二十八日目 吟遊詩人は本当に不遇
ぼったくられそうになってたって話はヒメノにはしなかった。俺ちょろくなんてないもん。カモじゃないもん。
もう二度と使わん。けど使っても多分問題ない。脅したし、流石に次もやらないと思う。
「それじゃあ町のなかに入りましょう。レイジュちゃんはどうしますか?」
「あー。なかには入れます?」
「ちょっと手続きはありますね。入れますよ」
さっきから門のところを見てるけど、確かに馬と一緒に入ってる人はたくさんいるか。要するに運搬車枠で入れるんだな。レイジュもそれで行けるか。
けど、なんか面倒そうだな。俺字とか書けんから手続きは難しいし。
「レイジュ。ごめん。帰ってくれ」
「キューン! キューン………」
あ、ぐずりだした。帰さないでって目で訴えてくる。
「いいじゃないですか。ギルマス」
「いや、手続きとか難しすぎるだろ。文字書けないぞ俺」
「そういうことですか………」
読めはするけど。
「あ、それなら私が代筆しますよ? レイジュちゃんと一緒に居たいですし」
「クルルルルル♪」
レイジュ。お前陥落するの早すぎない?
俺、お前と契約するのに三週間かかったよね?
【これが運命よ。諦めなさい】
だまらっしゃい!
「じゃあお願いできますか」
「はい。任せてください」
というわけでレイジュを連れて壁の門へ。
………あの。なんかあからさまに警戒されてるっていうか? 槍を喉元に突き立てられてるんですけど。しかも俺だけ。なんで俺だけ⁉ 俺そんなに怪しい⁉
「貴様、何者だ!」
おお! 貴様だって⁉ 中二病患者からしか聞いたことのない二人称が飛び出てきたぞ。
っていうか何て答えるのが正解?
「そんな怪しげな魔物を連れて入れると思うなよ!」
「聞いてた話と違うんやけど⁉」
なんでや! 馬は入っとろうが!
「名を名乗れ!」
「せ、セドリックです」
「セドリック? 随分勇ましい名前だな」
勇ましいのか。いや、名前ジェネレータでぽちっとやっただけだからな………。
「職は!」
「吟遊詩人です」
「はぁ⁉」
なにその反応。確実に馬鹿にされてるな、これ。
「そんな馬鹿げた職についているやつを町に入れるわけにはいかんな」
どんだけ嫌われてるんだよ吟遊詩人! ちょっと地位が低いどころじゃないだろ!
「じゃあどうしたら中に入れてもらえます?」
「そうだな、有り金全部おいていけ」
「はぁ⁉」
これ恐喝とちゃいます⁉ でもそれなら俺は中に入らない方がいいかもしれん。流石に159万円は渡せない。
「じゃあ入るのやめますんで」
今晩は野宿か………まぁ、レイジュも居るしヒメノに食べ物送ってもらえればいいか。ポイントショップも使えるし、なんとかなると思う。
ってことでヒメノ達にそう伝えた。
するとお嬢さんその1のメルちゃんが、
「違法です! それ違法ですよ!」
「だろうね」
吟遊詩人だから入れませんでしたとか酷すぎる。法がそれを許してないくらいにはまだ寛容なようで安心した。
法にまで嫌われてたらどうしようかと思ってたよ。
「じゃあ僕も野宿………」
「いや、ヒメノは中へ行って休んでくれ。寝てるときはライトに任せればいいしな」
「ですが」
「大丈夫だって。ただ、食べ物だけは送ってくれると嬉しいかな」
「………わかりました」
渋々だったけど了解してもらえたようで何より。
お金を渡してヒメノ達と別れる。
【本当にいいの? 黙らせなくても】
「いいのいいの。それやったら余計面倒になるしお嬢さん達にも迷惑がかかるかもしれないからな。俺一人残った方がいいだろう」
周りの人達の目が無駄に集まる。レイジュもこんな状況では休み辛いだろうから丁度いいだろう。
少し離れたところにいい場所発見。けどここで勝手に野宿していいのか? と思ったら他の人も数人居たので話を聞いてみたらここは冒険者に有名なキャンプ場らしく、だれでも野宿していいらしい。
よし、ここ借りよう。大分端っこのスペースを陣取った。
真横には森があって襲われる率が最も高いから誰もここは選ばないだろう。
俺には関係ないけどな。
ショップを開いて見ると、
「良かった。キャンプ用品も買える」
ポイントで買えるものの中にキャンプ用品もあった。このポイントショップ、どこでも使うことができる代わりにめっちゃ高い上に質も悪い。
だから俺もほとんど利用しなかったんだけど異世界に来てから役立つとは考えもしなかったなぁ。
このポイントショップ、何故か食べ物だけはないんだ。従魔用のミルクはあるけど俺達が食べられるようなものはない。
食べ物だけは自分で調達しなきゃな。
「とりあえずテントと寝袋だな」
しかもこのポイントショップ、買ったものは全てカプセルインで届く。このカプセル、凄いのはどれだけ大きいものでも小さいペンライトくらいの大きさに収納できる。
自然界の法則ガン無視だけど、今はそれがありがたい。星操りシリーズのナポレオンコート、何故か地味に裏ポケットが多いから収納場所もある。
多分ここ暗器を入れておく場所なんだろうけど………。
注文したらポイントが減って親指くらいのカプセルが二つ届いた。緑色のカプセルの両端を持って捻ってみるとテントがその場に突如出現する。
「おお、リアルで見ると格好いい」
【その発言が田舎者みたいよ】
「俺一応都会っ子なんだけど……」
カプセルを反対方向に捻ったら中にきちんと収納された。
「よっし、ちゃんと使えるな………なぁ、レイジュ。お前さっきから口動いてるけどなに食ってんの?」
「クルルル?」
「うわぁ………見せんでいい! 見せんでいいから!」
吐き出して見せようとしてきたけどなんか小動物の足みたいなのが口の端から見えた。うげぇ、グロい。
っていうかお前そこまで食いしん坊だった? あ、俺もか。
「ご褒美はいつかあげるからな」
「ブルルルル」
【それでいつか忘れていくのね】
「………」
ひ、否定できない………俺物覚えいい方じゃないし………。
キャンプ用品の中にあった小型の折り畳み椅子を買って腰掛け、リリスを点検する。
「うわ、もう欠けまくってるよ」
【綺麗に直して頂戴ね】
「わかってるけどポイントの消費が激しすぎるな………まぁ、まだまだあるっちゃあるけど」
出来るだけ節約したいな。やっぱり素手で戦うしか無いのか………?
リリスを直してベルトにつけ直し、今後のことを考える。
「やっぱりリリスじゃキツいな………どっかの工房を借りれればサブを造れるけど吟遊詩人で借りれるかな。あ、なんか凄い吟遊詩人がネックだな」
あそこまで疎まれてるとなぁ。俺も悲しくなってくる。
皆は音楽の力を軽んじているのかな。俺みたいに戦える吟遊詩人が少ないだけなのかも知れないけど。
こういうときこそ歌を歌おう。えっと、
上を向い○歩こう、涙が零れないように、思い出す、春の日。ひとりぼっちの夜~
「あ、なんか余計悲しくなってきちゃった………」
選曲下手すぎか、俺。
上を向いて歩こうなんて最初に言ってるくせにその理由が一人だからって寂しすぎるだろ。まさに今の俺じゃないか。
っていうかなんで懐メロ選曲したし。懐メロとか言いながらこの曲出来たとき俺まだ生まれてないけど。
【あら、良い歌じゃない。私好きよ】
「まぁ、これ海外でもヒットしたしな」
【なんて曲名?】
「俺の国では上○向いて歩こう。海外ではスキヤキ」
【スキヤキって食べ物じゃないの?】
「うん。けど何故か俺の国=スキヤキみたいな固定観念があるらしくて曲名になっちゃったらしい」
すき焼き全く関係ないけどな。あ、すき焼きは甘い味付けの方が俺は好きだぜ。
まぁ、正確に言うとこれを海外で広めたレコード会社の社長が日本名でタイトルをつけたかったんだけど知ってた言葉が『サヨナラ』と『スキヤキ』だったらしく。
サヨナラよりスキヤキの方が明るいよね、みたいな感じでつけられたらしい。何故にスキヤキ。
歌詞に一切すき焼きないのにね。しかもメロディも簡単でコードも解りやすいから受け入れられたのかなぁって思うけど。
英語版の歌詞になると一気にラブソングになっちゃってるけどね。日本語だとなんで泣いてるのか濁してあるけど英語だとハッキリ歌詞にこんなにも愛してるのに、みたいな言葉が入ってくる。
濁すから格好いいのに、とか思った俺はロマンチストなのかな。




