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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百六十七日目 国を壊したい理由

 この人国をぶっ壊したいとか言い始めた。手伝えと言われても当然断るに決まってる。


 っていうかあんたこの国の王子だろ。


「なぜ断る? 金なら払うぞ」

「お金の問題ではなく。何をやるおつもりなのかはわかりませんが、こちらとしては責任問題に発展しそうな依頼はなるべく控えさせていただいています」


 正直、貴族の内部調査とかもあんまりやりたくない。余計に恨みを買ってしまうというのもあるが、単純に俺の責任で抱え切れる問題じゃない時がある。


 だから領地の視察してからしか内部調査は引き受けないと決めている。ちゃんと領地経営している人の家をこっそり覗くのは良心が痛む。もし何かあったら王族が庇ってくれるだろうけど、普通に犯罪だしね。


「まぁ話を聞け。少しそこに座れ」


 デュース殿下にソファに座るよう促される。後ろ手で腕縛られたまんまだから、そっちなんとかして欲しいんだけど……


 座らないと返してくれそうにない。仕方なく革張りのソファに腰を下ろした。


 おお、思ったより固めのクッション。柔らかすぎると起き上がるの大変だし、これくらいが腰に負担なさそうでいいかもね。


 ちなみに部屋には俺と殿下、あと一人侍女さんが壁際で待機しているだけで他には誰もいない。多分俺の目隠し外してくれたのは侍女さんだろう。


 正直すごく不用心に思える。俺が逃げるつもりないからいいけど、これ逃げようと思えばいつでも逃げ出せるよ。


 手を縛られてるくらいでは大した問題じゃない。関節外せば多分抜けるし。


「紅茶には砂糖は?」

「……いや、砂糖も何も、腕使えないんで」

「ああ、そうだったな。おい」


 侍女さんに声をかけると同時に侍女さんが俺の拘束を解いた。


 え? いいの?


「どうして解いたんです?」

「そのままでは紅茶は飲めないと言ったのはお前だろう? それに逃げるつもりなら、とうの昔にやっているだろう。砂糖は入れるのか?」

「……はい」


 俺のことをよく知ってるのだろうか。逃げるつもりもないことを察しただけにしては警戒を緩めるのが早すぎる。


「では本題に入ろう。先ほども言った通り、この国をぶっ壊したいのだ」

「……あまりいい返事はできません、と先に申し上げておきますが。何故ですか?」


 デュース殿下は軽く頷いて侍女さんに向かって指をクイ、と動かすと侍女さんは即座に取り出した地図を机に広げた。優秀だなぁ、この人。うちのメイド達といい勝負かも。


「これはこの国、周辺の地図だ」


 普通に軍事機密だろこれ。


「これ、見せていいものではないですよね?」

「そうだが、お前はこの辺りの地形など我々以上に知っているだろう? 隠しても意味はあるまい」


 その通りだけどなんか怖いなこの人。俺に対して謎な信頼感があるっぽいし。


「ここはこの街だ。それで、この国の北。この辺りに」

「エンセルーラ湾ですか?」

「ああ。ここでは今、原因不明の不漁が続いている」


 原因不明の不漁……この国の情報はあまり入ってこないから知らなかったな。でも他国ではそんな話聞かない。


 この国とそう遠くない場所に漁場を持っている国も交流があるが、不漁なんて聞いたことないぞ?


「その理由が、つい先日わかったのだ。これを見てくれ」


 目の前に渡された資料を紅茶を飲みつつさらっと目を通してみる。


「……そういうことですか。これはまた……なんとも」


 内容は、この国の運営にかかるものだった。


 この国は様々なものを魔力で運用している。多くの魔法使いを輩出しているからこそ、そんな大胆なことができるのだけれど。


 不思議だったんだ。この街、他の国に比べて明らかにインフラが整いすぎている(・・・・・・・)


 魔法使いだらけの国と言ったって、使った魔力は回復するのに相当な時間がかかる。まさかずっと誰かが魔力供給し続けるわけにもいかないし、総量が少ない人はちょっと使っただけで倒れてしまう。


 倒れるまではいかなくとも、魔力が少なくなっている状態とは、かなり気持ちが悪い。


 ひどい船酔いになった時みたいな気持ち悪さだ。


 そんな状態になるまで魔力を使って、という人を一日何十人使い潰せばこのインフラは維持できるのだろうかと思っていたんだが。


「あの装置をまた使った人がいるなんて」


 もともとその装置は俺も知っていた。数十年前の発明家が開発した『自然界の物質から魔力を吸い上げて運用できるようにする』もので、作られた当時は重宝された、んだけど。


「それは私も驚いた。歴史をあまりにも知らないのかと思ったぞ」

「ええ……これは、他国に知られたら最悪戦争案件ですよ」


 実はこの装置、根こそぎ魔力を吸い上げてしまうため、その周辺の魚や魔物が全滅。海藻や微生物までみんな死んじゃうから海が死んでしまうのだ。


 結果不漁につながってしまう。ただそれは第一段階でしかない。


 不漁になっても使い続けた国があった。その国は最終的に、周辺の三つの国を巻き添えにして滅びた。


 その理由が、あの装置が海から取れる魔力が足りないことに気付いた途端、地面の魔力も吸い始めたんだ。地面にも魔力が通っていて、それを使って作物は育つんだけど……


 魔力を取られた大地は枯れ、作物は実らなくなり、乾いた地面は砂になっていった。


 最終的に周辺の国に被害が及ぶまで魔力を取り続けた国は、事態を重く見た大国に潰された。


 そのやばい装置をこの国が周りの国にも無断で使用しているらしい。


「これは……普通に国際問題ですね……」

「そうだ」


 他国と連携して事にあたりたかったから、俺を無理に連れてきたんだな?

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