二百九十一日目 どうやら革命が起きるらしい
デュース殿下の名前をがっつり間違えておりました……
直前まで『無気力超能力者』の方を書いていたので完全に名前が混同しておりました……申し訳ありません。
おっさんから連絡先を受け取り、1分ほど歩いたところで何かが近付いてくる音が聞こえた。
今進んでいる方から地鳴りに近い音を立てて何かが大移動している。
どっかの貴族が馬車で移動してるのか? 護衛の人たちも一斉に移動している、とかならこんな感じの音がするし。
とりあえず道の端に寄っておこう。
……? 馬車の車輪の音じゃなくて……人の足音?
不思議に思った時には目の前にメイドの大集団が迫ってきていた。一糸乱れぬ動きで俺の前で急制動をかけて等間隔に並んだ。そして残像が見えるくらいの速さで頭を下げる。
「マスター! 申し訳ありませんでした!」
「この二人に任せた私たちの責任でもあります! 本当に申し訳ありません!」
この地響き、君たちの全力疾走の足音だったんだね……
多分この街に滞在しているメイド全員がここにいる。
二人が俺を置き去りにしていることに気付いたのが家着いてからだったのかな。
それで多分皆に怒られて全員で俺のこと探しにきたんだと思う。
「ああ、いや、ユリアとジーナを連れてくって言ったの俺だし。文句なら俺に言ってくれ。今回の件、二人は落ち度ないから処罰を与えることは許さないよ」
「……御心のままに」
メイドの大移動にそこらの視線を集めまくっている。さっさと帰るべきだな。
「とりあえず帰ろうか。心配かけてごめん。色々解決したから問題ない」
「はい」
帰る途中でユリアとジーナがしょんぼりした様子で最後尾にいたことがなんかゴメンって感じ。
俺の足が遅いってことを全員が忘れていたからこそ起きた事故だし、彼女たちに責任はない。それで他のメイド達に怒られてるんだから全部俺のせいなんだよなぁ……本当に申し訳ない。
「皆居るってことはゼイン達はどうなってんの?」
「ゼイン陛下とレクス殿下、お付きの方は会談へ向かわれました」
「ああ、やっぱりそうか。じゃあ今家にいるのはエルヴィンだけ?」
「いえ、エルヴィン様もご同行されたはずです。今はピネ様だけがお残りになっています」
ピネが留守番って……まぁ、妥当か。そこそこ強いから大丈夫だと思う。
エルヴィンやライト、ソウルに比べたら瞬殺されちゃうレベルではあるけどね。中級だから。上級上位のライトやゲーム時間のほぼ全てを魔法職育成に注ぎ込んできたソウルには全く歯が立たない。
うちのメイドと比較しても、ユリアとジーナには負けちゃうかもね。遠距離攻撃だけをチクチク打っていけば上手く行けば勝てるってくらいか。キリカには絶対勝てないと思うけど。
メイドの平均よりは強い、くらいかな。少なくとも平均には達していると思う。
別に辛口の評価してるってわけじゃなくて、実際こんな感じだと思う。ピネみたいな精霊の強みって単体で戦うとなるとかなり薄れてしまう。俺みたいな近接戦闘タイプの支援に回るとかなり強いんだけどね。
流石に幻霧みたいに単体で強いって存在だと上級の中位以上じゃないとキツかったりする。
俺が上級の精霊と契約結ぶなんて夢のまた夢だけどね。ピネとだって契約できたの奇跡だったし。
「………マスター、お家の前にどなたかいらっしゃっています。お心当たりは?」
「いや……ちょっと待って。今確認する」
視力が今の俺より遥かにいいからか、家の前に誰かいることに気付いたらしい。俺は全く見えてないけどね。
家に配置しているアニマルゴーレム(虫タイプ)を操作してこっそり来客を確認する。面倒そうな相手だったら一旦留守を使おうかと思う。
実際留守にしてるしね。このまま回れ右して別ルートで大回りして家に帰ればいい。
「この人……デュース殿下だ」
「殿下? この国のでございますか?」
「ああ。仕方ない、無視したらより面倒なことになりそうだ。対応する」
一度は拉致された身としてはあまり関わりたくない相手だ。
だが、ゼインには遠回しに『手助けできるならしてくれ』と言われている。この国に交渉しにきてるんだから要人と友好関係は繋ぎたいってところかな。
いや、ゼインのことだから革命の動きも知っていての言葉なのかもしれないけど。
家に到着するとお付きの人も付けずに国の重要人物がドアの前に仁王立ちしていた。
「どこに行っていた?」
「少々情報収集に。それよりもお越しになるのならご連絡をしていただきたいのですが」
「そうか。それは済まなかったな。では話をしようか」
全然悪びれてないよこの人……もうどうでも良いけどさ。どちらにせよ家の前まで来ちゃってるし、今更追い返せない。
家の中に入ってメイド達がそれぞれ仕事にかかり始めた時には、デュース殿下は遠慮もなく椅子に座って俺も正面に座れと伝えてきた。
俺の家なんですけど?
「それで、進展はあったか?」
「……一応、五大国の耳には入れました。が、動くかどうかはまだ聞いていないです」
「それじゃあ少し遅いかもな」
デュース殿下は眉間のシワを増やして歯噛みしている。
遅いと言われてもこれ以上早くは無理だと思う。各国動くのにも時間がかかるから、俺たちみたいに依頼を受けてすぐに出発、なんてフットワークの軽いことはできない。
この国の革命を止めるも推進するも決めるのは更に先の話だ。それにそんなすぐに革命を起こす必要はまだないと思うんだけど。
「遅い、ですか?」
「正直なところ、明日にでも実行に移したい。……ここは防音魔法は?」
「可能な限り防諜や監視を防ぐ魔法はかけていますよ。それこそスフィア・ルルスさんでも破るのは難しいくらいのものです」
「それは信頼性が高そうだ」
ならば良い、と頷いて、それでも大きな声で話すことは危険だと思ったのか小声で耳打ちしてきた。
「実は、兄上が殺されたのだ。恐らく近い内にこちらもやられる。なんとかして王座を早いところ奪いたい」
本当に凄い事になってきたぞ……というか、そんな今現在殺人事件が起こってるところにゼイン達行ってるのか……。
エルヴィンも幻霧も居るし、大丈夫だとは思うけど……。




