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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百八十七日目 意外とせっかち

 ジーナとユリアの二人を連れてスフィアさんの家へ向かう。


「マスター、歩くより屋根の上を走った方が早く着くと思うっす」

「あー……まぁ、気持ちはわかるが……別に急いでるわけじゃないし、屋根って案外脆かったりするから下手に上がるべきじゃないよ。目立つしね」

「………」


 ジーナの喋り方ってどう聞いても下っ端のテンプレートなんだよな……そしてユリアは喋んないし。


 ユリアがちゃんと喋ってるのあんまり見たこと無い。ジーナはお喋りだから余計に真逆っぷりが目立つ。


 ちなみにジーナは元盗賊、ユリアは元商人の娘だ。


 ジーナの場合は親が盗賊やってて、その親から逃げてきたところを俺が匿った形になる。素性をしっかり調べられでもすれば投獄されかねない境遇だったから、色々と手を回してその事実を隠した。時には嘘も必要だよね。


 こうでもしなきゃ、ジーナは盗賊になるか犯罪奴隷になるしか無いんだから、これが一番いい選択だと思う。


 多少世間を欺いても、彼女自身何もしていないのなら罪なんて被らせるべきじゃない。


 ユリアの場合は何世代か前にそこそこ力のあった商人の子孫だ。


 昔は特定の魔法具とかを専門に販売していて需要もあったらしいんだけど、ここ数年はもっと効率のいい道具が開発されたりしてずっと赤字続き。


 ユリアは家をなんとか立て直すためにと政略結婚させられそうになっていた。


 結婚直前に俺がお相手の婚約者を社会的に潰したから破談になったけども。


 いや、悪気はなかった……と言うのは語弊があるが。土地持ちの男爵が自分の土地で半端じゃない規模の賭博場作ってたら、そりゃ、潰すしかないよね……。


 賭博はデカイ金が動くから国の承認を取らなきゃいけないという法律がある。賭けられる金額の上限なんかも決まっていて、ギャンブル依存者を可能な限り出さないようにする工夫はしてある。


 まぁ、無くすことは多分できないけどね。方々から大ブーイングどころじゃないだろうし。


 それでも規制はあるから、それを大きく逸脱した賭博場は国が潰しにかかることが多い。


 俺は一応国王直轄の貴族的立ち位置だから、情報の仕入れから取り壊しまでをやる事がある。ユリアの婚約者の件はまさにそれだった。


 勿論俺だけの情報で男爵家潰すとか、そんな危険な体制じゃないよ? 俺が見つけたのは事実だけど、ちゃんと報告して確かめてもらってから後片付けしただけだから。


 そこまで国の機能はガバガバじゃない。俺の偽物でも現れて大混乱になったら最悪だし、俺の情報も彼らは鵜呑みにはしない。俺も毎度確認してもらうようにしてるし。


 まぁ、そんなわけで俺が潰しちゃった縁談のことでユリアの家はヤバイことになって、口減らしでユリアは家から追い出された。奴隷商に売られなかっただけマシかもしれないけど、それでも結構大変な事態だ。


 その時にユリアのことをキリカが見つけてきて、うちに連れてきたのが最初だ。


 ……こう考えると、キリカが拾ってきたメイドってかなり多いんだよな。三分の一くらいはキリカが連れてきたんじゃないのかな?


 俺が直接雇ったのはキリカ含めた最初のメンバーだけだし。


「ジーナ、ユリア。これからスフィアさんに会うから、なるべくお行儀よく頼むよ」

「うっす」

「………」


 ユリアは無言で頷いている。


 お行儀よく、とか言ってるけど、彼女ら俺の一つ下なんだよね。ちょっと子供扱いし過ぎかもしれんけど、こうでも言っておかないと二人は暴走する可能性がある。……今の俺の背格好じゃ俺の方がかなり年下っぽいけど。


 今の俺は多分中学生とか、下手したら小学生に間違われるレベル。


 もう19なのに。そこそこ大人よ? 街で買い物する時にオマケで飴とか貰っても何か複雑なんだが。


 二人がなんか気を引き締めたのを雰囲気で感じながら呼び鈴を鳴らす。


 可愛らしいベルの音が鳴った数秒後に扉が開いた。


「ブランちゃん、おはよう」

「お、おはようございます」


 あまりに急に扉が開くもんだからかなり驚いた。もしかして扉の前で待機してたんじゃないだろうか。


「今日来てくれたのって、材料が揃ったからでしょう?」

「はい。結構量があるのでどこかに置きたいんですが」

「こっち、付いてきて」


 スフィアさんに案内されて入ったのは広々とした実験スペースだ。いくつかの机や木で作られた的が並んでいる。スフィアさんは攻撃魔法の開発者だから、ここで新しい魔法の試し打ちをするらしい。


 空間を広げる魔法を使っているからか、見た目より中はずっと広くなっている。


「さぁ、机の上に出して」

「えっと、どの机ですか?」

「どれでもいいよ」

「どれも乗せる場所がないんですが……」


 机はいくつかあるんだけど。全部その上に何かの機材やら本やらが積み上がっていて乗せる場所がまるでない。


「えっ? そんなに汚いの?」

「汚いというか……ごちゃごちゃしてると言うか……片付いてないというか」


 スフィアさん、目が見えないからこの惨状はわからないらしい。


「多分ロジーのものだと思う。片付けさせるからちょっと待っててね」

「あ、はい。こっちは手伝ってもらってる身なんで……」


 こっちが話し終える前にスフィアさんはどこかに走っていった。結構せっかちなんだよね……


 それより、ロジーって誰……? その名前初耳だけど、その人のことも何も教えてくれんかった……。

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