二十六日目 ポイント
「それで、君達は?」
「あ、申し遅れました。私達、この洞窟でとある依頼を受けていた者で、冒険者ギルドのDランクパーティ【鈴蘭】です」
「右からメルさん、キキさん、ミアさんだそうです」
水色の髪がメル、桃色がキキ、ちょっと赤みのかかった金色がミア。よし、覚えたと思うぞ。
右から、メル、モモ、ミナだ。
あれ? 違う?
「ギルマス。自己紹介してくださいよ」
「ん? ああ、そうだな。俺はセドリック。一文無しの碌でなしだ。宜しくなー」
「よ、よろしくお願いします………」
別に間違っちゃいないだろ。おい、ヒメノ。なんでそんな目で見る。
「一文無しの碌でなしっていうより、不潔飲んだくれの方がちかいのでは?」
「俺は綺麗好きだ! 断じて不潔ではない」
飲んだくれは認める。だってゲーム内ではずっと飲んでるもん。
「あの、お二方はどういった関係で………?」
そう聞かれ、ヒメノとどちらからともなく顔を見合わせる。どういった関係か?
どういった関係なんだろうか。仲間っていうか、まぁ、友人か? 何て言ったら………
「恋人です」
「⁉ ゲッホ、ごふっ………!」
飲んでた水が気管に入った気がする。
「こ、恋人ですか⁉」
「でも、お二人とも、その」
あー、ヒメノも俺も男だって思ってる感じだなこれは。………そういや俺女だよな? 確認していないけど、流石に女だよな? え、セドリックに近くなったから男になってましたとかそんなのないよな?
いや別にそうだとしてもなんの支障もないんだけど。
こっそり確認。あ。女だった。
顔は完全にセドリックだけど、それ以外女だった。なにこのチグハグな感じ。
因みにヒメノはほとんどリアルの時と変わらない。金髪で茶色の目になったくらいだ。男前に磨きがかかっていらっしゃる。
「あー、わかってないようだから言うけど、俺一応女だから」
「「「えっ………」」」
まぁ、確かにこんな口調でガバァ、って股広げてやさぐれた目してたら女だなんて思わねぇよな。
「ご、ごめんなさい」
「いや、いいよ。別に。俺も紛らわしい格好してる自覚あるしな」
じゃあやめろってか? 止めねぇよ。
「一応証拠見せると、これ」
手袋をとってヒメノの手をとり、俺とヒメノの手の甲を向けると同じ指輪が光を放っている。
「「「本物だ………」」」
逆に偽物ってなんだよ。
【あら。私がいる前でまたいちゃつくつもりかしら?】
これはいちゃついてないだろ。ただ指輪見せただけだ。
ということでリリスはスルーさせてもらった。
「あ、改めて。僕はヒメノです。それとあそこにいるのはレイジュです」
「あの、どうしてあんなに大きな魔物がここに……?」
魔物じゃなくて霊獣なんだけどな………
「魔物、っていうか霊獣だよ。俺の召喚魔法で呼んだんだ」
「こ、こんなに長い間ですか⁉」
「長い間って…………そこまで時間たってないと思うけど?」
それに俺の回復量なら一生呼び出しておいても常にMPは満タンだぜ。
「あー、この人化け物ですから」
「誰が化け物だ」
フォローの仕方が雑い。まぁ、化け物じみてるのは反論できないけどさ………。
後ろにある魔物の残骸とか。
よくこんな血生臭いところで飯食えてるな俺。ちょっと凄いと思う。自分がな。
「あの、どこの方なんですか? 武器も珍しいし、ルーンの同時使用なんて始めて見ました」
「ヒメノも出来るよな?」
「慣れてるやつなら出来るけどギルマスみたいにその場の状況で組み合わせるのは無理です。そもそも左手がそこまで反応しません」
まぁ、そうだろうな。俺もこれで両利きになったんだし。
両手で違う絵を同時に書いているようなものだ。俺も最初は苦労したな。
「もしかして、大魔導師様ですか………?」
「? 俺はただの吟遊詩人だけど」
「「「吟遊詩人⁉」」」
え、なんかおかしいこと言った?
「あ、いや、その………」
「どうした?」
「吟遊詩人は下に見られることが多いので変えた方がいいのでは」
「なんで下に見られるんだ?」
話を聞いてみると。どうやらこの世界の人々は中二病的な感覚を持っている人が多く、攻撃力の高い職業が上に。サポート役なんかの裏方担当の職業が下に見られる傾向にあるらしい。
なんとまぁけしからん! 裏方がいるから安心して表舞台に立てるんだろうが。それは歌の本番だろうと戦いだろうと一緒だと思う。
何よりも土台が大事。これ鉄則。
「戦闘職にしたら戦わなきゃいけないじゃん。俺最低限でいいや」
「僕は前と同じですけどね」
「ヒメノはそれ一本だからな」
ヒメノは最初から魔法一筋だ。
回復系統の魔法は特に強い。強いって言うか、効きが良いって言うか。
「あ。あれ何とかしないと」
「そうだったな………インベントリ無いんだもんな」
「ギルマスもですか」
「ない」
持ち物もそうだが、今一番困っているのはポイントだ。さっきの戦闘でまたリリスが一部破損した。これじゃあキリもないしポイントも直ぐなくなる。
「ねぇ、通貨ってある?」
「ありますけど………」
「ちょっと見せてもらっても良いかな」
銅貨だ。表には数字と思われる記号と蔦の絵、裏には誰かの顔がかかれていた。握りこんでみる。あ、駄目だ。
「ごめん、ありがとう」
「は、はぁ………?」
なにやってるんだろう、見たいな顔された。通貨がポイントになるのかなって一瞬思ったんだよ‼
ああ、もうちょっと節約と貯金をしておけば良かった。
星操りシリーズ買った時点ですっからかんだったもんな………
「これ、ポイントにならないかな………ん? なんだこれ」
ゴーグルをはめて見てみると、ちょうど心臓の辺りがほんの少し温度が高いように見える。手を突っ込んでみた。
ん。なんかあるぞ。ビー玉?
近くに落ちていた(さっき殴り付けて即死させちゃった)よくわからん動物の心臓にビー玉が入っていた。
鑑定では魔石って出た。あれ? 魔石ってあの魔石? 小さすぎない?
ゲームでも魔石はあった。用途は武器の核に使うために。大体どんなやつでも拳大はあった。けどこれ、凄い小さい。こんな小さくて武器の核にはキツくないか?
武器の核にするにはかなり細かい文字を書き入れる必要がある。米に字を書くのと感覚的には似てるな。
そんなもんだからここまで小さいと武器としては使いづらいものになるはずなんだけど。
「あ、割れた」
ちょっと力いれたら割れちゃった。っていうか砕いちゃった。勿体ない………ってポイント増えてる⁉
もしかして、魔石を壊せばポイントが手にはいるのか⁉
「おっしゃ!」
「なにやってるんですかギルマス」
「ポイント稼ぐ方法見付けた。これ割ってみ」
「? なにも起きませんけど」
「あれ?」
自分が倒した魔物のやつじゃないとダメとかそういうこと?
わ、一気に面倒臭くなってきたぞ。




