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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百九十日目 謎の追いかけっこ

 薬をぶっかけられて目が覚めたらしいおっさんは、俺の方を見てサッと青ざめた。


「す、すまなかった! つい、飲み過ぎて……!」


 ああ、うん。とりあえず起きたのなら良かったよ。ただ、明日は辛いだろうが我慢してくれ。


「いえ、特に被害もありませんし大丈夫ですよ」


 面倒臭そうだったのは確かだが、起きて尚面倒な人じゃなさそうなので良いかな。


 これで目を覚ましても突っかかってくるのなら真面目に実力行使に動かなきゃならないからね。


「本当にすまない! ……っううう」


 ぇえええええええ……おっさんガチ泣きしてる……


 道のど真ん中で膝ついてガチ泣きしてるおっさんと、その目の前にいる俺とメイド二人……絵面がやばくて人目を引き過ぎてる。


 とりあえずここから離れたい。


「ええっと。それじゃ俺たち行きますね……」

「ま、待ってくれ! 迷惑をかけた詫びくらいさせてくれ」

「いやもう謝っていただけただけで十分ですから」

「それではこちらの面子が!」


 メンツならガチ泣きしてる時点でもうどうしようもないと思うよ。


 っていうか、本当にどうでも良いっていうか、正直関わりたくないっていうか。


 この人予想外な方向で面倒な人だ!


 後ろ二人にアイコンタクトを取ると、二人が頷いた。


 流石わかってる!


「いや本当にいいんで! それじゃ!」


 おっさんを引き剥がして全力で走る! 二人は俺より先に走り出している。


 全力疾走……してるはずなんだが、やけに遅い。俺が。


 どんどん二人に引き離されていくし、異様に呼吸が苦しい。


 なんでだ? ……ぁあ、俺いま日本の中高生並みの体力だわ……


 運動は多分得意だったと思うから、学生の平均よりは速いとは思うが、選手でもないただの学生。


 超人集団と名高いウチのメイド軍団には到底追いつけない。


「ちょ、待って……俺、今全然走れない……!」


 ちょっと二人とも俺より先に走り出してるから絶対追いつけないっていうか、あの二人俺が弱体化してること完全に忘れてるだろ!


 呼吸が乱れる。1分も走ってないのに全力疾走だと、もう限界が近い。


 もしかして追ってきてないかも、と思ってチラッと振り返ってみたら、おっさんも全力疾走してた。しかも以外に速い。


 結構距離があるからいいけど、このままだと追いつかれる。


「なんで、こんな街中で、おっさんと。追いかけっこせにゃならんのだ……」


 息が続かない。完全にペース配分をミスった。普段の感覚で動いてるから体が動かないことに気づいた時には遅すぎる。


 ただでさえ貧血になりやすいのに、急に運動したらこうなるわな!


 石畳の隙間に足を取られて思いっきりつんのめる。


「やべっ……!」


 受け身も間に合わない。ぎゅっと目を瞑って衝撃に耐える体勢をとるしかない。


 目を瞑って数秒後、何故か来ない痛みにそっと目を開けると体が宙に浮いていた。


「飛行魔法……じゃない、風魔法の一種か……?」


 息を整えながら不思議に思っていると、ふわりと地面に降ろされた。


 後ろからおっさんがフラフラになりながらも走ってきて、


「ゼェ、ゼェ……な、なんで逃げるんだい?」


 と聞いてきたので、正直に、


「面倒そうな気配がしたからです」


 と答えた。


 おっさんはショックを受けた表情で、ゼェゼェ言いつつもまた目の端に涙を浮かべている。


 うん。ごめん。俺が言い過ぎたかもしれん。


「だからって逃げなくても」

「あそこに居ても食い下がってきそうだと思ったので……」

「それにしては使用人の二人は君を置いて逃げているけど」

「ああ、まぁ……それはしょうがないって言うか、なんというか。あの二人は悪くないんで」


 二人とも俺が普段通りに動けると思って全力で走ったんだろうなぁ。俺もそう思ってたよ。走る前に気づくべきだった。


 多分まだ俺が追いつけてないことに気付けてないと思う。


 俺が普通に走ったら二人とは勝負にならないくらいの速度差が出るし、俺が先回りして帰ってるかもとか思ってるかもな。


 これで家まで帰ってたら他のメイドに怒られるんだろうな、あの二人。「なんの為にあなた達をつけたと思っているのですか!」とか言われてそう。


 俺が悪いんで二人は許してやってくださいって言っとかないと。


「転びそうになったの助けてくださって、ありがとうございます。これで貸し借りなしですね。では」

「へ?」


 さらっとおっさんを置いて行こうとしたら腕を掴まれた。


「いやいやいや、なんのために君を追いかけてきたと?」

「申し訳ないと思って、謝りに来たんでしょう? 今のこれで全部チャラですから何も気にしていただかなくて大丈夫です」

「そ、それは……」


 確かにそうかも、とか思ってそうだな。それでいいよ。俺はもう帰りたい。


 さっさと歩き出すと複雑そうな顔をしてるおっさんが、ふと何かを思い出したのか懐からメモ帳とペンみたいな物を取り出し、走り書きをしている。


 その後メモを破いて押し付けてきた。


「これ、連絡先だから。何か困りごとあったら、ここに」

「あー……はい。わかりました。もらっておきます」


 断ってもさらに押し問答になりそうなので受け取ることにした。


 でも、困りごとがあったら、とか言ってるけどこの人仕事なくなったから呑んだくれてたんだよね?


 貴方の方が困ってそうですね。ってすごい言いたかったけど泣かれても困るから言わない。

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