二百六十四日目 なんか連れて帰ってきた
ーーーーーー《ブランサイド》
「あいつらだけで大丈夫かなぁ……詐欺に引っかかってなきゃ良いけど……」
「心配しすぎだ。彼らほど頼りになる人材もそういないだろう。可能ならこちらで雇いたいんだが、どうだ」
「嫌だよ、俺が。あいつらが行きたいって言っても止めるよ」
ここ数日ですっかりハマったらしい将棋でゼインと暇を潰していると、後ろからスベンさんがすっごい睨んできているのがひしひしと感じ取れてきて、なんか凄い気まずいんですが……
多分あの人的には『お前らなど雇ってもらえると思うな!』と思う一方で『何故国王陛下の誘いをそうも簡単に突っぱねる、けしからん!』という相反する葛藤でいっぱいなんだろう。
だが、俺がスベンさんにだいぶ悪口を言われて実は結構傷ついていることを知ったらしく、ゼインがやんわりとたしなめたので俺を直接攻撃できない。
っていうか、ゼインが俺が傷ついてるって知った時に「お前もそういう繊細なところがあるんだなぁ」みたいな顔をされたことが若干いらっときている。
俺だっていろんな国の貴族たちから面と向かって「身の程をわきまえろ」とか「庶民が移るから近寄らないでくださいます?」とか「なんて見窄らしい格好かしら」とか言われたらそりゃグサッと刺さるわ心に! っていうか庶民が移るってなんだよ!
庶民ってのは感染してくもんなのか⁉︎
罹患するとお前らも庶民になるのかよ⁉︎
そんな簡単に増えるもんなら貴族なんてとっくの昔にみんな感染して庶民になっとるわ!
「ブラック。手を抜いているだろう?」
「そりゃゼイン初心者じゃん。抜くよ」
「あからさまに王手をかけに来ないのがわかるからやめてほしいんだが」
「じゃあ後5手で王手かけて良い?」
「……余裕すぎて、何も言えん……」
その後もハンデを背負いつつ対戦していると、玄関が何やら騒がしくなった。
「んぁ? 帰ってきたのか?」
「ブラックの耳で気づかなかったのか?」
「今の俺、多分ゼインとあんま変わらないくらいだと思うよ」
とりあえず見に行くと、ふわふわもふもふの何かが入った箱を持って帰ってきたソウルたちがいた。
……一体、何を買ってきたんだ君たちは……?
「えっと、それどうしたの?」
「カーバンクルです」
「ああ、うん。それはわかったけど……? おい、その子の足どうなってる?」
とりあえずなんでカーバンクル連れて帰ってきたか追求するのは後にして。
箱の中のもふもふの足はおかしな形をしていた。
「……これは、まずいな。ソウル、その子連れて俺の部屋へ。キリカ、綺麗なタオルを数枚持ってきて。後、ほんのりあったかい程度のお湯も盥に張って持ってきてくれ。ライトとエルヴィンは漬けてある包帯持ってきて。一番効果高いやつでいい」
俺の言葉を聞いて全員が一斉に動き始める。俺もソウルと一緒に箱を抱えてそっと移動する。
あまり揺らさないようにしながらカーバンクルを俺の部屋のベッドに乗せる。
ソウルがカーバンクルの様子を見ながらオロオロし始めた。
「え、えっと。外傷ないけど、何かあったんですか?」
「ああ。この子オークションで見つけてきたのか? 出品者は最低だな。杜撰すぎる」
確かに見た感じ怪我はないが、この子の足はおそらく一回折れたのを無理に魔法で治したせいで変な方向でくっついてしまっている。
これじゃあ歩く度に痛みが走って当然だ。治した人も悪質すぎる。
「その場合、どうやって? もう治ってしまっているのなら魔法では無理ですし……」
「わかってる。とりあえず痛みが引くようにしてあげなきゃ」
もう一回骨を折って魔法で治すという手もないわけじゃない……というかもうそれくらいしか方法が残っていない。
すぐにタオルとお湯の入った盥が到着。盥に薬を数的垂らしてカーバンクルをゆっくり中に入れる。
かなり怖がっているが、酷いことをされたんだろう。必死に耐えて震えるばかりで暴れたりしない。
お湯をかけてやると、怯えた声で小さく鳴いた。
「大丈夫。お前に痛いことはしない。怖いこともしない。安心しろ……と言ってもお前は信じられないだろうけど、今は抵抗しないでくれ」
話しかけると、ビクッと大きく震えて固まってしまった。
やっぱり怖いよな。何をされたのかは知らんが、ここまで怯えて……
この子をいじめたやつ、ゆるさねぇ……。突き止めて社会的に抹殺してやろうか……。
タオルで拭く間もずっと固まったままだ。
久々にポイントショップを開き、ペット用のフードと粉ミルクを取り寄せる。
「なんでミルクもなんです?」
「フードふやかして粉ミルクかけんの。少しの量でもそこそこ栄養とれるから」
見た感じまだまだ子供だ。親から引き離されてしまったんだろう。
オマケに額の宝石がない。
「高く売れるからな、カーバンクルの宝石。最低すぎてこんなことしたやつに吐き気がする」
「ブランさん……めちゃくちゃ怒ってますね」
「俺はなぁ、小さい頃から『親と縁を切ったら何をしたいか』ってずっと考えててな。そのうちの一個に『わんちゃんを飼う』ってのがあるんだよ。だからこういう事する奴は地獄に落ちればいいと思う」
「犬、好きなんですね……」
大好きだよ。
その後ライトたちが持ってきた痛み止めの薬が漬けてある包帯を足に巻いた。カーバンクルは終始ビクビクと震えていた。
あまりにも怖がるのでふやかしたご飯だけ近くに置いて俺たちは部屋から出ることにした。
「ブラン、良かったのか? あの包帯、一本100イルクはするぞ?」
「別に。あの子の痛みがそれで和らぐのなら安いもんだ。それで、何がどうなってこうなってる? 俺なんも知らんよ?」
その後話を聞いたところ、やはり命の雫はなかったそうだ。まぁ、あったら儲け物、くらいに考えてたからそれはいい。
問題はあのカーバンクルだ。
出品者には会えなかったらしく、箱に入れた瞬間から震えだしたのを見て急いで帰ってきたらしい。
多分足を伸ばす場所がなくて痛かったんだと思う。ソウルたちはなんとかしてあげようと道中頑張ったらしいが、なぜ震えているのかもわからなかった為とりあえず俺に見せに来て、こうなったんだとか。
出品者を探すのはちょっと難しいかな……匿名性の強いオークションみたいだし。探ってこっちが訴えられても困る。
「どうすっかなぁ……」
とりあえず、この可愛いもふもふを虐めた野郎どもをどうやって吊るし上げるかより、足を治してあげる方が大事だ。いい獣医の知り合いもいないし……




