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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百九十四日目 花火をひたすら打つだけのお仕事です

 花火撹乱作戦。名前があまりにもそのままだが、要するに街中で花火を大量に打ち上げる、ただそれだけのことだ。俺の貯めてある魔力の4分の1ほどを使って10分間、ただひたすらに花火を打つ。


 打ち込む量は、一度に百発を超える。


「行きますよ、ゴーグルと耳栓を忘れずに」


 用意していた火のルーンを空に打ち込み、拡散のルーンと金属を意味するルーンを重ねて上空で爆発させる。


 爆音と煙、鮮やかな光を放ちながら100を超える花火が空に咲いた。安全には気をつけているから中心部に突っ込んでいかない限り何か事故が起きることはないと思うけど、高度はギリギリで飛ばしている。


 何十、何百と連鎖して起こる爆音は、家の中ですらそれ以外が聞こえなくなるほどの大音量。火花もかなり眩しいためにずっと見ていると眩しさに目が追いつかなくなる。


 それを防ぐために全員耳栓とゴーグルをしている。耳栓はあまり性能が良いものではないから中途半端に音を遮断するくらいのものだが、何も聞こえなかったら緊急事態の連絡もできないからこれくらいで良い。ゴーグルの方はただのサングラスだ。


 俺の持っているユニーク装備、森羅万象みたいに多機能な訳ではなく、ただ色付きのガラスで前を塞いでいるだけだ。


 日が昇る少し前なので辺りはかなり薄暗く、この状態でサングラスをかけたら何にも見えなくなるのは当然だが、花火がバンバン上がってる中でははっきりと見渡せる。ちなみに俺は普通に自前の森羅万象使ってる。


 今向かっているのは城の最上階だ。螺旋階段を上がりつつ窓の外に花火を何度も追加していく。


「あとどれくらいだ?」

「今予定の3分の1くらい打ち込みました。終了まで6分ほどですね」


 常に百発光っていないといけないから結構大変だ。数秒おきに点火しないと間に合わない。


 しかも魔力がガンガン削られていく。節制のスキル使ってる状態でこの減りは、これまでで初めてかもしれない。少なくとも日記には書いてなかった。


 これで暴食を使わざるを得ない場面が来たら、俺餓死しないだろうか……


 階段を駆け上がりながら魔法を使うのは体力的に厳しいので、殿下の部下の人に背負ってもらいながら定期的に魔法を外に打ち込んでいく。


「もうすぐだ!」

「では最後行きます! 打ち終わったら30秒しか持ちません! そのうちになんとかしてください!」


 目指す扉の前まで来たので予備分含めたありったけの魔力を使って大量の花火を外に追加する。打った直後に爆発するものから、打ってから20秒後に発動するもの、近くのが爆発したら数秒後に発動するもの、と時間差で爆発するようになっている。全てに拡散のルーンを打ち込んで数も大幅に増やしておく。


 最初からこれをあげてれば螺旋階段おんぶして貰わなくても良かったのかも知れないけど、これかなり神経使うから正直あんまりやりたくない。


 直後、花火の爆発と共に扉が吹っ飛び、殿下が部屋に雪崩れ込んだ。花火を使った理由はこれが最も大きい。


 俺はともかく、他のメンバーは隠密に長けた人があまりいない。こっそり夜の城内に侵入して、なんて多分無理だ。守ることに関してプロである騎士の目を掻い潜って進めるとは到底思えない。


 だから大音量と光で俺たちの痕跡を最大限消せるこの方法を選んだ。ちなみに花火の魔法は途中からは町の各地に潜んでいるメイドも参加している。数発撃ったら痕跡を消して逃げろと命じてあるので、彼女らが捕まることはないだろう。


 殿下達が走っていった後、俺は何かあった時のために扉の外、つまり螺旋階段を見張る。ぶっちゃけここが一番楽そうだが、人が来たら確実に戦闘になるのでそうでもない。


 30秒後、外の花火の音が消えた。街全体に煙が漂っている。ゴーグルを使って街を見下ろしてみると、何事かと外に見に来た人で溢れかえっていた。


 部屋の中から緊急事態の連絡もこなかったので、一旦水筒の血を飲んでから軽く探知系の魔法を使ってみた。


 何があったのかの情報収集のために出てきた人たちは光と音で暫くは動けない。逆に閉じこもっていた人はあまり被害がないが、みんな好奇心からか外に出ていて無事な人はほとんどいないみたいだ。


 普通、こんな事態になったらもっと早く衛兵が動いてここまで辿り着けなかっただろうが、今回は防ぎようがない手段で目と耳を潰した。人が動き出す前の夜明けの時間というのも良い。爆音で起きて状況確認したらその後動けなくなるんだから。


 実は花火はゲーム内では『閃光弾』的な扱いだ。最初は綺麗だと思ってみていると視覚や聴覚にデバフがかかって数十秒まともにプレイできなくなる。


【花火って見るためのものなのに、なぜか見ちゃいけない仕様だから実装された時は結構荒れたらしいわよ】


 確かに、せっかく観れるのに花火をスルーってなんかやだな……


 とりあえずひとまず追っ手は大丈夫そうなので部屋に入ってどうなってるかを確認してみる。


 壁際にぐったりしている人が四人、全員動きやすさを重視した軽めの鎧と短剣を身につけている。作戦ではこの人たちを真っ先に眠らせるとのことだったが、上手くいったらしい。


 そして部屋の中央に立つ殿下の前。震えながら跪いている男が二人、なぜか全裸。


 この世界での『両手を上げろ!』ポーズである、両手を握りその拳を胸の前で付き合わせている。前は見えないから正確にはわからないが多分舌を噛んでいるだろう。手が使えなくとも口が自由なら魔法使えちゃうからね。


 それより何より、気になるのが……


「なんで全裸?」


 武装解除でもしてるんだろうか。俺のつぶやきを聞いて殿下がこちらに気付いたらしい。


「ああ、待たせたな。革命は終わった。こちらの勝ちだ」


 ……なんか、あっさり行きすぎてて怖いんだけど大丈夫?

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