二百四十四日目 三人で決めて
スベンさんだけが反対しだした。
まぁ、気持ちはすごくわかるけど。スベンさんの役目はゼインたちの身を守ること。
何かあってからでは遅い。
「情報屋、貴様の言い分など聞くに値しない。平民ごときが我々と対等だと思っていたら大間違いだ!」
わあお。さすがはお貴族様。俺の言うことなんて聞く気ないんだってさ。
「スベン。いい加減にしろ。余の婚約者を貶めるとはどのような了見だ!」
「レクス殿下。しかしこの者はどうも信用なりません」
信用ならないのだと言われても。
俺はどうも胡散臭いのだとよく周りに言われるけど、胡散臭くしてるつもりはこれっぽっちもないし。
何をしたら信用を勝ち取れるのかちょっとわかんない。
ゼインとレクスの信頼はそこそこ勝ち取れてると思うけど、スベンさんに至っては戦場で少し顔を合わせた程度の間柄だからな。
逆にその程度しか知らない相手が絶大な信頼抱いてきてたらそれはそれで怖い。
「レクス。それまでだ」
「ブラック、だが」
「スベンさんは正しいことをしている。それはお前もわかるだろう? 今するべきは俺の信用獲得ではなく、レクスとゼインがこれから先どうするかを決め、スベンさんが納得する答えを出すことだ。違うか?」
俺がこれ以上助言をしたところでスベンさんは聞く耳を持たないだろう。
今必要なのは俺ではなくゼインとレクスの答えをスベンさんが承諾することだ。
スベンさんが引き返す案を挙げている。それに従うも、公国に進むもゼインの自由だ。
だが、護衛として付いている以上、スベンさんは絶対に二人を守りきるという義務がある。
安全を確保するためならどんな手でも使うべきだと俺は思う。
だからこの件に関しては俺はノータッチだ。当人同士で話し合ってくれなきゃいけない。
多分ちょっとでも横槍入れたら、あとでグチグチ文句言われるしね。
「ブラック。もしここで引き返すことになったらどうするのだ?」
「お前ら帰してから公国に向かう」
「ブラックが二度手間ではないか」
『貴方達放って置けるわけないでしょ。立場的にも、そうするしかないわよ』
ピネがレクスに向かって溜息をつく。
公国には呪いのこともあるし、早めに行かなければならない。
一旦帰ってまたいくのは面倒ではあるが、背に腹は変えられない。
ここで強行突破してゼインやレクスが死んだら、それこそ大惨事だ。
個人的にも、仲良くしてる相手だから死んでほしくない。
「別にいいよ、帰るなら帰るで。早めに決めた方がいい。明るいうちから動けるなら、それが一番だ」
俺たちは野宿も慣れているけど、ゼイン達は慣れてない。
あまりストレスの多い環境にいるのは精神衛生上よろしくないし、疲れて注意力が散漫になれば大きな危険にもつながりかねない。
「いや、進む」
「しかし陛下!」
「くどい。何度も言わせるな」
数秒考えたあと、ゼインが決めた。すぐに立ち上がって支度を始める。
決めたことを曲げないのは国王っぽい振る舞いだけど、今回はあまりお勧めできない行為だな。
「ゼイン。スベンさんとちゃんと話しあえ。そんで譲歩するなり折衷案出すなり、何してもいいから互いに納得できるように努めろ」
「どうしてそれをブラックが決める」
「お前に任せたら、スベンさんの言い分ガン無視だろ」
静観するつもりだったけど、ちょっとだけ口出しする。
俺としては本当にどちらでもいい。帰るとなったとしても、別にそんな大変でもないし。
行くなら行くでちょっと急ぐだけだし。
「メリットとデメリットがあるんだ。ちゃんと考えて秤に掛けろ」
引き返すメリットとしては、防備を固められるということ。デメリットとしては、もし今回手を出してきている”敵”が内部犯だった場合むしろ敵の懐に飛び込んでしまうかもしれないということ。
後者だった場合、かなり面倒なことになってしまう。
内部犯だったら多分、敵対関係にある貴族達の襲撃の可能性が高い。
俺に呪いかけたり馬車を壊すことで『引き返そうか』という選択肢を俺たちに与え、わざとトンボ帰りで用意周到な敵の布陣へと潜り込ませる。
単純だが、ナチュラルに危険が迫っている以上、かなり有効な罠だ。
俺一人ならなんとかなるんだけどなぁ。




