二百五十日目 君たち一体何したの
最低ランク……本来ならこの国から追い出されてもおかしくないのだが、前回の記録が悪くなかったこと、魔力量だけ測定してみたら普通に魔法使いとして食べていけるくらいの数値が出たことから、今回はとりあえず滞在許可は降りた。
本当、なんで天使なんだろ……精霊召喚してって言われても無理だけどね。
魔獣か悪魔だったら自身あるよ俺……
「次の試験、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます……」
試験監督は優しかった。
前回の記録を見て「偶然調子が悪かったんですね」と納得し、追放を一旦見逃してくれた。多分この人が上に掛け合ってくれなかったら俺追い出されてたわ。
偶然調子が悪いとかの問題じゃなくて、ただ試験内容が俺にとって不利なだけなんだけどな。
なんとか手続きを終えて外に出ると、もう皆外で待っていた。まぁ、俺最後に受けたし当然か。
ちなみに、当然だがソウルが一番高ランクだった。
そして、ものすごく、とてつもなく意外なんだが、二番目がレクスだった。
「え、お前召喚できたっけ?」
「宮廷魔導師から少しだけ習ったのでな!」
ああ、レクスは宮廷魔導師に教わってるんだったな。俺会ったことないけど。
でもお城で働けるくらいなんだから相当有名な魔法使いなんだろうな。誰だろ。
「宮廷魔導師って誰だっけ?」
「ブラックは会ったことがなかったか。ルル・クラウディア殿だ」
ゼインの言った名前、聞き覚えがあるな。
ルル……えっと……ぁあ! 思い出した。
「何年か前、海底神殿を見つけて攻略したって人だっけ?」
「そうだ」
俺がこの世界に来る前の話だからちゃんと調べてないけど、確か、どっかの湖と海の境あたりにある海底神殿に潜って大儲けしたって人だったな。
魔法使いとしての腕もあるし、考古学や生物学にも詳しいと聞いた気がする。
「それにしても、レクスに負けるとは……」
「ああ、ドンマイ……」
ゼインが意外にも結構落ち込んでいる。一番落ち込んでるのは多分俺だけどな……
何せレクスよりも低いとかそういう次元じゃない。多分この国でも底辺中の底辺の位置に今俺は立っている。
「マスター、お部屋見つかりました」
「お、ありがと。じゃあとりあえずうちのメイドが家借りたみたいだし、行くか」
この街に入った時点で、この国で以前働いたりしていたことのあるメイドたちをお部屋探しに向かわせていた。
彼女らはランク測定いらないからね。
「少し滞在するだけで家まで借りたのか?」
「ま、家はあって困るものでもないし。それに俺の場合かなりの大所帯だから、普通に宿に泊まるより家買った方が得なんだよ。今回は滞在期間が不明瞭だから借家だけど、拠点とか作ることになったら丸ごと購入するかな」
「王族より王族っぽい考え方だな……」
俺も数年前までコンビニ感覚で不動産屋いけるようになるとは思ってなかったわ。
メイドたちが借りた家は、想像の三倍デカかった。
「………デカくね?」
「でかいですね……」
感覚が小市民の俺とソウルはそんな感想を持ったが。
「そうか?」
「普通だろう、これは……何かおかしいのか?」
「別荘の方が何倍もあるぞ?」
ゼイン、エルヴィン、レクスの王侯貴族たちは『何かおかしいことでもある?』って感じだ。
まぁ、こいつらは生まれた時から金があるから……。
目の前の家は、家っていうか屋敷だった。豪邸一歩手前の高級住宅って感じ。
周りの民家と比べて明らかに十分すぎるスペースを陣取っている。高いレンガの塀に囲まれていて中は窺い知れないが、その塀越しからでも屋敷がしっかり見える時点で少なくとも三階建であることは間違いない。
なんでこんなとこ借りちゃったの。
もうこれでもかってくらい目立ってる。お洒落でかっこいいけど……
「お待ちしておりました、マスター」
「……この家、いくらしたの?」
「明細がこちらに」
門を開けると、この国に先に送り込んだメイド達が待機していた。深々とお辞儀をしているその姿は、ピシッとしていて美しいが、なんか怖い。
いつも思うんだけど……なんか怖い。言葉に表せない感じのじわじわくる恐怖っていうか……
特に、夜中まで仕事で帰れなくて夜更けに戻った時にメイド達がピシッと揃って出迎えてくれるのが怖い。
「待ってないで寝ろよ!」って思うし、なんかそういう機械人形に見えてきて謎な恐怖が湧いてくる。
家に帰ると出迎えてくれる機械人形……あれ、日本にもそういうのあった気がするわ。
そんなどうでもいいことより明細だ。
一体どれだけの出費になって……? え?
「あれ? ナニコレヤスイ」
「なぜ急にカタコトに?」
「いやなんか思ってたより破格のお値段だったから……あ、事故物件とか言わないよね?」
「はい。その点は抜かりなく調べております」
これだけの敷地面積に、ちょっと古いがきちんと整っている庭や建物、諸々込みでこの値段は安すぎる。
ざっと俺がこの家の価値計算したけど相場の半額以下だぞこれ。
しかも事故物件じゃない。何か理由があるんだろうが、さっきから見てる感じ敷地自体に問題はなさそうだ。
ちょっと街の入り口や商業施設のたくさんある区画から離れているけど、誤差の範囲だ。ド辺境でこの敷地でこの建物でこのお値段! っていうのならちょっと納得できるけど、しっかり住みやすい土地だ。
「マスター、大家からこちらをお預かりしております」
メイドの一人が渡してきたのは一通の手紙だった。
っていうか君、今この手紙どっから出したの? 手品? さっきまで持ってなかったよね?
……まぁいいや。キリカもよくあんな風に服の裏とか胸元とかに、鎖鎌や折り畳みナイフ隠してるから……
メイドの神秘ってことにしとこう。
さてさて、お手紙には何が書いてあるのかな……
『あんたのところのメイド、なんて教育してるんだ…… 』
……え、何この怨念の込められた手紙……
手紙というか、メモだけど。
「……大家さんに何かやったのか?」
「いいえ。何も」
何もしてないのに心のこもったお手紙書かないでしょ普通。
なんかもう呪いの道具にできそうな気がするよこの手紙。




