二百四十七日目 魔法が全ての国
「さてと、とりあえず学校に行きますかね」
そう言うと、この国の構造を理解していない数人が不思議そうな表情で俺を見る。
「なんで学校なんです? 宿じゃなくて?」
「まぁ、この国見てもらえばわかると思うんだけど」
とりあえず歩きながら話そう、と周りに促して馬車を一時的に見張るメイドを残して先に街の中心へ進む。
「魔法使いは貴重だ。生活の一部に魔法を組み込むだけであらゆる手間が一気に省ける」
少なくとも人件費はかなり削れる。
荷物の運搬だって、そこに赴く必要もないから数十人使わないと出来なかった配達が一人で済むし、松明だと一つ一つ点けて回らなきゃいけないのも魔力消費式のライトなら遠隔操作で点灯する。
魔法は戦う為だけの道具じゃない。
刃物が人を殺すことにも、食事を作ることにも使えるのと同じ。
だが、魔法使いとは絶対数が少ない。そもそも素質がなきゃ魔法は使えないし、魔力が少ない人は使えてもそう大したことはできない。
十人中二人は魔法使えるかな、くらいの人数比だ。正直魔法をアテにして生活するのは厳しい人が多すぎる。
だからあまり他の国では魔法に頼らない人力での国家運営をしている。
「この国が魔導国家と呼ばれるのは、こんな風に魔法を完璧に組み込んでいるから、って理由だけじゃないんだ」
「他にあるのか?」
レクスは周りをキョロキョロと見回しながら、不思議なものがあるとそっちをじっと見つめる。
別におのぼりさんでも構わないけど迷子になるなよ。
「聞いたことがある。ここでは魔法が全てなのだろう?」
「お。ゼインが俺より先に言ってくると思ってなかったな。その通りだ。この国では魔法使いのランクがあって、それを設定しているのが学校なんだよ」
この国では魔法使いは十のランクに分けられる。数字が小さいほど強い魔法使いと認められる。
このランクによって買うことができる商品が変わったり、泊まれる宿が変わったりする。
「お金じゃないんですね?」
「金は必要にはなるんだけど、ランクが高いほど良い待遇になるのは間違いないな。例えばケーキを買うとして、最下位の人はショートケーキしか買えないけど、最高位ランクの人はガトーショコラから抹茶ケーキからいちごタルトから、様々な種類のものが買えるんだ」
「選択肢が増えるってことですか」
「そゆこと」
別に最高位の人もショートケーキは買えるけど、今日はモンブランにしようとかザッハトルテにしようとか選べるわけだ。
最下位の人は質の悪いものを押し付けられがちだ。だって文句言えないから。
「この街のルール、先に皆様にお教えした方がいいと思います」
「そうだな」
この街は独特なルールで成り立っているから、先に教えておいたほうが問題の起こるのも防げるかな。
・低ランクの者は高ランクの者に基本的に逆らってはいけない
・ランクの測定は二ヶ月に一度行う。その際に測定範囲外まで実力が下がった場合、街を追い出される
・低ランクの者は高ランクの者が承諾すれば決闘を申し込める
・ランクが違う者同士が決闘をした際、低い者が高ランクの者に勝った場合ランクの入れ替えを行う
ま、こんなもんだな。
「面白いですね。決闘でランクを賭けるんですか」
「そう。下剋上ウェルカムなルールだ。ついでに言っておくと、ランクが決闘で下がってもその次のランク測定でいい点取れば復帰できるぞ」
決闘というシステム、高ランクの人にはメリットないんだけどルールにある通り『承諾すれば』という但し書きがある。つまり決闘を受けるためにお金をもらうとかでも禁則には触れない。
賄賂ありまくりだ。
かと言って何度も負け続けたりするとランク落とされるらしいけど。
「それで、今から測定しに行くところなんだ」
「? マスターは以前いらっしゃったのではないですか? その時にランク測定されなかったのですか?」
「あ、いや測定はしたんだけど。結構前だから多分再測定になるんじゃないかな」
ちゃんとした機械があるのが学校だから、細かく測ってもらうために向かっている。この国では学校は一校しかない。それにど真ん中にあるので見つけやすい。
この国にいる魔法使いは全員この学校の出身である、という噂もある。それだけ閉鎖的な環境なんだ。




