二百六十一日目 いざ、オークションへ!
ーーーー《ソウルサイド》
「それで、どうやったら参加できるんですか?」
「聞いた話だと、3級以上の魔法素質を持っていれば良いらしい」
3級以上となると……そこそこ大型の範囲殲滅魔法が使えればいいレベルかな。
魔法素質はこの街に来た時に測ったランクのことで、一般的な魔法使いなら5級くらいが目安らしい。最高ランクが1級、一番低いのが10級で、それ以下は魔法適性なしと判断される。
まぁ、この国のラインが厳しいだけで、魔法適性がそれ以下でもこの国の外だと魔法使いとして働いている人もいないわけではない。
ブランさんに聞いた話によると、人によっては1級の更に上の『特級』になったりすることもあるらしい。ブランさんと昨日会いに行ったスーさんがそうだ。
あの人、見た目に似合わず凄い魔法使いなんだよなぁ……ブランさんも、あのおっちょこちょい体質には若干呆れていた。結構貴重な魔法具壊されたらしいし。
「それにしても、ブランさんは災難ですよね……普通に魔法の適性見るならスーさんとも張り合えるのに」
「召喚対象が天使ですからね」
ブランさんは昔から聖属性の魔法や召喚がド下手だった。
ちょっと苦手とかいうレベルじゃない。
普通、アンデッド系のモンスター倒すときは聖属性の魔法を使って遠距離から倒すのに、あまりにも下手すぎて聖属性の攻撃魔法が一切当たらず、物理でぶん殴っていた。
本人曰く「魔力消費量がありえないほど多い上に、制御が全然追いつかないから変な方向に飛んでいく」らしい。
そんなことあるのかって思ったけど、僕は弓を引いた時にそれと似たことが起こったからもう2度と弓は触らないのを決めている。多分ブランさんの場合はそれが聖属性全般なんだろう。
僕が弓を使うと、ゲームの中だから補正が効くと思ったら、むしろありえない方向へ飛んでいく。
一回お試しで弓を持ってみたことがあったけど、当時セドリックだったブランさんに直撃した。真後ろから肩甲骨付近にクリティカルヒットして、結構ダメージは大きかった。
まさかの弓使いが盾役を倒してしまうという事態になったが、あのときはその他のメンバーがフォローしてくれたんだっけ。
「エル、今度剣とか弓とか、なんでも良いんで戦う方法教えてください」
「えっ? あ、ああ……構わないが。急にどうした?」
「いえ。なんとなく」
最近、僕はエルヴィンさんのことをエルと呼ぶようにしている。
そろそろ敬称つけるのはやめてくれと言われたからだ。
どうも対等に接したいらしい。
「ここだ」
話をしながら歩いていると、一軒のレストランに着いた。お洒落なシャンデリアが磨かれた大理石を照らす、落ち着いた雰囲気の店。
「レストランでやるんですか?」
「いや、これはカモフラージュらしい」
重たい扉を開けて入ると、背の高い男性の店員さんが話しかけてきた。
「何名様でお越しでしょうか?」
「三人だ。席は『74番』で」
「かしこまりました。お飲み物は如何されますか?」
「半分『レオルーシュ』で」
「はい。ではこちらへどうぞ」
エルが店員さんにそう告げると、店員さんが歩き出した。
後ろをついていくと、入り口からは見えない位置にあった階段を下っていく。
「こうでもしないと、一般のお客様との区別ができないので」
僕がキョロキョロしていたのを気にしたのか、店員さんが小さく笑いながらそう教えてくれる。
「ここまでして隠してやるのはどうしてですか?」
「大きな声では言えない商品も取り扱うことがありますので。違法なものを取り扱うことはありませんが」
つまり、法に引っかかるかギリギリのラインのものもたまにあるという事だろうか。
階段を降りた先にはいくつもの扉が横一列に並んでいて、そのうちの一つに入ると前面だけガラスの個室が繋がっていた。その先には劇場に似た造りの観客用の椅子、その奥には舞台が見える。
「そのガラスは特殊なものでして、こちらからは向こう側は透けて見えますが、あちら側からは見えない仕組みになっております。また、完全防音ですので、オークション中でも御歓談していただいても問題ございません。鍵は内側からかけることができます。落札の際は、横にあるパネルに金額を打ち込んでいただければ結構です」
一通り部屋の説明をしてから、それではごゆっくり、と頭を下げて店員さんは部屋を出て行った。
「なんか凄いところに来ちゃった感じ……」
「一応VIP席らしいからな。だから先ほどの質問にも正直に答えてくれた。一般客だったら、多分無言で通されただろう」
ここ、VIP用なんだ……。高そうな造りだとは思ったけど……。
「なんでそんな良い場所が?」
「ここの紹介は王族から受けたからな。一応王族の紹介だからVIP待遇なんだろう」
あ、王族からの招待だったんだ。会談に着いて行った先でここの話聞いたって言うから、誰から紹介受けたのか気にはなってたけど。っていうか、王族も来るんだ、ここ……。
その後も、家から持ってきた飲み物を飲みながら開始を待つ。ほどなくして下の一般席に客が入り始めた。
下に居る人たちは皆フードをかぶったり、仮面をつけたりして顔を隠している。
「普通に顔を出して行ったら、競り負けた相手に逆恨みされて後日殺される可能性があるからな。皆用心深くなるのだろう」
「え、怖い。それ……」
「我々も気を抜かず、用心しましょう」
何が取り扱われるかわからないオークションが、幕を上げる。
オークションまでいきませんでした。




