番外編 神隠しのクリスマス ブランside
クリスマスって何か特別なことしなきゃいけないって気分に襲われます。
というわけでブランに特別なことを押し付ける龍木です。
この回は完全にお遊び回です。読み飛ばしてくださって構いません。時系列的には、七騎士に目をつけられ始めた頃のお話になります。
寒い。俺は寒がりだ。
それは周知の事実である。だって俺冬に相当着込むのをみんな知ってるから。
そして知ってて仕事に送り出してくる。
「ブランさん。今日は会合に顔出しに行かなきゃいけないんですからもっとピシッとしてください」
「めんどい……寒い……俺今日は一歩も外でたくない。雪降ってるよ。ほら」
窓の外を指差すが、ソウルは資料をカバンに詰めるので忙しいらしく窓の方なんて見やしない。
俺の扱いってこんなもんだよな、と最近思わないでもない。
「マスター。準備終わりました」
「わかった行くから雪やむまで待って」
「待ちません。今日は一日中雪が降るんですから止むの待っていられませんよ」
一応今日はクリスマスなのに……いや別に国民の休日でもなんでもないけど。この世界にクリスマスないけど。
せっかく雪降ってて雪合戦とかできそうなのに、遊べる時間もない。
……雪合戦ってワードがなんか子供っぽいよな。俺って精神育ってないのかもしれない。
キリカと一緒に外に出る。寒すぎる。凍る。マジで死ぬ。
【死なないわよこれくらいで】
そうかもしれないけど、体感的にめちゃくちゃ寒い。それに俺は体温低いから余計寒い。
【それ関係あるの?】
ない、かもしれない。
そんな風にどうでもいいことをリリスと話しながら目的地に向かう途中、何かを踏んでしまった気がした。
急いで足を上げると、瞬きした瞬間に足元が石畳に変わっていた。
……? ??? ?!?!?!
え、石? 雪はどこ行った!?
咄嗟に周りを見回すと、雪なんて降っていない。かなり広い広場の中央に噴水と謎のオブジェ、周りを取り囲んで屋台が沢山並んでいる。
どこか近代的な趣の感じられる建物(市役所っぽい)や、漆喰の壁でできた家などが見える範囲では確認できる。
【ここ、どこなの……?】
「わからん……っていうかキリカは⁉︎」
一緒に歩いてたよね?
……居らへん。俺だけ変な場所に転移しちゃったってこと?
もしかしたら誰かの罠かもしれない。最近変な奴らに目をつけられてるし、警戒するに越したことはない。
自分の体にルーンをいくつか書いておく。これでもしもの時、ほぼノータイムで魔法が使える。
ただ、体に直接作用する系統の魔法しかストックできないから簡単な身体強化魔法や飛行魔法しか書いておけないんだけどな。
さて、どうするか……
お、人がこっち来た!
……なんかすごい目立つなあの人。
髪は白に近い銀色で、左目が緑、右目が赤、しかも本来白いはずの部分は真っ黒だ。おまけにソウルに負けず劣らずの美形ときている。
どうやらこのあたりの纏め役なのか、周りを下がらせてから俺に向かい合ってきた。
「#$&&¥@::*;、#$%&%¥@**? #$%$、&&#¥、#%$&、@*.,¥$#&%」
……わーぉ。一片たりともわからない……
【貴方あやしまれてるんじゃない?】
「多分そうだな……」
どうしよう。どうすれば穏便に済ませられるんだろうか。
なんか見た感じ俺の方が立場悪そうだし。
「%#&%`……*&$#"&#……」
美形さんは何か呟いた後、急に突っ込んできた。
咄嗟に収納からカイトシールドを出して斜めに構える。
すると美形さんの持ってる棒から半透明の鎖が飛び出してきて、思いっ切り盾に当たった。
【どんな原理なのかしらね?】
俺が知りたいよそれ! 美形さんも本気じゃなかったみたいでなんとか防げたけど、ちょっと手がピリピリする。
っていうかこの美形さん思ってたより脳筋なのか⁉︎
とりあえず捕まえてから吐かせようとしてる人の目だよそれ⁉︎
欲を言うなら対話の努力をして欲しかった。
「……$#%"&?」
「マジでやる気なのこの人……」
多分本気じゃない一撃を受けてこの衝撃だ。まともに当たったら大怪我しそう。
ゴーグルをはめて目潰しを防ぐ準備をし、暴食を発動させる。
っ……! 毎度この発動時に注射針で突き刺されるみたいな痛みはなんとかならないかな……!
そうこうしているうちに騒ぎが大きくなってきて、人が集まってきた。
すると、急に野次馬から飛び出したワイルドな見た目の男性が魔法を放ってきた。
この人も急だな⁉︎
ここはこういう国なのか? 怪しい人物にはとりあえずなんか攻撃しとけ的な。
雷系統の魔法ならさっき腕に書いたルーンで逸らすことができるはずだ。
「発動」
言葉一つでルーンが反応し、まっすぐ迫ってきていた雷の矢が俺の手前で真上に逸れていく。
【貴方今成功したからよかったけど、もしこの魔法が逸らせないものだったら死んでるわよ?】
……あ! そっか! よかった魔法逸らせることができて!
【相変わらずギリギリで生きてるわね】
悪かったなギリギリで!
盾を構え直すと、また美形さんが突っ込ん……⁉︎ え⁉︎
あまりにも速すぎるぞ⁉︎
さっきのはだいぶ手加減されてたのかよ!
咄嗟にカイトシールドに硬化の魔法をかけて美形さんの攻撃を受け流す。
耳障りな金属音をたてながら火花が散った。
くっ……! 受け止めるのは無理だと思って横に流してるのに、めちゃくちゃな威力だ。ただ逸らしてるだけなのに腕が痺れる。この人ほんとどんな腕力なの⁉︎
ただ、美形さんも流石に空中で急停止はできないだろうから、受け流した先で膝蹴りを喰らうように足をだす。
すると美形さんは武器を石畳に思いっ切り突き刺して急ブレーキ、膝蹴りを躱した。
【すごいわね。貴方のそれ、最初からわかっていなければ回避は相当難しいのに】
勢いに乗っているところに不意打ち気味に顔面に膝蹴りを喰らわせる。結構得意なんだけどなぁ……
それにしても、リリスが認めているなんて珍しい。やっぱり余程の使い手なんだ。
暴食で普段の三倍の力になっているとはいえ、相手が規格外すぎる。
だから、避けられるのはなんとなく予想していた。
膝蹴りを避けられたと認識してすぐに前に踏み込み、今度はこっちが突っ込む。
美形さんはやはりというかそれにすらすぐに反応し、中間地点で盾と白い謎の棒が激突する。
「「ぅっ……!」」
衝撃は両者浴びているはず。美形さんも俺と同じタイミングで呻いた。
ただ、地面は耐えられなかったらしい。石畳が大きく割れてあたりに飛散する。
ヤバッ……! 前傾姿勢取りすぎて弾かれると背中からコケることになる……!
【蹴りが来るわ!】
嘘でしょ⁉︎
この状態でも蹴ってくんの⁉︎
リリスの言う通り、美形さんは倒れながらも右足で確実に俺の顎を狙って振り上げてきていた。
ダメだ、受け流すには間に合わないし、受け流したところで俺の方が遅いから二撃、三撃喰らうのは俺だろう。なら、無理矢理にも距離を取るべきか!
盾で顔面を守りつつ、わざと踏ん張らずに攻撃をうける。
っ、いってぇ……!
人一人をあの体勢から軽々と吹っ飛ばすってどんな脚力だ……。
まぁでも距離はとれ……え? ちょっと待ってそっち噴水……⁉︎
顔面から噴水に突っ込んだ。
水面に叩きつけられた痛みとかそんなことより、めちゃくちゃ寒いのがやばい!
だって噴水、ちょっと氷張ってたよ⁉︎
普通この時期って凍って動かなくなるから噴水止めるよね⁉︎
ここは真冬でも普通に稼働させんの⁉︎
「……寒すぎや死んでまうわ……!」
這い上がってから、つい日本語で文句を言った。
すると真横から、
「え、日本語? あんた日本人か?」
と声をかけられた。やっと言葉の通じる人が!
「え? ……やっと言葉の通じる人おったと思ったらこの人かい」
なんとなくツッコんでしまった……。
よりによってこの人と話せるのか。って言うかなんでこの人も日本語話せてるんだろうか。
ああ、もうだめ。とりあえず寒すぎて頭が働かない。
「いや……なんかこのタイミングで言うのも何ですが、休戦しませんか? 正直自分、今の状況なにも分かっていなくて情報交換できるならしたいです。って言うかこんな外気温でびしょ濡れ状態でちょっと死にそうなんでせめて着替えさせてください」
「あ、ああ……そうだな。おとなしくしてくれるなら、別に」
「いやもう勝てないのはわかってるんで。殺し合っても生産性ないでしょう。殺されないならなにもしませんよ」
ということで、この人の家らしき場所へと向かった。
ひ、広っ……!
なんだこのお屋敷は……!
しかも聞いたところによるとこの街の5分の一は美形さんの所有地っていうか、自宅らしい。
天は二物を与えないって嘘だと思う。強いし、美形だし、金もあるっぽいし。
俺はただ頑丈なだけだから。
「先に風呂に入ってきたらどうだ……? 多分湯は張ってあるから」
「え、あ、いいんですか?」
で、お風呂をお借りします。
「ふ、風呂場までデカイ……俺ん家のもそこそこデカイと思ってたけど……なにここドラゴンでも入浴するのか……?」
【お風呂場っていうより、銭湯か温泉ね】
ここだけ解放して入浴料とったら結構いいお金になりそうだな。
【真っ先にお金のこと考えるのやめた方がいいわよ】
仕方ないだろ真っ先に浮かぶのが金のことなんだから!
おお、なにこれ石鹸めっちゃ泡立つ。泡に弾力があってふわふわだ。
いいなー、これ。欲しい。
風呂の温度はちょっと熱めだった。冷えた体には丁度いい。
「はぁー……気持ちいいな……いつもはメイドが横に付いててなんか寛げないし」
【あれ、貴方が指示してああなったんじゃないの?】
そんなわけあるか! 風呂の間ずっと見張られてて楽しい人って中々いないだろ!
なんかわからないけど風呂入るって言ったら「お背中お流しします」って付いてくるんだよ……背中流してもらわなきゃいけないほど体硬くないのに。
【気になる所はそこなの?】
風呂から上がると、俺の服は綺麗に洗濯されていた。魔力流せば汚れ落ちる繊維でできてるんだけど……洗濯してくれたならそれでいいか。なんか至れり尽くせりだ。
魔法を使ったのか、もうすでに乾いている。
それを着て廊下に出ると、さっき魔法を撃ってきたワイルドな人が丁度歩いてきた所だった。やっぱりここの関係者だったのか。
「む、先の侵入者か……」
「あ……さっきはすみません。っていうか日本語喋れたんですね……」
「一応はな。応接室へ行くのだろう? 某が案内しよう」
「ありがとうございます」
方向音痴だから正直助かった。
風呂場に入る時、この角曲がって階段下がって、右の突き当たりの部屋まで来てって言われたけど。辿り着ける気がしなかったんだよな。
この世界の文字読めないから応接室って書いてあってもわからないし。
無言でワイルドな人の後ろを付いていく。
「先の、某の魔法。どうやって躱した?」
えっ、急に話しかけてきた。
「えっと、予め準備していた魔法を遅延発動させただけです。その魔法自体は別に難しいものでもなくて、攻撃をただ一方向へ受け流すだけのものなんですが」
「だからまっすぐ上へ逸れたのか。あれが途中でカーブしていたらどうだった?」
「発動の条件が結構厳しい魔法なので、多少は喰らっていたかもしれません。攻撃を受ける向きと流す向きが異なっているとかなりやりづらいので」
「そうか……もう少し練習してみるとしよう」
結構素直なんだなこの人。
ワイルドな人が部屋の扉を数度ノックすると、中から美形さんの声がした。
開けると、美形さんが椅子に座って待っていた。正面の椅子を手で示されたので向かい合わせに座った。
……面接?
「あ、お風呂、ありがとうございました」
「……凄い寒がってたからちょっと温度上げさせたけど、あれで良かったか?」
「えっ、あ、はい! あったまりました」
熱めの湯だったのは配慮してくれてたんだな⁉︎
こ、これが金持ちの余裕……!
【貴方も一応有数の資産家ってこと忘れてない?】
俺の金は必要経費と部下への給料でほとんど使用不可だからな! 仕事で金が入っても配るからほぼ財産は増えてない。
【雇いすぎなんでしょ、手先を……】
手先言うな。
「それで、事の経緯を聞こうか」
「えっと……」
なんて話せばいいのか。仕事中に急に何かしらの魔法が発動したかなんかで転移してきちゃいました。でいいのか?
すごく素直に話せば話すほど胡散臭くないか、俺の話?
【貴方は元々胡散臭いわよ】
やめろ。
「ーーーーで、気づいたらそこにいました」
とりあえず正直に全部話す。だって俺にもよくわからないんだもん。
なんか話を聞いてみるとこの街は街全体に魔法がかかっていて、この人の許可なしでは入ることは基本不可能らしい。この人本当に何者なの。
あ、だから問答無用で襲いかかってきたのか。入ってるってことはそれ即ちこの人の魔法をすり抜けて侵入できるってことだから。
「仕事はなにを?」
「所謂情報屋ですね。後は必要に応じて色々と副業を」
「情報屋って儲かるのか?」
「いや、全然。自分の場合は傭兵も兼ねてるところがあるので何とかやっていけてますけど、庶民向けの情報ばかりを取り扱っているので単価は低いです」
「へー」
なんか途中からただの雑談になってきた気がする。
「え、VRの? そんな高度なゲームがあるのか?」
「昔はむしろ現実世界との差が激しすぎるってんであんまり売れなかったらしいんですけど、ヘルメットタイプのものからヘッドホンタイプのものになってから見た目もカッコいいってバカ売れしたんですよ。そのお陰であらゆるゲーム会社がVRに本腰を入れ始めて、今ではかなり技術が進んでます。触覚や視覚はもちろん、嗅覚や味覚までもが再現されてます。まぁ、食べ物の味ってのは完璧には再現できなくて、ちょっと味気ない感じにはなっちゃうんですが」
これに関しちゃただの趣味だよな。
どうやらこの人のいた時代の日本はそこまで技術が発達していなかったそうだ。
互いの話を互いでしていくと、俺もこの人も元日本人で音楽をやっていたらしい。
「自分弦楽器弾けないんですけど、テストとかってなにやってたんですか?」
「俺の学校は……課題曲と自由曲、それとスケールがランダムで出てたな。歌はどうだったんだ?」
「歌はそんなに難しいことないですよ。課題曲と自由曲だけです。基本は古典歌曲かオペラアリアですかね」
「ああ、そうだよな……声楽科ってアリア歌ってるイメージしかないかも」
学校の実技試験とか、謎にそういう話で盛り上がる。
「でもお金ないと音大って難しいですよね」
「私立ばっかりだしな……年間二百万の授業料取る学校もザラだし」
「お家にお金ってあったんですか?」
「いや、なかったけど……授業料免除の特待制度使ってたから」
え。この人頭もいいの? なにそれ最強じゃん。
音楽科って実技だけできてもダメなんだよなぁ。和声の授業なんて半分数学だし。
「そういえば……名前、聞いてなかったな……」
そういや普通は最初にそれ訊くよな。さらっと流してたから……っていうかこの人俺の中では『美形さん』で固まっちゃってるんだけど。気づけば話し始めて3時間経ってた。
「あ。忘れてました。今はブランです」
「俺は白亜だ……」
わお。お名前までキラキラですね。
っていうかずっと気になってたんだけど……なんでこの人こんなにも目が死んでるんだろう……
いや、最初からなんかすっごい疲れてるんだなぁ、くらいには思ってたけど。
もしかしてこれがこの人……白亜さんの普通なのかな。
「ところで……腹減ってるか? 食事、用意させるけど」
「いや、勿体無いんで遠慮させていただきます。自分、食事はほとんどとらないんですよ」
「どうやってエネルギー摂取してるんだ?」
「あー……」
種族のこと、この人になら、言ってもいいかな……
「自分人間じゃないんですよ」
服を捲って魔力の凝りでできた痣を見せて、自分が吸血鬼であること、ヒト成りであることをざっと説明した。
白亜さんは『そんなこともあるんだなぁ』くらいの感じで聞いていた。なんか色々凄いなこの人。
話をしていると、ドアがノックされた。白亜さんは俺に入れてもいいかと目配せしてきたので頷くと、ドアの向こうの相手に返事をした。
声からして男性らしい。
入ってきたその人は、どことなく雰囲気がソウルに似ていて、少し反応してしまった。
声も顔も違うのに。
「どうしたんだ?」
俺の反応に白亜さんが怪訝な表情で尋ねてきた。
「あ、いや……ちょっと知り合いに似てて。別になんでもないです」
わかりやすく狼狽えてしまった。余計怪しいな俺。
その人はある紙を白亜さんに見せた。チラッと見えたが、あれスクロールじゃないのか?
なんか無駄な線とか大量にあるけど。
「今朝届いたんですが……師匠、これが何かわかりますか?」
「なんだこれ」
「わかりません。この家のポストに入っていました」
え、この世界じゃスクロールは一般的じゃないのだろうか。それともルールが違うのかもしれない。
「すみません、ちょっと失礼」
よく紙を見せてもらう。うん。やっぱりスクロールだ。それも転送に使うやつ。
確か収納にこの前作ったやつが入ってた気が……右手に左手を突っ込んで探してみる。
「ああ、あったあった。これですよ」
「「!?」」
え? なにその表情。俺と出会ってからほぼ表情変わってない白亜さんまでちょっと口開けて驚いてる。
「っていうかその手何」
? !!!! あ! しまった収納をサラッと使っちゃった!
……仕方ないか、使っちゃったもんは使っちゃったで割り切ろう。なんなら白亜さんと対峙した時にカイトシールド収納から出してるしね。
簡単な収納の説明をしてからよくよくスクロールを見返してみると、やっぱり使用済みになってる。
しかも、なんか魔力の流れ方がおかしい。スクロールは使った後、どんな風に魔力を使用したかという跡が残る。それがなんかやけにグチャグチャだ。
さっきダイさん(あのワイルドな人。さっき歩いてる時に名前教えてもらった)の魔力を受け流した時に感じたけど、この世界の人は多分使用する魔力の質が違う。このスクロールはこっちの世界の人の魔力には調節してないから、かなりの無駄が出てるんだろう。
そのことも白亜さんに伝えると、なんか急に苦々しい顔をし始めた。
「どうしたんですか師匠?」
「……別に」
ソウルに雰囲気が似た人が白亜さんに話しかけるが、白亜さんはどこか上の空だ。どうやら何か考え込んでいるらしい。
そして数秒後、突然立ち上がった。
「……考えれば考えるほどあいつのせいな気がしてきた。ちょっと行ってくる」
「どこに⁉︎」
ソウルに雰囲気が似てる人がツッコんだが、白亜さんはそのまま部屋を出ていってしまった。
「「………」」
気まずい……。
「えっと、自分、ブランって言います……」
「あ、ご丁寧にどうも。僕はジュードです」
「なんていうか、その……大変そうですね」
「師匠の独断突っ走りは珍しくないので……」
サラッと『あの人自己中だから』みたいな発言が出てくるあたり、白亜さんって結構ゴーイングマイウェイなんだろうな……
「師匠って呼んでるってことは、白亜さんの?」
「はい。弟子を名乗らせていただいてます。師匠には全く追いつけませんが……」
「あの人基準だと、多分誰も勝てないと思う……」
多分リリスでも負けるな。
【あら。結構いい勝負はできるかもしれないわよ?】
どちらが勝つにせよ、周囲に甚大な被害が及ぶことは想像に難くないがな……
そうやって話していると、白亜さんが帰ってきた。
「あ、師匠。おかえりなさい。結局どこに行ってたんですか」
ジュードさんのこの反応。慣れてる感じが半端じゃない。
「チカオラートのとこ」
「え?」
白亜さんの返しに、ジュードさんが目を丸くする。ボソッと「そんな気軽に会いに行っていいの……?」とかつぶやいている。
そのチカオラート、さん? はどんな人なんだ。
「ブラン」
「どうしました?」
「すまない。今回の件、こっちに非があったみたいだ」
「へ?」
ドユコト?
「この世界の神……甲冑を着たうざったいやつなんだが、そいつが遊び半分でこのスクロールを作って起動させてしまったらしい。それが偶然ブランに反応して呼び出してしまったみたいなんだ」
「え、でもこれ転送のスクロールですよ? 生き物は多分運べないんじゃ……」
「仮にもあいつ神だからな。……予想外の魔力に発動してしまったんだろう。しかも魔力送ってから数時間後に起動するっていうタイムラグがあったからすぐに犯人を特定できなかった」
……わぁ……正真正銘の神隠しかぁ。
しかも白亜さんその神様に向かってすごい事言ってる。
ま、でも面白いなそれ。っていうか俺でよかったよ呼ばれたの。日本語通じる白亜さんが偶然いたってのも凄いけど。一般人がこんなところに飛ばされてたら身が持たない。
「本当に申し訳ない。うちの馬鹿甲冑野郎が馬鹿やったせいで迷惑かけた」
……白亜さん、本当辛辣だなその神様に対して。
「すぐに元の世界へ送ろう。あいつ締め上げて座標は吐かせてきたから……」
「………」
この人、本当は結構短気なのか……。
「思いがけないクリスマスプレゼントってことにしておきますよ。このことは一応黙っておきます」
「そうしてくれると助かる」
「ええ。そうしておきます」
本当、思いがけないよ。
……でも、ちょっと楽しかったかな。
会合に向かう途中で転移してしまったので、その時間軸に送ってもらった。
相変わらず雪が降っている。
「送っていただいて、ありがとうございました」
「いや、こっちのせいで迷惑をかけたんだ。当然だよ。ついでに、これも持っていくといい」
白亜さんはいくつかカップケーキの入った箱を渡してくれた。ふんわり甘い匂いが漂う。
「白亜さん」
「ん?」
「また、会えるといいですね。いつか」
「……ああ。今度はちゃんと予定立ててな」
そして白亜さんはボソッと『もうしないように甲冑野郎を後数発は殴っとくか……』とか呟いてた。
後数発は、ってことはもうすでに一発は殴ってるんだろう。
「それと、どうでもいいこと訊いていいか?」
「? どうぞ」
なんだ急に?
「関西弁が素じゃないのか?」
……え? 今更?
「……そうですね。素はもっと乱暴ですよ」
「別に、取り繕う必要ないだろ。俺はそれでいいと思うけど」
そう言われて。俺が取り繕って標準語使おうと努力してるのを感じ取ったのか、それとも適当に言ったのか。
そこはわからないけど。
ソウルにも同じこと言われたことがあったな、と思い出してちょっと笑った。
ちなみに、会合にはちょっと遅刻した。
読んでくださりありがとうございました。
このお話は私が現在投稿している別作品『無気力超能力者の転生即興曲』とのコラボになってます。
今回の話の白亜サイドのお話はそっちから読めますので、是非そちらも併せて読んでみてください。
良いクリスマスを!




