二百八十二日目 予想外の展開だ
ーーーーーー《ブランサイド》
不安しかないままレクスを送り出してしまった。本当に大丈夫なんだよな……?
一応念の為に防護系の魔法具大量に持たせたけど、即死とかを防げるくらい効果が高い魔法具はあまり予備もないから数発くらいしか耐えられないし、精神系の防御は十数回防げるくらいのものしか用意できなかった。
「ブラン、気に病んでいてもこちらからは何もできん。信じて待つしかないだろう」
「わかってるけど……」
ゼインが桂馬を動かしつつ口を開く。
「レクスはもう何もできん子どもでもない。それにブラックが魔法具を大量に持たせただろう。どこの最前線に行くのかと思うくらいの重装備だ。そうそう危険なことにはならんだろう」
「いや……魔大陸がこんな状況になってなきゃもっと用意できたんだが。……あっちもどうなってるのかわからないから手は抜けないし、他の拠点の予備分全部かき集めるわけにもいかないけど」
魔大陸への連絡は大型の通信機でないと届かない。この国は魔法を悪用できないようにかなり妨害してくるし、魔法具の申請とか面倒な手続きを済ませたりする必要がある。大型通信機を持ち込んで使おうものなら確実に数ヶ月の申請が必要になる。
俺がこの国になかなか足を運ぼうと思わなかった理由がこれだ。
魔法や魔法具に関係する手続きがとにかく面倒臭い。
だから昨日はわざわざ町の外まで行って連絡とったわけだし。ちなみに通信機は俺の収納に隠している。ここなら基本見つからないしな。
それに申請するとなると原理とかの説明を求められる可能性が高い。正直、仲間内だけで使いたいから公開するつもりは全くないんだよね。
特許とったら設計図提出する必要がある、みたいな感じかな。設計図は外に出したくないし、そうなると公開はしたくないなって思った。
「魔大陸はソウル達に任せなきゃいけないってのも、なんか心配なんだよな」
連絡取れないから、必然的にあっちはあっちの判断で動いてもらうしかない。
どうなってるのかわからんけど、まだ緊急連絡とか人員の追加要請とか来てないから大丈夫だと思いたい。
ため息をつきつつ、ビショップを動かした後に銀将を動かす。
「それで、ブラン」
「なんだ」
「両手でチェスと将棋をいっぺんにやって、しかもそちらが優勢なのが不思議なんだが」
今俺は気を紛らわす為に左手でゼインの将棋の相手をして右手でエルヴィンのチェスの相手をしている。
「経験の差だろ。はい、チェック」
ゼインの将棋はどんどん上手くなっていっている。駒の動きを数個同時に理解できるようになってきたみたいだ。
意外なことにエルヴィンはあんまり上手じゃない。そもそも、かなり真っ直ぐなんだよな。
狙い方が凄い一点突破。
それ、その駒が一騎当千できるとかなら別だけど、駒自体が同じ強さのボードゲームじゃ悪手すぎるよ。
エルヴィンは現場タイプだからあんまり指揮官とかには向かない。
ライトも突っ込んでいっちゃう方だから現場タイプだけどね。
俺も割と現場向きだ。ソウルとキリカは結構指揮が上手いから何かあったらこの二人に任せている。
キリカは人の評価が適切だから『できる範囲』の仕事を割り振って立ち回らせることが得意だし、ソウルは相手の考えを読み取って意表を突くことが得意だ。
それに単純に二人ともかなり強いし。
【……何かくるわよ】
え? 何かって、なに?
特になんも感じないけど……
【多分、人じゃない何かね。私とは真逆の性質のもの】
真逆ってことは……
「ブラック! 帰ったぞ! 約束どおり、連れてきた!」
「「「………」」」
扉がけたたましく開け放たれ、レクスが飛び込んできた。
その背後に白い翼を三対、計六枚も生やした金髪の女性が立っている。
「俺、連れてきてとは言ってない気がする……」
感覚でわかる。多分この人が幻霧の天使だ。




