二百六十日目 託すしかない
朝の支度を(キリカが全部やって)終えて、朝食を摂りつつゼインたちの話を聞く。
「昨日ちゃんと交渉できた?」
「いや、なかなか難しそうだ。相変わらず技術の流出をひどく拒んでいる」
「そうか……俺もここの道具には興味あるんだけど、余所者ってことで売ってもらえなかった」
命の雫の情報を集めるついでに買い物をしたんだけど、特に魔法具は売ってもらえなかった。
俺がどう見ても余所者だってわかるし、今回の試験でランクが最下位にまで落ちたし。
ランクが低いと、恐ろしいことに何も買えない。
売ってもらえないどころか店にすら入れないこともあった。酷い差別。
ちなみに、ゼインたちはこの国に魔法具を輸出してもらえないかという交渉に来ている。ウィルドーズでは特殊な鉱石の採れる鉱山があるから、それを売るのを交換条件に。
情報屋の視点で言わせてもらうと相場的には全く問題はない。
下手をすれば鉱石の方が価値的には上かもしれない。魔法具は造り方さえわかれば誰にでも作れるけど、ウィルドーズから産出される鉱石はかなり質が良い。
俺もたまに買わせてもらうが、特に魔力を込めたり散らしたりするために使われる魔法鉱石が良い。
魔法具を作るなら必須の鉱石だ。あまり採れる所も多くないし、ウィルドーズと交易した方が結果的にはプラスになると思うけどね。
この国はとにかくガードが固い。
技術が漏れることを酷く恐れ、ほとんど鎖国状態だ。
魔法使いの質や、魔法具の技術では世界一と言われる国だが、立地としてはあまり良いとはいえない。
海は遠いし、川もあまり大きなものがない。山や森も少し距離があるし、大地も肥沃とはいえず、一年に一度は乾季が訪れるために作物の栽培には向かない。
他国との戦争に負けて、領土をほとんど持って行かれた結果らしいけど。
「ブラックはどうだった?」
「ああ、それが……」
俺は昨日あったことを粗方話した。
するとエルヴィンが、
「命の雫……もしかしたら、今夜のオークションであるかもしれないぞ」
「えっ? オークション?」
話を聞くと、どうやら今晩オークションが開かれるらしい。なんてタイミングと思わなくもないが、実はこのオークションは数日にかけて行われるらしく、しかも割と頻繁に開かれるのだそう。
数週間も滞在すれば一回はやっているところを見られるくらいの頻度だそうだ。
それに出品される可能性があるかもしれない。
「それって出品のリストとかないの?」
「なんでも『その時にならないとわからない』のだとか。何がいつ出品されるかは運次第らしい」
何その雑な感じ。
「なんでそんなこと知ってんの?」
「昨日、少し向こうの使用人と話をしてな。連絡先をしつこく聞かれたが、丁重に断っておいた」
こいつ逆ナンされていることに気付いているんだろうか。
でも、可能性があるなら行く価値はある。正直、命の雫はどこで手に入るかもわからない。一応各地のメイド達には「もし見つけたらいくら掛かっても良いから買っておいて」と連絡は入れているが、どこで見つかるかもわからない。
もし見つかったとしても、時間がかかってしまえば俺の体の方が持たないかもしれない。
スフィアさん曰く、俺はいつ動けなくなってもおかしくない状態にまでなっているらしい。あまり自覚はないけど、体が巻き戻るという異常事態に体力が追いつかない。
生命力を大量に消費してこうなっているらしい。……めちゃくちゃ迷惑なんだけど……
「……行くだけ行ってみるか」
「そうか、では余も」
「レクスはダメだ」
なんでだ、みたいな顔をされたが、普通に考えて子供を連れてそんなところに行くなんておかしいだろ。
そもそもそんな治安悪そうなところに王族連れていけない。何があるかわかったものではない。
ちらりと目をやると、スベンさんが凄い形相でこっちを見ている。……あの人なんであんなにおっかないんだろう。
「それなんだが。ブランも行くのは難しそうなんだ」
「なんで」
「入れるのがかなり上位のランクでないといけないらしく、大半の人は入ることすらできないと」
え……じゃあどうすんの?
「じゃあ僕が行きますよ。多分ランクで言ったら結構高いでしょうし」
「ああ、ソウルなら問題はないだろう」
なんか勝手に話進められてる。
「私は行けるのでしょうか?」
「悪魔もいけると思うぞ? 特にライトは人型の上級だからな、問題あるまい」
いや召喚主いなくて大丈夫なのか⁉︎
夜になった。
あれから情報をなんとかして集めたが、命の雫の情報はなく。
今のところオークションに賭けるしかない。
「それじゃあ行ってきます」
「ああ。行ってらっしゃい。気をつけろよ」
「勿論だ」
「行ってまいります、主」
今日のオークションはソウル、エルヴィン、ライトの三人に任せた。
交渉はソウルが得意だが、こういう駆け引きはどうなんだろう。まぁ、もう見送るしかできないけど。
不安だ……あいつら、大丈夫だろうか……
いつもこういうのは俺がやってたから、あいつらが出来るかどうかはちょっとわからない。
「マスター。心配なのはわかりますが、お体に障ります。オークションはかなり長い間開催されるとのことですので、今晩はお早めにおやすみになってください」
「……わかった。風呂を準備してくれるか?」
「かしこまりました」
ここで俺がどれだけ心配しても結果は変わらないだろう。揉め事に巻き込まれてなきゃ良いけど……




