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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百五十七日目 なぜワンピースってこんなに恥ずかしいんだろう

 それから数分後、なんだか疲れた表情をしてライトとソウル、ピネが帰ってきた。


 その後ろにはキュロスさんがいる。すっごい楽しそうな顔だ。


「いやぁ、楽しかったですなぁ!」

「「『………』」」


 楽しそうにしてるのキュロスさんだけだと思う。


 ピネが俺の頭の上に乗ってだらりとくつろぐ。


『あのヒト信じられないんですけどぉ……精霊の私にも殴りかかってきたのよ?』

「ああ、うん。キュロスさんそんな感じの人だし」


 もう種族とか関係ない。


 この人の場合、とりあえず殴り合えばどんな生物とも仲良くなれると本気で思ってるから。


「ブラン殿! これはまたお強いお仲間に恵まれておりますなぁ!」

「前にお伝えしたでしょう? 俺の仲間も結構強いと」

「いやいや、期待以上ですなぁ!」


 楽しそうで何よりです。


「主……キュロス様は人間なのですか……?」

「多分人間」


 ライトと互角に殴りあえる人間なんてかなり少ないだろうからね。


 まぁ、キュロスさんの場合は人間かどうかはちょっとわからないけど。


 血の匂いは人間なのは間違いない。


「それにしてもブラン殿はお可愛らしくなられまして」

「言わないでください。俺も結構気にしてるんで」

「それは失敬」


 苦笑するしかない。


 本来の姿がこれであることはソウルの反応からして疑いようがないけど、個人的にこの顔は好きになれない。


 小さくて可愛らしいとか、俺は望んでない。


 それにしても、この家の人たちはやっぱり腕のいい魔法使いだ。


 周りのことを魔力で判断する力が備わっているのは強い。魔法使いとしては魔力を感じ取れるのは大きなアドバンテージになる。


 敵の魔力量も計れるし、周囲の魔力を把握していれば直接視認しなくても魔法が打てる。


「え、ブランちゃん可愛いの?」

「可愛いですよ、ブランさんは」


 ニヤニヤしながらここぞとばかりに即答するソウル。俺の方を見ながら言うな。なんか恥ずかしい。


 スフィアさんの場合、俺のことは最初から見えていない。


 俺が大きく姿が変わっていることを、何となく察しているだけだ。


 元の姿も知らないしね。


「今の身長は、スフィアさんより少し高いくらいですね。確か、157センチ」

「なんで俺の身長はっきりと覚えてるんだ……」


 俺も覚えてない情報知ってて怖いわ。


「多少縮んだから服が微妙にないんだよな……」

「あ、じゃあ私の服要る? いっぱいあるの」

「いやいいですよ。お気遣いなく」


 スフィアさんはそう言いつつ、魔法で拡張しているらしいクローゼットから大量の服を取り出し始める。


 そんなフリッフリの服渡されても困る。絶対着ないし。


 出された服を見てソウルとライトが若干キラキラした目でこっちを見てるけどスルーだ。


 こいつら俺で遊ぶのが大好きだもんな。


「これとかどう?」

「……スーって目、実は見えてる?」

「見えてないよ。触り心地とかで選んでるの」


 ノースリーブの黒いワンピースだった。当然なんか知らんがフリッフリ。


 しかもなんか見た感じめっちゃ高そう。


 ……? このタグの模様、どっかで……?


「……これ、セグドールのですか?」

「確かそんな名前だったと思う」

「いやいやいや! おかしいですよそれポンと出すの!」


 セグドールって、世界的に有名なファッションブランドだ。


 特殊な方法でしか織ることができないシルクを使ったドレスが有名で、実は前に勲章授与式で着た……というか着させられたドレスがそれだ。


 正直、俺なら絶対に買わない高級店。


 あのドレスもゼイン達が勝手に用意してたやつだし、値段は知らんけど。知らんよ。


 知りたくもないです。知ったら多分一生着れない。


「でもこれ手触り柔らかくていいなって思ったの」

「そりゃそうでしょうよ……」


 最高級のシルクだもんな。この人急に金遣い荒くてびっくりする。


 ソウル達は気づいてなさそうだけど、今までお茶飲んでたティーセットもアンティークの高級品だからね?


 言ったら誰も紅茶に口つけなくなりそうだから言わないでおいてるけど。


「もらってあげて。先生、買ったはいいものの一回も着てないのよ」

「だって、思ったよりスカートの裾が広かったんだもの」


 そんな理由で高級品がタンスの肥やしになるのか……金持ちってすごい。


「でも」

「いいの。それより、これお願いね」


 スフィアさんが渡してきたメモには、かなり集めるのが難しそうな素材がいくつか入っていた。


 龍鱗とかなら幾らかは持ってるけど、世界樹の種子はちょっと手持ちがない。他にもいくつか探すのが大変そうな品物が書いてある。


「……やっぱり難しい?」

「そうですね。なんとかします」


 頑張ればなんとかなるな。ネットワークフル活用かなこれは。


「これを見ても平然としてるのは、さすが白黒の情報屋さんだね」

「いくつか手持ちもあるので。ただ、多少お時間はかかりますが」

「うん。時間なら開けておくから安心して」


 本当に申し訳ないなぁ。俺の都合にかなり巻き込んでしまっている。


「ありがとうございます」

「あのね、お礼に、と言ってはなんだけど一つお願いがあるの」

「なんでしょう?」


 スフィアさんは両手を合わせながら、とんでもないことを言ってきた。


「この街を出てブランちゃんのお家に入れてもらいたいんだけど……ダメかな?」








「ブランさん、大丈夫なんですか? あんな約束して」


 スフィアさんに頼まれたものを集めるために街を回っていると、ソウルが横から不安そうにそう話しかけてきた。


「……わかんない。けど、スーにはなんども助けられてるし、俺にできることならやってあげたい」

「最悪の場合、公国に乗り込まれますよ」

「そこなんだよなぁ……」


 スフィアさんはこの国の誇りだ。攻撃魔法を生み出し、使用することにかけては超一流の彼女は他国への牽制に充分なり得る。


 そんな英雄でもあり抑止力でもあるスフィアさんを簡単に連れだせる筈がない。


 裏から手を回そうにも結構キツイ。下手に他国民である俺が動き回ると、俺だけでなく他国も危険だ。


 戦争になるのはなんとしてでも回避しなければならない。


「なんとかしてこの国の上層部とかと繋がりを持てればなぁ……これが他の国だったらもっと楽なのに」


 公国に関しては、俺は商売をほとんどしていない。下地がない分、1から関係を築いていかないといけないから余計に大変だ。


「真面目な話しているところ悪いのですが、主」

「何?」

「お背中のリボンが緩んでいらっしゃいます。結ばせていただいても?」

「……うん」


 ……今、俺はさっきスフィアさんに渡されたワンピースを着る羽目になっている。


 なんでかと言われれば成り行きでなのだが。


 なぜかわからないが、ブーツまで貰った。黒い、これまたブランドもののオシャレなやつ。


「羞恥心が膨れ上がってる……足元、風通し良すぎて気持ち悪い……」

「可愛いですよ、ブランさん!」

「うるさい」


 結局一日中黒ワンピで歩き回ることになった。なんでだ。

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