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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百九十三日目 革命が始まる

 手を貸すのは主に俺とエルヴィンだ。ただ、エルヴィンはゼインについて行ってこの国の代表者と面識がある。


 まだ面の割れていない俺が行くのが『ベター』だ。


 汎用性の高い戦い方ができるキリカや、単純に強いライトあたりに行ってもらうのが最善ではあるんだけど、今回その二人は動かせない。最悪の事態を想定してライトもソウルも呼び戻せないし、キリカと俺の立ち位置を入れ換えて、もしゼインが襲われたら。


 今の俺がゼインとレクスを守りきれる自信はない。


 魔法はまだある程度使えるが、街中で大魔法乱射とか絶対被害が出る。守る系の魔法は不得手だし……


 正直、防護系の魔法覚えるより自分の体で受けた方が圧倒的に防御力高かったから、必要性を感じたことがなかったんだよね……


 俺は今回デュース殿下に付き添って直接権力者を狙いに行く。エルヴィンはエンセルーラの機械を壊し、撹乱する役目だ。


 エルヴィンがこの国で誰にも知られていないってなら、城にはエルヴィンに行ってもらったかもしれないけど。


 とりあえず俺は年齢どころか性別すら詐称して仕事してるから、多少派手に動いても「誰あいつ?」となる可能性が高い。


 そもそも今の俺の体はいつものじゃないしね。


「行くぞ」

「はい」


 殿下が小さな民家の鍵を開けて中に入る。後ろに続いて入ると、部屋の違和感に気づいた。


「……人が住んでいるとは思えない家ですね」

「何故気付いた? 一応それらしき偽装はしているつもりだが」


 殿下が先頭を歩きつつ聞いてきた。


「確かに、家具やお皿などが並んでいて生活感がある……風な感じはしますが。暖炉には煤一つ見当たらず、普段使うはずのソファやベッドにうっすら埃が溜まっています。普段から暮らしているのなら、どこで寝ているのかという疑問が湧きますね」

「ああ、そんな視点はなかったな。とりあえず住んでいる風を装う為だけに作ったものでな。参考になる」


 殿下が本棚から数冊の本を抜き出して、本棚の奥をいじるとカチリと何かが嵌った音がした。


 そのままそこから手を離し、ソファを動かしてカーペットを捲ると、そこだけ木の板の色味がほんのり違う。


 数度にわけて特徴的なリズムで床を叩くと床板がほんの少し浮き上がった。


「厳重なものですね」

「隠し通路が見つかっては元も子もないからな。ダミーのものもいくつか仕掛けてあるから周りにあるものは無闇に触らない方がいいぞ」


 本棚の奥のスイッチを押すと本棚が回転する仕組みだが、回転させて奥の小部屋に行ってしまうとガッチガチに外から鍵をかけられて逃げられなくなるらしい。本棚の後に床板を探す必要があるので、トリックを見つけたと喜んだ時点で負けが決まるという実に嫌らしい仕掛けだ。


 今回はそれに助けられるわけだが。


 隠し通路を進んでいくと、開けた空間に出た。壁が円形で、壁にはいくつかの扉がついている。中央には木製の大きな机とそれを取り囲む簡易的な椅子がいくつも並んでいた。


 椅子には十数名の男女が座っている。男女比は8:2くらいだろうか。


 この場にいる人たちは共犯者だ。革命軍の主要人物、幹部と言っていい。


 ちなみに俺は手を貸すだけなので主要メンバーには入らない。


 デュース殿下がこっちをチラリと見てきたので、軽く頷く。それを確認した殿下が椅子に座っている幹部たちに向かって声を出した。


「皆、ご苦労だった。今日まで辛く苦しい日々を過ごしてきたことだろう。だがそれも、我々の手で断ち切る時が来た。やっと……ようやく、だ。志半ばで倒れた仲間のためにも、我らは正義を執行しなければならない。我らは、腐ったこの国を内側から変えるのだ!」


 幹部たちは一斉に立ち上がって跪いた。泣いている人もいる。


 なんか、聞いた話によると10年近く練ってきた計画らしいから、感慨深くもなるだろう。


 これからが一番大変なんだけどね。盛り下がることは言わないけどさ。こんな時はハイテンションでいられるのなら、そっちの方がいい。


「行くぞ!」


 全員が一斉に立ち上がった。俺は持っている通信機でエルヴィンに一方通行の通信を飛ばした。


『作戦開始だ』


 直後に通信機を叩き壊して双方の連絡を断つ。向こうでも叩き壊しているはずだ。


 通信機を壊す理由はいくつかあるが、単純に傍受でもされて【白黒の情報屋】が関与していると確固たる証拠を握られると困るため。


 追跡も振り払うためには最初からぶっ壊してしまった方が楽で確実だ。


 もったいないけどね。もっったいないけどね! これめっちゃ高いから!


 安全には変えられない。ちなみに緊急事態が起こった場合はそれ専用の通信機を別で渡してある。が、極力使わない方向で行く。細かなところで楽をすると全体の歯車が狂うことなんて良くある話だ。


「どうだ」

「はい。ひり付く感じがないです。確実に消えました」


 この国は他国からの侵入を防ぐためにガッチガチの防御を魔法で張っている。俺でも破るのは苦労するくらいのものだ。外からは魔法や物理攻撃を防ぎ、内部にも強力な魔法が使えないような縛りをつける。


 内部の効果は簡単な荷運びに必要な魔法だったりは阻害されないけど、大型の殲滅魔法あたりは威力がガタ落ちする。


 ただ、その代わりに維持費も半端じゃない。


 その問題は例のエンセルーラ湾の機械からくるエネルギーで補っていた。


 今回の作戦、第一段階はエルヴィンによる機械の破壊。その後備蓄してある魔力に切り替わるタイミングを見計らって殿下のお仲間が防御魔法を展開している魔法局に忍び込み、魔法の発動を妨害、停止させる。


 そして今、防御魔法が切れた。つまり第一段階は成功した。


 ここからは俺の仕事だ。


「第二段階、花火撹乱作戦。開始します」

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