二十五日目 非常食はとっておくべきだった
レイジュの背でリリスの点検をしながら適当にリリスの話し相手になる。
魔核保護部分異常なし、と。
【なんでメス豚のところにいくのよ】
「何でって言われても。あいつがここにいるってわかったらそりゃ行くだろ」
【女心ってものがわかってないのね、貴方】
「俺に女心判れっていう方が酷だと思う」
【そういうところがファンしか増えないところなのよ!】
まぁ、それはあると思う。これでも世界大会のチャンピオンだから俺のファンって結構多いんだ。
好きだって言ってくれたのはヒメノだけだけど………。
レイジュの毛に埋もれながらこれからのことを考える。
とりあえず人のいるところに移動して金を稼ぐ方法を見付けないとな………この世界にギルドあるかな。
そんでもってポイントを稼がないと………ん?
あれ? あれ?
「ポイントが増えてる」
【いつ?】
「わかんないけど、今見たらちょっと増えてた」
最後にポイントの確認をしたのは洞窟を出る前だから……あの蝙蝠?
魔物を倒すのが条件なのか? いや、それだったら兎の時も入ってただろうし、飛んできたやつキャッチしたときも入らなかった。これ、どういう基準なんだろ。
あ! ヒメノ‼ …………なんかよくわからん動物擬きに囲まれてないか? しかも後ろにいる人を守っているようでうまく戦えてない。
「…………なぁ、リリス。なんかヤバそうじゃないか?」
【ええ。どう見ても危ないわね。あそこのニンゲン怪我してるみたいだし】
「レイジュ!」
「ブルルルル!」
レイジュが俺の考えていることを察してくれたようでそのままヒメノのところにつっこんだ。
「レイジュ⁉ ってことは………」
「ヒメノ‼ 大丈夫か⁉」
「遅いですっ!」
殴られた。酷い。っていうかヒメノ、ゲーム内のヒメノモードに切り替わってるな、これ………。
「俺だって飛ばしてきたんだけど」
「僕洞窟出てからどれくらい経ったと思ってるんですか!」
「俺だって一本道しかなくて壁壊して出てきたんだよ!」
ちょっと言い争いをしてたらレイジュにつつかれた。
「っ、喧嘩は後だ。ヒメノ、その人たち治しといてくれ。ここにいる動物みたいなのは全部たお………殺すけどそれでいいか?」
「お願いします」
レイジュに下がっているように伝えてから両手で別々のルーンを同時に書いて打ち出し、ぶつかったところで発動させる。
風刃と拡散のコンボ楽でいいわ。ほぼ動かなくてもいいし。
【ちょっと】
「なに」
【MP大丈夫?】
「あ。あぶね」
予備の分とっておくの忘れてた。危ない危ない。
ってことはこっからは直接殺るしかないか。リリスを持って地面を蹴り、正面に居たやたらでかいサーベルタイガー擬きをアッパーで倒し、そのままの勢いで近くに居た蛇を掴み………あ。
「潰れた…………」
ぐちゃっと。う、うわぁ………自分でやったこととはいえ、まさに残酷非道だ、これは………
き、気を取り直して。回し蹴りで何匹か骨がバキバキっと。途中で軽く詠唱していた魔法で何匹かやったら、
「あ。終わってた………」
なんだこれ。弱すぎるだろ。初心者コース? っていうかじゃああの弾丸兎はなんなの。強すぎでしょ。普通に手強かったんだけど。
手には血がベットリついてた。水のルーンを書いて全身をずぶ濡れにして風のルーンで乾かす。火のルーンも合わせてるから温風だぞ。
「よし、綺麗になった」
石鹸で洗いたいけど我慢我慢。俺、化粧とか興味ないけど風呂は大好きなんだよね。どれだけ夜遅くても風呂だけは絶対入るって決めてるんだ。
最低でもシャワーはする。
「怪我治った?」
「もう少し」
近付いてみると俺とそう変わらないくらいの年の子だった。二人いて、両方とも女子。
「はい、治りましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
怪我治って良かったね。さてと。
「で、これどういう状況だったの?」
「洞窟のなかで会ったんです。そうしたらここから出るって言ってたから同行させてもらいました。それでギルマス待ってたら襲われたって訳です」
「だからといって俺にあたるなよ………こっちはこっちで歩いても歩いても一本道で逆に不安になったからレイジュ喚んで壁壊しながら出てきたんだぞ。途中で変な兎と蝙蝠の群れに遭遇するしで」
兎は中々強かったぞ。
「兎って………」
「いや、兎めっちゃ強いからな⁉ なんかとんでもなく速いんだって。一瞬反応遅れたし」
ワールドマッチ出れるぞあの兎。いや、兎だけど。
「それで、その兎どうしたんです」
「非常食にしようと思ってたんだけどレイジュが食べちゃった」
「……………」
なんだよその目!
「兎を非常食って」
「いやマジでなんにも無かったからな⁉ 壁壊すまで遭遇したの兎だけだよ」
ま、もうその兎さんもレイジュの腹の中ですけどね。腹壊さないんだろうか。今更心配になってきた。けど、雑食だし。大丈夫ってことで。
「えっと………」
横から声をかけられてやっと思い出した。この子たち居たわ。
「?」
「あの、助けていただいてありがとうございました。なんとお礼をしたらいいのか………」
「じゃあひとつ、欲しいものがあるんですけど」
「私たちで出来るものなら」
「食べ物、ちょっとでもいいんで分けてください………」
マジで、死にそう。非常食はレイジュの腹のなかだしそもそも捌き方知らんし。あ、いや、分かるな。
料理のスキル使えば行けた気がする。もう遅いけど。
「これでよければ」
「ありがとう!」
「ギルマス」
「なに」
「空腹状態で魔法使ってたんですか?」
「ん」
あ。不味い。いや、今口に入れた物じゃない。口の中の物は美味しいです。ヒメノの後ろに般若が見える気がする。
「ギルマス?」
「はい」
「絶対やるなって言いましたよね?」
「だって食べるもんなかったんだもん………あだだだ⁉ 千切れる‼ マジで千切れるから‼」
「可愛い言い方しても無駄ですよ」
なんでヒメノがこんなに怒っているのか。それはゲームのシステムが関係している。
料理人のジョブもそうだけど、何故ゲームの中で飲食をするのか、っていうのはMPの消費が関係している。
魔法や魔技(MPを使った戦闘のこと。身体強化とかのことね)を使うと、腹が減る仕組みになっていて食べ物を持ち歩かないと空腹で死ぬことが初心者ではよくある失敗だ。
だからそれなりに食べ物は大事だと口を酸っぱくして言われている。だから毎回クエスト前に酒場に行ってなにか腹にいれてから行くんだけどな。
俺のギルドではそれを義務付けている。食べてから行くようにってね。
「なんで毎回食ってから行けよって言ってる人がそんなことやってるんですか」
「本当になかったんだって! 非常食もレイジュが食べちゃったし」
「ブルル?」
何? みたいな目でこっちを見てくるレイジュ。女の子三人組はレイジュが怖いようなのでレイジュは大分遠くに行ってもらった。
「はぁ、なんでそんな自殺行為………」
「俺だってできれば直接戦闘だけで終わらせたかったんだよ」
ぶつくさ文句を言うとまた殴られた。今度はパーだったけど。
「心配、するに決まってるじゃないですか」
「それに関してはすまないとしか言えないな」
横にいる女の子三人組。すまん。なんか会話しづらいよな。ごめん。




