二百四十九日目 ランク測定
ユーザリア学園という名前の学校は世界的にも有名な魔法学校だ。
魔法の発達した公国にある唯一の学校でもあり、多くの著名な魔法使いを輩出している。
その影響力は大きく、国の機関の一つでもある。魔法が全てのこの国では、その魔法の実力を測る方法を学園に委託している。
つまりこの国の国民を決めているのはユーザリア学園だ。
なんなら貴族より権力を持っている。
ユーザリア学園に到着した俺たちは、旅でここに立ち寄ったのでランクの測定をしたいと門の前に立っている人に申し出るとすぐに案内してもらえることになった。
待合室に通され、順番待ちをする。今日は少し混んでいるみたいだな。俺たち以外にも測定待ちの人が何人か椅子に座って自分の番を待っている。
「ブランはここと取引はしないのか? あまり来ることに乗り気ではなかっただろう」
エルヴィンが不思議そうに訊いてくる。まぁ、俺基本的に権力者に知り合い作っておきたいタイプなのに世界的に有名な学校と話し合いしてないってところが疑問なんだろうな。
「うーん……正直、そこまでのメリットが俺にはないんだ」
国の治安の動きや物価の推移なんかを調べてほしいと頼んでくる王族とは違い、この学園の求める情報って大したことじゃないから街の人に情報を売るのと利益率はほとんど変わらない。
それにこの国では商売がし辛い。
魔法で何もかも管理する体制が出来上がってるから、ふらっとやってきてゲリラ的に商売するっていう俺の商売スタイルが認可されない。
前もって申請して、営業許可とって、とか正直面倒臭い。
他の国ではその辺甘いから酒場の店主とかに「ここでやっていい?」って訊いて了承がもらえれば勝手に働ける。
もちろん使わせてもらってる分の場所代は払うし、いくら稼いだか計算して法の規定分の税金は納めるけど。
それ以前に、俺は結構魔法の道具を作ることが得意だ。
自作の道具や武器、ゴーレムなんかを常日頃から持ち歩いて使ってる。盗み聞きしたりね。
この国ではそういう道具も規制が厳しいんだ。
だからそもそも情報が集めにくい。そんな状態で情報は売れない。
「不確かな情報は売れない。結局確認とかにお金使うから売り上げはそんなにないっていう計算になるんだ」
「そうか。納得した」
そんなことを話している間にも一人、また一人と審査の部屋に通される。この試験では誰かと共謀して結果を誤魔化したりできないように審査はひとりずつ行われる。
ソウルが行って、レクスが行って、ゼインが行って、エルヴィンが行って……
……なんで俺最後? もう部屋誰もいないんだけど。
「ブランさん、お待たせしました」
「あ、はい」
荷物を持って案内人のお姉さんについていく。
この試験では毎回形式が異なるらしい。ちなみに俺が前回受けた時は水をどれだけ綺麗に凍らせることができるか、という内容だった。
意外と平和。
「では、こちらへ」
通された部屋は殺風景な広い空間だった。小さめの体育館並みの広さ。
横には試験官らしきメガネをかけた男性が立ってこっちを見ている。前回は二人いたけど、今回は一人らしい。
手にはバインダーを持ち、いかにも仕事できそうな風体だ。
「それでは、ランクの測定を行います。ランクのご説明は必要ですか?」
「いえ。前にも受けたことがあるので」
「ああ、そういえばデータに残っていましたね。ではさっさと終わらせましょう。早く帰りたいので」
この人思ったこと口に出しちゃうタイプなのかな?
俺も早く帰りたい。
「今回の試験は『召喚』をどれだけ完璧に行えるかです。喚び出し、仮契約をし、何かしらの方法であの的を攻撃してください。攻撃方法は魔法、呪術、物理、なんでも構いません。ただし、元から契約している個体を喚び出した場合は失格です。あくまで試験なので、今この場で召喚することを重要視しています」
なるほど。
確かに召喚術は結構難しい。前イベルたちにやり方を教えた時みたいに、失敗する可能性の方が高い。
自分にあったランクの存在を喚び出せなければ言う事を聞いてくれないしな。
でも俺にとって召喚術は得意な方だ。悪魔なら大抵言うこと聞くし。
「あ、それと。召喚するのは『天使』でお願いします」
「え?」
てん……し?
「はい。天使です」
……ヤベェ……俺、試験……測定範囲外かも……
「天使じゃなきゃダメですか」
「天使でお願いします」
えっと。マジでどうしよ。
……覚えている人もいるかもしれないんだけど。俺、天使とか精霊とかの『神聖』な存在に頗る嫌われる体質なんだよ。
その代わり悪魔はホイホイ寄ってくる。魔力の質の問題らしいんだけど、とにかく天使を召喚しようとして成功した覚えはほぼない。
悪魔か魔物なら即座に反応してくれるのに、よりによって天使。
とりあえずやってみよう……奇跡は起こるかもしれない。
陣を描き、魔石を放り込み、念をこめつつ魔力を送る。
「「………」」
「「……………」」
「「………………」」
「あの、やってもらっていいですか?」
「やってます……」
ダメだ。ピクリとも反応がない。
天使がそもそも俺のことを完全に無視してきている感じがする。
これはいくらやっても一生現れない気がする。
「悪魔なら本当、1秒くらいで出てくるんですけど……天使って、反応してくれなくて」
言い訳してなんとかなるのなら言い訳したい。
せめて試験内容が悪魔召喚だったら良かったのに、まさかの天使だった。
結局十分粘ったが天使は現れず。
評価はもちろん最低点だった。




