二百九十五日目 騙された……!
革命が成功したと宣言する殿下の前にいる全裸の二人。この国のトップとその息子である殿下の兄だ。
ちなみに俺はこの国とは取引してないからこの二人とは初めましてだ。
全裸のまま何かの書類を書かせ、部下の人たちがどこかへ連れて行った。
ぽかんとそれを見送っていると、デュース殿下が助かったと礼を言ってきた。
「……あの、なんで全裸だったのかお聞きしても良いですか?」
「ああ、寝るときは基本服着ないからな」
「……そうですか……」
家では裸族というやつなのだろうか。
そのまま予定通り、国全体に周知させるために一斉に新聞社に報じてもらい、これで革命は終了したと言える。
さらっと終わったと感じるのは俺だけだ。なにせ俺はこれまでの準備やその他諸々は何もしてない。
デュース殿下は何年も水面下で動き、貴族を取り込んで、国を崩す計画を練っていた。
そろそろ実行に移そうかという頃に偶然俺が来たもんだから手伝いを頼んできたというわけだ。
まぁ俺のやったことなんて撹乱だけだし、なくても良いポジションだったのは間違いない。
侵入することが結構難題だったらしいから俺達も役には立ったらしいけど。
国のトップを脅して権利を奪いさえすればなんとかなる、というくらいまでは国を内部から崩していたらしい。
とりあえず俺がやれることはない。俺の仕事は情報屋として今回の件を他国に流すくらいかな。
「はぁ……なんかどっと疲れた……」
「まさか交渉中に国がなくなるとは、不思議なこともあるものだな」
「ゼインとしては良いの? 外交するためにこの国に来たのに」
「元々革命が起こるかもしれないという事は聞いていた。それに交渉相手は殿下のままだからな、別に取引はなくなったわけではない」
そっか……殿下が取引相手だったのか……
ん? 殿下と何を取引してたの?
国家の問題だから下手に内容聞かない方がいいかと思って会談内容は特にそう詳しく聞いてなかったけど。
「え……もしかして、国崩しのこと、知ってたの?」
「…………」
目ぇ逸らしやがった……!
つまり俺は今回完全に巻き込まれたんじゃないか! 偶然とか装っていたけど、全然偶然じゃなかったんだ!
「おい、ゼイン。俺の目を見ろよ……。お前騙したな……?」
「………そうだな」
最悪だ……。俺がこの国に来るって話は結構前からしていた。その時からゼインはデュース殿下と連絡を取り合って、俺をいい感じのタイミングで国に向かわせる為にわざわざ同行するとか言ってきて出発時間をずらして、俺が参加せざるを得ない状況にするために護衛をたった一人に限定して……
そうだ、よくよく考えればおかしいじゃないか……なんで一国の王と第一王子が護衛一人だけの状態で旅をするんだよ……誰か止めるだろ普通……奥さん(王妃様)とかは「白黒さんがいるなら安心ですね!」って言いそうだけど。
しかも殿下があっさり俺の家に押しかけて来ることができたところで気付くべきだった……
隠してないからバレるのもしょうがないかと思ったけど、そんなレベルの速さじゃなかった。
俺がこの街にいて、どの家にいるかをゼインがリークしてたんだな。自分自身に色々起きすぎて動揺してたんかもしれん……正常な判断できてない。
「……それで? なんの交渉だったの? 俺を連れてきてまで革命やったんだ、絶対それ絡みだろ?」
「その通りだ。ひとまずこの国はウィルドーズの傘下に入る。交易路としての利権や資源は他国との話し合いで分けることになるだろうな」
「なるほど。そーりゃ危険を承知でエステレラに国崩ししてもらわにゃならんよなぁ?」
「機嫌を直してくれ。騙したのは悪かったと思っている」
この国の領土や資源をどうするか、その話し合いを取り仕切る役目が付いてくるんだ。そりゃあ是が非にも国崩しして欲しいと思うわな。
自分の国に有利な状況に持っていけるんだから、多少リスクがあってもやるだろうね。
国取り合戦が頻発しているこの世界では、こういった利権があるだけでかなり優位に立てる。
なかなか狡いぞゼイン。しかも俺を使ったのがまた狡い。
国同士の繋がりを持ってる俺が動いている事で『俺が動かなきゃいけないほどヤバイ状態だった』ということは多分みんな分かっているだろう。
俺が大きく動くときは国家間の争いよりもマズイことを止めようとしている事が多いから。
他の国から「抜け駆けして狡い」と言われたら「白黒が動くくらい危険な事態になったから急いだ」とか言ってしまえば、納得はできなくとも理解は得られるだろう。
しかも俺自身、ちゃんと今回の件を各国に話しちゃってるしね! 思いっっきりゼインの思う壷だったのが半端じゃなく嫌だけども!
「……俺お前の依頼、受けるのやめよかな……」
「おいおい、それは勘弁してくれ」
まぁ、ウィルドーズが世界的にも大きな国家の一つである以上、関係断つのは無理だろうし……色々な事情があるから依頼を受けないという選択肢は実質ないんだけどね。
「そう不貞腐れるな。ブラックのお陰でここまで簡単に終息したのだ。情報屋としては更に箔が付くだろう」
「俺としちゃ情報屋としてではなく、友人としてお前に騙されたのがショックなんだけど」
「悪かった。今度いい菓子職人を紹介しよう」
こいつ、俺が砂糖でなんでも動くやつとでも思ってんのか。
半分その通りだが、俺には優秀な食事係がたくさんいるから職人はそんなに欲してない。
「……血」
「分かった分かった。そっちも並行してなるべく多く集めると約束しよう。加えて貸しにしてもいい」
「はぁ……次やったらマジで怒るぞ」
「そうならないよう努力しよう」
あっけらかんと笑う様を見ると、なんだかこっちの気が抜けてしまう。なんとなく仕方ないか、と思えてしまう。
だからゼインとの取引はあんまりしたくないんだ。なんでも許してしまいそうになる。
これをカリスマ性というんだろうな。
それから各国への情報配信などに追われ、事後処理に奔走して、気付けば二日が過ぎていた。
ソウル達から連絡はその間一度もない。
問題がないから連絡がこないのか、それとも……
いや、悪い方へ考えるのは止そう。あいつらならなんとかする。
だって俺の家族だ。自分でも無茶やってる自信がある俺についてきてこられる凄いやつらだ。
何があっても、絶対になんとかできる。だから俺は心配しない。
俺よりずっと、凄いやつらだから。




