことより、ソウルとライトだ。


 定時連絡は来ているのだろう。多分。


 というのも定時連絡は俺じゃなくて、もっと魔族領側の街にいるメイドに受けてもらっている。


 正直俺に連絡飛ばしてくれるのなら情報集めには楽だから良いんだけど、残念ながら魔族領まではここからだと結構な距離がある。通信機は距離が離れるほど必要になる魔力が上がっていく仕組みだから、魔力を無駄遣いしないために中継を頼んでいる。


 ソウルと俺の魔力ならそう大した消費量でもないんだけど、一言交わすだけに近い定時連絡に消費するには馬鹿馬鹿しい魔力量なんだ。


 消費量は一回の連絡で大体お風呂の水10杯くらい作れるかな。魔法に特化してるソウルだと別に問題ないくらいのものだけど、ちょっと勿体無い量ではある。魔力ってそんなすぐに回復しないし、魔力が回復する薬って体力回復薬より高いんだよね……。


 できればあんまり使いたくない。そもそも今回は魔族領の異変を調べに行ってもらってるんだから、魔力はなるべく温存してほしい。


 だから定時連絡は俺じゃなくて別の子に頼んでるんだけど。


「……こっちにも、定時連絡きましたよって送ってもらおうかな」

【この前その子の魔力少ないから、それは止めるって言ったじゃない】


 言った気がするなぁ。こっちにも飛ばしてもらうのは、連絡を受けてくれているメイドの負担になる。


 仕方ない、仕事するか……何も連絡来ないってことは大丈夫ってことだろう。


 一応通信機の近くで書類を整理すること一時間。俺の部屋にエルヴィンが入ってきた。


「ブラン。少し休んだほうがいい。ジーリャにあまり寝ていないと聞いたぞ」


 ジーリャはメイドの一人だ。キリカほどではないが古株の一人。普段は洗濯を任せている。うちは何十人単位で毎日服洗ってるからな。専任がいないとキツイ。


 ちなみに庶民だと毎日服なんて洗わない。下着だけ洗って、同じ服を一週間や二週間着回すことなんてザラだ。


 一応客商売だし、貴族の相手もするから俺たちは毎日洗ってるけどね。


 そんなわけでジーリャには俺がいつ着替えたのかで、何時に寝たのかがなんとなくわかるらしい。服を洗濯カゴに入れるタイミングで測ってるらしいが……


 最近は通信機の前に張り付いてるから、寝るのがかなり遅い時間になっているのは確かだ。


「いや、俺は大丈夫だよ。ちゃんと寝られてる」


 そう言うと、足にチクっとした痛みが走った。ほんの少し爪の先っぽで軽く刺してきたくらいの痛みだが、急にきたからちょっと驚く。


「えっ……? ああ、君か……」


 足首にカーバンクルが噛り付いていた。普通の人だったらこれかなり痛いんだろうけど、俺はあんまり感じない。


 スフィアさんの治療が効いてきているのか、少しずつ本来の防御力を取り戻しつつあるみたいだ。


 で、カーバンクル。すっかり元気になった。足が変形しているので歩くのはまだ難しそうだが、なぜか這って移動する癖がついたらしい。怪我は治っているし健康状態も悪くないから別にいいんだけど、体のどっかに負担がかかりそうだから這うのはやめて欲しいんだけどね。


 ソウルが拾ってきたから、まだ名前はない。ソウルが付けるべきだろうしね。


「なんで急に噛んだんだ? と言うか、なんで俺だけ噛まれるんだ?」

「お前が嘘をついたからだろう」

「嘘?」

「寝ていると言ったからな。正直なところ、ブランの体調管理は杜撰だ。ブラン自身の体調に関してはメイドたちの方がよっぽど詳しい」


 否定はできないな。だって俺が気付いてないくらいの不調を彼女らは察知するんだもん。この前なんか「座ってる時の足の位置がいつもと違います!」って謎に大騒ぎして家に医者呼ぶハメになったんだよ?


 実際に前日の仕事の影響で骨にほんのり負担かかってたらしいから、見当外れでもないんだけどさ。


 過保護すぎるよ。俺もう大人よ? みんなの反応は基本的に乳幼児に向けるレベルのものだと思うよ。


 下手したら乳幼児以上だよ俺の扱い。


「じゃあ俺に確認とっ……? ……ぇ……?」

「どうした?」


 俺の魔力が急に増えた(・・・)。普通ならあり得ない。


【違うわ。戻ったのよ】


 戻ったってことは……ピネもレイジュもいるから……まさか、


「ライト」

「ブラン? さっきから様子がおかしいぞ」

「エルヴィン……ライトが、ライトの、その、ソウルが」


 言葉がまとまらない。視界がぐるぐるして気持ち悪い。呼吸ができないくらい、どうしたらいいのかわからない。


「落ち着け! 何があったんだ!」


 顔面から血の気が引いていくのが、自分でもわかった。スッと温度が下がる感覚。


「ライトの反応が、消えた。一方的だったから、送還だと、思う」




ーーーーーー《エルヴィンサイド》




「ライトの反応が、消えた。一方的だったから、送還だと、思う」


 明らかに冷静さを欠いているブランが途切れ途切れにそう言った。直後、前のめりに倒れ込んだ。


 とっさに体を支えてから屋敷中に緊急事態を伝えた。


「誰か! ブランが倒れた! 至急来てくれ!」


 数秒後にメイドたちが駆け込んできた。完全に気を失っているブランをベッドまで運ぶ。


「エルヴィン様、一体何があったのです」

「ライトの反応が消えたらしい。おそらく送還だろうと」

「……! すぐに連絡を!」

「ああ、頼む」


 『送還』とは、召喚された天使や悪魔が怪我をし、それが致死レベルになると自動的に発動する魔法と聞く。契約完了による返還や悪魔が裏切る事で起こる契約の破棄とは違い、召喚した側の体力を大幅に削る。


 送還が発動するということは、ライトが死んだということに等しい。


 悪魔は不死の存在だ。特別な例でもない限り永遠に生き続ける。今回の送還も、暫く再召喚できないだけでライト自身は無事だろう。


 だが、今回の場合はタイミングが悪すぎる。


 ブランが送還によって生じる体力の減少に耐えられるかどうかという話も勿論だが、送還されたのがライトで、一緒にいるのがソウルだ。我々の中でブランの次に強い者は誰かと聞かれたら間違いなくライトだ。


 そのライトが人ならば死ぬほどの状態になっているのに、ソウルは果たして無事だろうか。


 ブランが倒れたのはそれが原因だろう。ソウルのことがあまりにも気掛かりで、限界に達してしまった。


「頼む、無事でいてくれ……!」

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