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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百五十三日目 木の家

 スフィア・ルルス。


 この国だけに留まらず、全世界的に名前の知られている魔法使いだ。


 攻撃魔法の創作に関しては特に長けていて、魔法を導く師……魔導師という二つ名が付いている。


 ちなみに、魔法使い系統の職業(ジョブ)の中でも最上位のものは魔導()だ。漢字が若干違うだけという紛らわしさ。


 あ、ソウルは魔導士だよ。


 魔道士の中でも、ある一部の魔法に特化している魔法使いなら、稀にその魔法に関してのアドバンテージがついたりするものにジョブチェンジすることもあるけど、特化してるってだけで魔道士ではある。闇魔法が得意なら黒魔導士とか、炎系統が得意なら火炎魔導士とか。


 ソウルは別に何かに特化してるってわけじゃないから普通の魔導士だけどね。


 黒魔導士とかになると、確かに闇系統魔法は威力が上がるんだけど他の系統がむしろ威力下がっちゃうからあんまり特化ジョブ選ぶ人いない。


 まぁ、その話は置いておいて。


「スフィア・ルルスさん、ですか。攻撃魔法が得意という噂だけなら聞いたことはありますが……どんな人なのかという話は聞きませんね」


 ソウルは俺と一緒に情報収集することが多いから、噂だけはよく知ってるだろうな。


「あんまり俗世に関わらないタイプの人だからな。人となりはあまり知られてない」

「主はいつお知り合いに?」

「一年くらい前かな? 色々あったんだよ、色々……」


 正直あんまり思い出したくない。


『その人、呪術にも詳しいの?』

「いや、どうだろうな。多分その辺はあんまり詳しくないと思うけど。ただ、その人の弟子の一人が呪術師らしいから、俺のこの状況もなんとかしてもらえないかなって勝手に思ってる」


 背が一気に縮んだせいで見晴らしが悪いと、ピネは俺の肩ではなくライトの肩に乗っている。


 俺だって好きでチビじゃねぇやい。なんならド平均だ!


「今会いに行って大丈夫なのでしょうか? 主のお姿はかなり変わっていらっしゃいますが」

「多分大丈夫だろ。あの人、外見で人判断しないし」

『どういうこと?』

「会えばわかる」


 ということで露店とか見て回りつつ数十分歩き、例のスフィアさんのお家の前に到着した。


 家を見て、みんな一瞬言葉に困った表情を浮かべる。


「なんというか……木、ですね」

「うん。木だよ」


 家はただの木だった。


 いや、ちゃんと家してるんだけど、一言で表せば木だ。


 大樹を内側まるっとくり抜いてそのまま家にして住むというワイルドな造り。


 しかもそれは大きな木をオシャレに家に改造した、って感じじゃない。本当もうただの木。


 扉も見当たらなければ窓の一つすらない。大樹とはいえ、五人くらいでひっついて手を伸ばせば互いの手が握れそうなほどの太さだ。外見だけ見たら、めっちゃ狭そう。


 ベッド一つと、あとちっちゃい机置いたら限界くらいの見た目だ。


 周りの家はしっかり建ってるのに、この敷地は中心に木が一本生えてるだけだから、パッと見空き地。


「えっと、確かここにボタンが……あ、あった」


 木の隣にある表札がわりの立て看板の裏側にインターホンがある。なんでこんなわかりづらいんだろう。


 押してしばらくすると、木の中心からぽっかりと空洞が広がり、人が一人通れそうなくらいの大きさになる。


「さて、行こうか」

「これ、我々全員が入れるのでしょうか?」

「それに関しては心配いらないよ。中は広いから」


 家に入ると長い廊下があり、奥の部屋に続く扉の高い位置に嵌め込まれた磨りガラスからは明かりが漏れていた。


『本当、広い……!』

「驚くのはまだ早いぞ」


 長い廊下を進み木の扉を開けると、木の香りが漂った。その部屋は四階建てくらいの高さの吹き抜けになっており、幾つも設置された窓からは柔らかい日差しが差し込んでくる。部屋は円形で壁に沿って本棚が並んでいて、可動式の階段が複数設置されている。二階、三階にあたる場所はどこかの部屋へつながる扉がいくつかある。


 部屋の中心には大きな丸いテーブルと、複数の椅子。テーブルには大量の本が積み上がり、それがない場所にはティーポットとカップが置かれていた。


「凄い本の量ですね……!」

「ここの冊数はそこらの図書館の比じゃないぞ。ほとんどが魔法書だけどな」


 それより、肝心のこの家の主はどこだ?


 周りを見回し、意識を集中させる。


「あー……いた。そんなところで何やってるんです?」

「もう見つかっちゃったかぁ……やっぱり攻撃魔法以外は苦手だなぁ」


 天井付近の天窓の近くにある蔦でできたシャンデリアにくっついていた。


 なんらかの隠蔽系魔法で隠れていたのだろう。一瞬わからなかった。


 なぜかシャンデリアにくっついて一人隠れんぼをしていた彼女がスフィア・ルルス。


 その外見は十代半ば程度の腰まで届く長い茶髪を持った女の子だ。淡い青のワンピースを着て、サンダルを履いている。特徴的なのは目元で、両目は白い包帯で覆われており、その色を知っている人は殆どいない。


「いらっしゃい、ブランちゃん。そっちの人は?」

「精霊のピネ、使い魔のライト、それと以前お話ししたソウルです」

「へぇ……」


 くるくると三人の周りを移動し、何度か頷いた。


「覚えたよ。ピネちゃん、ライトくん、ソウルくん、だね。スフィア・ルルスでーす。”スー”って呼んでね」

「え、ええと、初めまして」

「うん! あ、お茶入れてくるから待っててねー」


 それだけ言うとパタパタと走り去っていった。


 俺たちだけぽつんと残される。


「主、スフィア様はもしや目が……」

「ああ。あまりよく見えてない。人のことや物の位置は魔力で判別してる」


 完璧に位置を把握しているとはいえ、


「きゃああああ! お湯こぼしちゃったあああ!」

「熱い!」


 いつも足元がお留守だからよく転ぶ。そして何かしらやらかす。


 スフィア・ルルスは世界的に知られた魔法使いでありながら、友人は多くない。


 その理由は、みんな何かしらやらかされて、嫌けがさし離れてしまうからだ。

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