二百八十九日目 レッドスピネルっぽいやつ
薬を作ると取り掛かってからのスフィアさんとローレンスさんの手際はすごかった。
ウチの薬製作部にも見てもらえばよかったな、と後で後悔した。
多分この世界特有の技術やローレンスさん自身が作ったらしき方法が使われてて、一部何やってるのかよくわかんなかったけど。
でも所々薬学系の職業のスキルとかも使ってたりしたから、俺も頑張れば真似できそうな気はする。
ただ、それこそ頑張らなきゃ無理だから、習得まで下手すると数年かかりそう。
三時間半ほどかかって出来たのは赤い……小指の先ほどの宝石だった。
赤い宝石といえばルビーとかガーネットが有名だけど、俺の知っている宝石で例えるのならレッドスピネルっぽい、かなぁ……?
俺もあんまり宝石詳しくないけど、一応鉱山持ってるしね。ドラゴンの餌場用の。
色が濃いけど、透明感が強い。光が当たると真っ赤に見えて、影に入ると急にワインレッドっぽくなる。
持ってみると、意外と軽い。大きさも小さいからかもしれないけど、それにしてもとても軽い。
これくらいの石なら、もう少しずっしりしててもおかしくないと思う。
「これを肌身離さず持ってて」
「え? それでいいんですか?」
「うん。これでいいと思うよ。治ったら教えてね」
なんか……すごいアッサリ。これでいいの? って思っちゃうよね。
一応確認してみたら収納じゃなくて普通に身につければいいみたい。
収納に入れてもいいかもしれないけど、この能力の本質が『異空間と体を繋げられる』なのか『異空間を体の中に持っている』なのかわからない以上、収納に入れたところで無意味になってしまうかもというリスクを少しでも避けた結果だ。
ちょっとわかりにくいけど『体の外にある冷蔵庫を手で開けてものを出してる』って考えるか『体の中にある冷蔵庫をなんかこう頑張ってものを出してる』って考えるかの違いで。
前者だったらかなり分かりやすいし、原理もわかるんだけど。後者の場合だった時が問題なんだよね。
だって俺どうやって物出してるか全くわかんないんだもん。なんか「出すぞ」って思ったらなんとなく出せるって感じで。
どうやって音を聞いてるんですか、とか、どうやって呼吸してるんですか、とか聞かれてもどこをどう動かすかとか意識しないからわかんない様に、正直「できるからやってる」感じ。
それに関して「どうやってるの?」って聞かれても困る。だから原理もよくわからない訳で、よくわからないものには頼らない方がいいよねって話になって収納には入れないって事になった。
俺もよくわかんない。けど常に持ち歩く必要があるらしいというのは分かったから一旦紐で巻きつけて首に下げてる。効果はまだよくわかんないです。効果が出るとしても後何日か掛かるかもって言われた。
ひとまずちょっと脳筋な二人のメイドがそろそろ限界みたいだったから礼を言って帰路につく事にした。
「何かあったら連絡してね。それじゃあ、気をつけてね」
「はい。ありがとうございます。ではまた」
スフィアさんとローレンスさんに手を振ってゆっくりと歩いて帰る。道中後ろから腹の音がした(どっちとは言わない)ので露店で適当に肉串を買ってから食べ歩きをする。
行儀は悪いかもしれんが、俺はこんな感じのことするの結構好き。貴族街でもないし、食べ歩きくらい文句言われないでしょ。
まぁ、俺は正直串4分の一でギブアップだから大半は二人に任せたけどね。
それにしても、この国は魔法使いを優遇しているだけあって生活水準が非常に高い。魔法使いが多い国ってそれだけインフラが発展してるからね。
道は綺麗だし、浮浪児とかも少ない。この国はスラムがないんだ。
というのも、魔法の才能がない人というのは追い出されてしまうし、魔法が使えればそこそこの仕事は見つかる。
出来ない人を排除する事によって完璧に近くなってる国って、国としては正しいのかもしれないけど……なんかちょっと寂しいよね。排除された側はたまったものじゃないし。
そんなことを考えつつボケっと歩いていたら、俺の間抜け面に反応した人がいた。
俺の格好から何やらで完全にこの国の人じゃないというのは見てわかる(服はスフィアさんのものだけどね!)からお上りさんの観光客か何かだと思われたのかもしれない。
ちょっと寂れた区域で酔っ払ったおっさんに絡まれた。
「マスター、どうされますか?」
「とりあえず武器に手をかけるのは一旦待って。話し合いで済ませられるのならなんとかしたいから」
絡まれた、というかめっちゃ因縁つけられた。俺なにもしてないのに何で?
曰く「俺が職なしになったのはお前のせいだ」的な内容だ。いや……関係あるんかないんか微妙なライン。
俺がこの人の職場を潰してたりしたら有り得る。けどそんな事したかも、よくわからん。
ただ、かなりタチの悪い酔い方をしてるのは間違いなさそうなので、酔いだけをとりあえずなんとかしてあげよう。
収納からコソッと小さな瓶を取り出し、蓋を開けて相手にぶっかけた。
「ゎぶっ!?」
顔面から瓶の中身を浴びたおっさんはフラつきつつも顔を拭い、
「……ぁれ……?」
キョロキョロと周りを見回し始めた。どうやら夢から醒めたらしい。
「マスター、それ凄いっすね」
「ああ、うん。試作段階ではあるんだけど。ただこれ若干明日の二日酔いが酷くなるっていう副作用もあるから……あんまり使わない方がいいかなって思ったけどね」
おっさんが面倒くさそうだったから使っちゃった。ごめんね明日のおっさん。きっと頭痛と吐き気に襲われるであろう。




