二百八十八日目 この人かなり天才
全体的にごちゃごちゃした部屋でスフィアさんを待っていると、一人の男性を連れてきた。
淡い紫色の髪で目鼻立ちが整っている。……ゼインやソウルほどじゃないけど。背は高いが、すらっとしている、と言うよりヒョロっとしてる。あんまり鍛えてる感じはない。よく見ると首元や腕に鱗がある。
「ほらロジー、部屋を片付けて」
「あ、すみません……僕しか使ってないんで、ぐちゃぐちゃのままで……」
この人が件のロジーさんか。
「えっと、はじめまして、ですかね? 自分はブランと言います」
「ああ、あなたが……? 思っていたより、お若いんですね」
「まぁ……今はそうですね……」
見た感じ子供であることは否めない。
俺自身、鏡見て「うわ、ガキっぽい」って思うもん。
「あ、その、ごめんなさい、挨拶してもらったのに。僕、先月からここで働いているローレンス・ジーンです」
「ローレンスさんですね。すみません、研究の邪魔をしてしまい」
「あ、いえ、先生のお友達、なんですよね? 全然、気にしないでください。すぐに片付けますから」
ローレンスさんは言うが早いがすぐに片付けに取り掛かる。
こっちの都合で動かしてもらうものだから手伝いたかったんだけど、俺も見たことのない機材や薬品だらけで、取っ手がどこなのかもわからないから手は出さない方がいいと判断した。
正直、楽器とかもそうだけど『あんまり触っちゃいけない場所』ってあるよね。
リング掴むとチューニング変わったりとか、構造上脆いから持っちゃいけない所とか。そういった例があるから下手に素人は手伝わない方がいい。
ものすごい量だから運ぶの大変そうだし手伝いたいけど。
でもかなり手際がいい。出しては片付けるって行為に慣れてるんだろうね。
「スー。なんでロジーさんなんです?」
略し方変じゃない?
「え? そう? 名前と家名の最初の音を取っただけだよ」
「あ、そうなんだ……」
ローレンス・ジーンだからって理由か……特に意味はなかったらしいね。
俺がなんでこんな質問をしたかと言うと、ここから少し離れた国にいる弓の名手の名前がロジーだからだ。
多分関係はないとは思ってたけど、世界的に有名な射手だからちょっと気になった。それに、噂だとそのロジーっていう射手は竜人族って話だし。
ちらっと鱗が見えたから、まさかとは思いつつ確認したかった。そんだけ。
多分蜥蜴系の獣人と人族のハーフあたりだろう。
「彼の専門って? 見たことがない機材が多いです」
「あ、ブランちゃんは薬学は専門外だったかな? でも治癒系の薬作ってたよね?」
「これ薬学の研究材料ですか?」
多少薬は作れるからある程度新しい薬の作り方とかも調べてるはずなんだけど……ここにある物はほとんど知らない物ばかりだ。
「そう。薬学とは言っても、毒や解毒薬の方だけど。鉱物由来のものを専門にしてるよ」
「鉱物は……あまり詳しくないですが。それにしてもこんなに知らない物がたくさんあるとは」
あんまり知らないとはいえ、俺は一応情報屋だ。これだけの機材があってほとんどを知らないって、中々ない。
「あ、えっと、その……ここにある機材は、僕の自作で……」
「これを、自作?」
「あ、はい……」
近くに置いてあったパイプが何本も繋がっている機械をみる。
これ、本当に自作? クオリティ高すぎてびっくりなんだけど。
一台だけでも俺のアニマルドローンより価値があるかも。
俺のアニマルドローンはこの世界より外の、ゲームの世界の知識が多分に含まれている。
この世界では失われていたり、まだ未発見だったり、扱いが異常に難しかったりする技術を結構突っ込んでいる。
だからオーバーテクノロジーすぎる代物で、家族にすらほとんど貸し出してないんだけど。
それよりも凄い発明かも。
「これ、何をする機械ですか?」
「あ、それは、鉱石の中にある成分だけを抽出する、やつで……魔法鉱石を主に作ってます」
鉱石の成分だけを抽出する方法を実行するには、かなりレアなスキルが必要になる。魔力も大量に使うし、効率もそんなに良くないんだけどね。
だから正直鉱石から抽出するより普通に鉱山で採掘した方が楽だったりする。
でもそれがこれで出来るとなれば、市場が大きく変化するかもしれない。
「凄いですね……これ世間に公表するつもりとかってあるんですか?」
「あ、いや……考えたこと、なかったです」
天才っぽい発言だなぁ。しかも機材はこれだけじゃない。
そこそこの研究機関に売ればボロ儲けできるとは思うけど、本人がお金に困ってないならこのままでも良いかもしれないな。
さっきも言ったけど、ちょっとオーバーテクノロジー気味だしね。
「あ、その、お待たせ、しました」
「うん、片付けてくれてありがと。さぁブランちゃん、持ってきたものを出してくれるかな?」
片付いた机の上に頼まれたメモのものを次々と出していく。
ローレンスさんに俺の収納見られたけど、スフィアさんの家の人なら大丈夫だよね。
全部出し終わった頃には机の上はパンパンになっていた。もう載せるとこない。
「それで、これを何に使うんですか?」
「お薬を作るのに使うよ。良かったら見ていく?」
「はい、是非」
俺が頷くと後ろの二人が若干嫌そうな雰囲気を醸し出した。二人は体動かしたいタイプだから待ってるの辛いんだろうね。もうちょっと我慢してもらっていいだろうか。あと四時間くらいは。




