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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百七十日目 一旦街から出る

 みんなに情報集めをしてもらっているうちに、俺は少し用事ができたので魔族領と連絡をとることにする。


 ついでに魔王様にも命の雫について聞いておく。


「あ、カーバンクルってどうなってる?」

「ブランの部屋で落ち着いているぞ。鎮痛剤が効いているらしい」


 それなら安心だ。ただ、痛みを一時的に薬で上書きしているだけで根本的な治療はできない。


 なんとかしてあげたいが……。あとあの子を痛めつけたやつはマジで地獄に落ちればいい。


「多分あと数時間はもつと思うけど、また痛がるようだったら新しい包帯を使ってくれ。もし何かあったら俺に連絡してくれればいいから」


 この周辺の国ならともかく、魔族領となるとこの国からは距離が遠すぎて小型の通信機じゃ連絡が取れない。


 かといって大型の通信機は魔法系の道具の規制が強いこの国では使えない。使いたいなら一旦この街から離れる必要がある。


 最低限の人数とレイジュを連れて一旦街からでて通信機を使う。


「エルヴィン、頼んだ。ちょっと出てくる」

「ああ。何かあったらすぐに伝えろ。どんなに小さなことでも危険を感じたらとりあえず連絡するんだ」

「わかったって……俺もう大人だからそんなに心配されなくても」


 うちの家族過保護すぎる。


【貴方色々とやらかしてるからでしょ。狙われてる自覚持ったら?】


 ……否定できない。


 そもそも恨みを買いやすい仕事だ。狙われてても何にも不思議はない。


 恨まれて楽しいことは何もないけどね。







 大型の通信機は流石に人力じゃあ運べない。レイジュのひく亜竜車で外へ向かう。街から出る時に門番に鼻で笑われた。


 俺のテスト、というかランク測定の結果があまりにも低かったからバカにされたんだと思う。


 ちなみにランクはこの街での身分証に記載されている。街を出入りする時に必要になるから、ランクは隠したところでバレる。


 そして理不尽なことにこの国ではランクで待遇が決まるため、普通の食事処へ行くとランクごとに頼めるメニューが決まっている。ランクが低い人ほど美味しいものですら食べられない世の中だ。


 そりゃ魔法使いの国になるはずだ。魔法使いしか生きていけないもん、この国。


 この国が成り立っているのは外国からの移住者が多いところだ。ここは魔法使いなら一度は夢見る国だろう。


 魔法で全て決まるのだから、魔法に自信があるのなら下克上も難しくない。


 魔法使いが各国から集まらない国であったら、この国はここまで大きくはなっていなかっただろう。


 だって魔法使いってかなり希少だから。


 魔法が使えるほど魔力が多い人はそもそも少ない。さらに器用さだったり、状況把握能力だったり、魔法使いには様々な技術が求められる。


 それに魔法が習える環境にある人は多くはない。必然的に高等教育を受けられるお金持ちがこの国に移住してきて、ある程度寄付などをしているからなんとか持ち堪えているだけで。


 俺から見ればこの国はいろんな意味でかなり危うい。


 そんなこんなで街を出ると送り込んでいたアニマルゴーレムから連絡が来た。


 レイジュの手綱を近くにいたメイドに渡してから送られてきた映像を見る。


「確定か……デュース殿下が嘘ついてくれてたらよかったのに」


 エンセルーラ湾。この国の海岸沿いの道をこっそり覗き見た結果、やはりこの国はあの装置を使っていた。


 使えば周りの生き物が全滅してしまいかねない、容赦無く周りの魔力を吸い上げてしまう装置だ。他国にバレたら即粛清対象になること間違いなしだ。


 なんせそれが原因で戦争が実際に起こってしまっている。かなり過去の話ではあるが、相当数の人間が死んだにも関わらず、勝った方の国はほとんど旨味がない。作物は育たず実らず、魚はいなくなってしまった。


 戦争して犠牲を出しつつも勝って、得たものはほとんどないに等しい。無駄に死人を出しただけになっていた、というのが世界的に有名な話だ。


 あれを繰り返さないためにも、早いうちに対処をしておかなければならない。


「マスター、どこまで参りますか?」

「30分くらいは走ろう。レイジュの足なら普通の人間があるくより何倍も早く移動できるし、そこまで遠くに行かなくても大丈夫だと思う」

「承知しました」


 今日の付き添いはメイドが3人いるだけだ。普段だったらかなり少ないくらいだけど、今動かせる人数が3人しかいなかった。


「マスター。お時間がくるまでお休みされては?」

「え?」

「移動時間くらいお休みになられてはどうでしょう?」

「ああ……まぁ今日寝られてないし、ちょっと仮眠をとるよ。何かあったら叩き起こしてくれていいから」


 亜竜車の壁に背を預けて一旦休憩を取ることにした。

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