二百八十三日目 危険な感じがする
遅れました。申し訳ありません。
状況的に幻霧の天使なんだろうけど、一応レクスに確認をとる。
「レクス、後ろの天使って……?」
「メーアだ。喜べブラック! 幻霧の天使と仮契約したぞ!」
「ああ、うん……スゴイネ」
これはちょっと危険か……?
別に契約自体は悪い事じゃない。俺がよく悪魔適当に呼び出して契約してるのと同じで、仮契約ならそこまで代償も多くはない。が、
「名前って、レクスがつけたのか?」
「? ああ、そうだ。何か問題があったか?」
おっとぉ……こりゃ目をつけられたかな。
悪魔や天使、精霊、魔獣や霊獣にとって『名前』とは特別な意味を持つ。
ライトやレイジュ、ピネを見て貰えばわかると思うが、基本『名付けられた』場合はその人の専属になるという意思を持っているとされる。
実はライト達は俺と本契約しているが、やろうと思えば俺の専属契約を無視して他の人と契約を結べる。
俺も何人も同時に別の悪魔と仮契約したりするから、おあいこだとは思ってるけど。
だが名前をつけるとなると格段に名無しとの差が広がる。互いが互いを意識せざるを得なくなってくる。
ただのその時限りの関係じゃ済まない可能性が高くなるんだ。
今回の場合、レクスは相手がどんな性格なのかとかを考えずに、かなり本契約に近い仮契約を結んできてしまった。
これ、幻霧がいい人だったら全部解決だけど絶対そんな事ないからヤバイ。
だって俺、天使にいい思い出ないもん。
ちらっと幻霧を確認すると、あからさまにちょっと嫌な顔をされた。
……少しだけ、ちょっとだけだけどイラっとしたよ。初対面の相手にその顔何。
「……どうも、メーアさん。ブランです」
「……そう。どうも」
「「………」」
どうしよう。こっちも黙っといてなんだけど結構険悪だぞ俺ら。
「メーア。中に入ろう。この家は快適だぞ」
「ええ、そうね。そうさせてもらうわ」
幻霧のイントネーションはほぼ一定で、基本的に表情の変化がほとんどない。俺を見るときはなんか嫌そうだけどな!
あまり笑わない美人……反応がエヴァ○ゲリオンの青髪の女の子みたいだと思ったのは多分俺だけだ。ここにその話通じるソウルいないし。
……あれ? なんでそんな事覚えてるんだ俺? 日本でのことなんて殆ど思い出せないのに……アニメ映画だけはっきり覚えてるっておかしくない?
なんか忘れることには法則性があるんだろうか……
あったとしても、何を忘れてるかを覚えてないからわかんないんだけど。
とか色々考えてたら勝手にレクスと幻霧は家に入っていった。一応ここ、お前の家じゃなくて俺の家だけどな。
幻霧の後を追って中に入ろうとしたらスベンさんがグイッと入ってきた。
……すみません、スベンさんが一緒に行ってくれたこと忘れて扉閉めようとしました。
スベンさんを閉め出す一歩手前で気付いて彼を中に入れてから俺もリビングに向かう。
客室とかに案内する方がいいのかと思ったけどレクスが勝手に幻霧連れてリビング入ってったから、もうどうにもならなかった。
幻霧はソファに座ってこっちを確認した後、軽く嫌そうな顔をして机の上の紅茶を飲んだ。
その態度にうちのメイドが数人引き攣った笑みを浮かべたが、俺が視線を向けたらその後は何もしなかった。
多分これ俺が止めなきゃそのうち誰かが失礼だなんだって声を上げる気がする。
自惚れとかじゃなく彼女らの中では天使より俺が上位だろうから、多分怒り出すと思う。
それで関係悪くしたくないし、これでいい。
でもライトがいないのは不幸中の幸いだったかな。多分居たら絶対喧嘩になってる。普段隠してはいるけどライト誰よりも血の気が多いから。
リビングに急に入ってきた天使とレクスに驚きながら、ゼインとエルヴィンがそれぞれの盤から目を離す。
そしてゼインがゆっくり口を開いた。
「レクス、聞いていいか? 何がどうしてそうなった?」
将棋の次の手に夢中になっていたゼインだが、流石に天使本人が出てきてまで考え込む事はしなかった。
みんなが聞きたい事を率先して聞いてくれるらしい。
「ブラックを助けてほしいと願ったら、とりあえずブラックをみたいと言ったので連れてきたのだ」
わーお。なんというノープラン。
天使とはあまり取引しない方がいいとされている。供物が多くなってくることがあるからだ。
こいつ、それを考えてないぞ。まずい。
【あら、天使なんかと取引させた貴方が悪いんじゃない】
……確かに俺も迂闊だったが、全部俺が悪いわけじゃないと思う。
ん? 幻霧の目線が俺の手に集中してる……?
「そこ、何かいるわ。邪悪な気配……」
……収納から出してもいないリリスの存在に気付くとか、本当にやばいなこの天使。
協力してくれるならめちゃくちゃ心強いのは確かだけど、頼るのも危ない気がする。




