二百七十九日目 レクスが交渉役?
ソウル達が準備をしている間に各国に連絡をとり、仕事を終えたところで早めに戻ることにした。
盗賊になっていた獣人族達には、もう目的地の村へ向かってもらうことになり後のことはメイドに丸投げした。
っていうか魔族領の方も丸投げだし、俺業務の大半を投げてる気がする。
主人としてどうなんだと思わないわけでもないが、俺がやるより皆にやって貰った方が早いし、いい結果を生むから。多分これが正しい選択だと思う。
俺自身、あんまり頭良くないし。
「公国へ戻ろう……今日昨日で色々起こりすぎて流石にちょっと疲れた……」
主に精神的に。
ただでさえ心労の多い仕事してるのに、次から次へと……もう引退しようかな……
誰か俺の仕事、責任持ってしっかり勤めてくれる人いないかな。
イベルには継がせてやりたくないな……責任感強すぎて潰れそうだ。
「マスター、ゼイン様から通信が」
「ん? ああ、繋げて」
ボーっと外を見ていたら急にゼインから連絡が来た。
緊急のやばい連絡とかだったらキリカあたりから掛かってくるだろうし、個人的な共有かな?
『ブラック。またおかしな事になっているみたいだな』
「好きでなってるわけじゃないけどね。それで、どうしたの?」
『よろこべ……と言っていいのかわからんが、朗報だ』
ゼインが妙に得意気に言う。
『命の雫のアテが見つかったぞ』
命の雫……ぁあ! なんか色々あって忘れかけてたけど、俺それを探してたんだった!
「アテ、って事は何か条件とかあるのか? 金で買えそう、って話ではない感じか?」
『アテというより、正式な方法で受け取るという話だな』
「正式な方法って、上級の天使や精霊から貰うってことか?」
『そうだ』
命の雫は上級の天使や精霊などが極稀に生成する宝石だったはず。確か、作るのに相当な体力を使うとかで精霊達もなるべく作りたくないものだから流通量がかなり少なくなっているんだっけ。
だからその上級の天使や精霊に相当気に入られでもしなければ手に入らないんじゃ……まさかゲームみたいに宝箱からのドロップってこともないだろうし。
いや、俺天使や精霊にはめちゃくちゃ嫌われてるって言わなかった?
悪魔系統に魔力が完全に寄ってしまっているせいで、天使や精霊には理不尽に嫌われる。
「俺、天使や精霊と仲良くなれる気がしないんだけど」
『それは問題ない。レクスが取引する』
……え? いま、レクスって言った?
レクスって、あのレクス?
「え? なんでレクス?」
『かなり魔力の適性が高いらしくてな。うまく交渉できれば、なんとかなりそうだ』
……そんな不安定な感じで大丈夫なのか?
いや、ピネもレクスの魔力は心地良いって言ってたから間違いではないと思うけど。
「レクスって、そのあたりの交渉できるの?」
『外交の話し合いをよく見学しているが……本格的なものはやった事はないだろうな』
そりゃそうだろうな。だってまだ子どもだし。
見ているだけと実際にやってみるのと、全くの別物だ。特に会話となると相手の話題に対してどう反応すればいいのか、何か墓穴を掘ってしまわないか、不快にさせないように進めるには何を話せばいいのか、その場の状況で瞬時に決めて実行する必要がある。
ソウルみたいに異常なほど人の仕草に敏感だったり、俺みたいに嘘を見分けられる勘が働く人だったらまだ交渉には向いているとは思うんだけど。
ライトみたいな性格だったらちょっとマズい。
ディスってるわけじゃないよ? ただ、その……ライトは悪魔だから。
隠していても滲み出る『人を見下してる』感が、どうも交渉には向かないんだよな。
「未知数すぎるだろ……他の高位精霊の契約者とかには頼めないのか? 別にレクスが駄目だってわけじゃないけど、特に天使とかは交渉決裂すると厄介な事になることがあるし」
『いや、外部に頼むのは難しいだろう。なにせ明日中に天使と話をつけなければならないからな』
「は? 明日?」
ありえない。
悪魔ならその場で生き血を渡したり、魔力を送る事によって契約ができるけど……天使に関しては供物以外にも必要なものが沢山要る。
しかもその天使それぞれが要求するものは同じとは限らないから、本来契約には入念な準備が必要になる。
実は悪魔の方が呼び出すのは簡単だ。ただ、供物とかを準備できるのなら、天使の方が呼び出しに魔力消費少なく済むから、長期的に呼び出すのなら楽だったりする。
今回の場合は宝石を作ってもらうために一時契約をしなければならないだろうから、供物が必要なはずだ。ちなみに呼び出すだけなら魔力だけでいいけど、働いてもらうには供物が必要になるというルールがある。
呼び出しで大量に魔力を使っても、供物が気に入られなければ帰ってしまうことも多々ある。
まぁそれは悪魔も似たようなものだけど。
「供物は? 準備は? っていうかなんでそんな時間ないの?」
『供物はなんとかなる。時間がないのは……理由は後で話す。とりあえず帰ってこい、少々込み入った話になりそうだ』
「え、あ、うん。わかった」
供物はなんとかなるって……上級の天使の呼び出しには相当なものを用意しなきゃならないはずだけど、大丈夫だろうか。




