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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百六十八日目 今の俺では引き受けられない

 この国を潰す、という点については頷けないが、この件は確かに危険だ。


 これが俺に最初に流れてきたのならまだやりようはある。ただ、俺以外の誰かに既に知られている状態ならもう手遅れになる可能性が高い。


「……一つ、いいですか。これ、情報は漏れてませんよね?」

「もちろんだ。これを使っているやつらはこの国の上層部だが、これが世間の目に触れるとマズイことくらいわかっている。全力で隠し通しているはずだ。こちらから情報を流したのはお前が最初だな」


 その言葉を信じるなら、コネを使ってなんとかならないわけでもないけど……


 これが他国に知られる前に今すぐ動き出さないと間に合わないかもしれない。


 この国の特性上情報は伝達されにくいだろうけど、間諜だってどこに紛れ込んでいるかわからないから早く動けるのならさっさと動かなければならない。冗談じゃなく戦争になる。


「どうだ、なんとか戦争を回避することはできないか?」

「できないこともないかもしれませんけど……今すぐに使用をやめてもらわないと話になりませんよ」

「わかっている。だからこの国をぶっ壊す手伝いを頼みたい」


 この人、どこまでが本気なのだろう。国を壊したところで人は変わらない。


 後のことを何も考えていないのであれば、俺はこの件は聞かなかったことにしてここを出る。


 戦争に発展する前にゼイン含めた五大国家の王たちにすぐに連絡を取って社会的にこの国を潰す。平和的解決は見込めないだろうけど、周辺国家が殴り込みに入れば少なからず両陣営の人間は死ぬ。


 人死を回避したいのならば、国としての機能を一方的に奪ってしまうしかない。


 運がいいことに俺の知り合いは領地経営が上手い人が多い。多少領土が広がっても管理できるだろう。


「……壊した後、どうするおつもりで?」

「無論、他国の属領に入る。この国はもう無理だ。内部機関そのものが腐っている。ならば他国に委ねるしかあるまい」


 意外と現実的な人だ。この国は立地的に航路の開発に向いている。この国を丸ごと欲しがる国は少なくないだろう。それにこの国は魔法使いが豊富だ。各国からすればかなりの戦力になる魔法使いはなるべく多く抱え込んでおきたいはず。


 魔法使いは言わば砲台だ。この世界ではトップクラスの破壊力を持っている。下手したら爆弾なんかより強いかもね。汎用性も高いし。


「殿下はどうされるので?」

「まぁ、身分を失っても下町で働けばいい。そのうち働き手は足りなくなるだろうからな」


 中々おかしな事を言う人だと思う。王族っぽくなくて俺は好きだけど。


「そうですか。大体分かりました」

「では、手伝ってくれるか?」

「……それは難しいです」


 デュース殿下は訝しげな表情になる。


「なぜだ。この国を他国に譲るための交渉役を頼みたいだけなのだ」

「わかっています。今回の件、上層部が使い続けるつもりでいるのならこの国を潰すのがいいと思います。ただ、ここで聞いただけの話で判断はできませんが。現状の情報だけで判断するのならそれがいいと思うのは事実です」


 デュース殿下が机を叩いてこちらに身を乗り出す。


 かなり興奮しているらしい。あまり断られると思ってなかったんだろう。


 確かに俺も普段なら引き受けていたかもしれない。自分でちゃんと情報を集めて自分で判断してから、もう一度ちゃんと返事を伝えると思うけど。


 彼の言葉に嘘はないだろうし、外部勢力の橋渡しである俺に直接話を持ってきたのも苦肉の策なんだろう。


 多分本当にスムーズに全部終わらせたいのならゼインに直接話せばいい内容だ。


 だが、俺にそれを回してきたという事は彼自身監視されているか何かで公には身動きが取れない状態なんだろう。


 ゼインとの会談となると許可を取る必要や、会話の内容を誰かが横で聞いている場合が多いから内緒の会話には俺がぴったりだったというわけだ。


 俺なら外部の国とも交流が深いし、王族でもないから無理やりにでも引っ張ってくれば会話ができる。それに俺自身がそこそこ有名だ。貴族に「お前の情報は出鱈目だ」と言わせないだけの圧力をかけることも出来なくはない。


 俺が完全に無名の情報屋だったら「こいつが嘘をついている」と身分の高いやつが言えばそれが真実になってしまうこともあるだろうが、俺は商売をやる上で絶対に間違った情報は提供しないと決めている。


 それは市井にも広まっているから、大抵「白黒の言う事は信じられる」と思ってもらえる。


 俺がこれまで積み上げてきた信頼を失うわけにもいかない。嘘は言わない。誇張もしない。


 だからこそ、俺は断るしかない。


「今、自分は体調があまり良くないんです。依頼を引き受けたところで完遂できる保証は出来ません。出来ない可能性がある事は引き受けないと決めているんです」


 俺がもっと強かったらこう答えなくてもいいんだけど。


 もし今後この国を壊して他国に分配するとかになった時、多分俺が仕切ることになるんだろう。俺は基本中立だから。


 そうなると問題は俺の体がどこまで持つかという話になる。


 俺は今かなり不安定だ。体力も筋力も圧倒的に落ちて、五感も軒並み鈍っている。


 会談中に倒れて俺だけが知っている情報が共有されないなんてことになったら大事につながりかねない。


 まず俺はこの状態から元に戻る事はできるのだろうか……

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