二百四十三日目 体調が悪くないのが怖い
とりあえず状況確認。
「嵐は思いの外早く止んだから、この村をさっさと出発できる。だが、問題がいくつかあるな。まず『かなり近くに敵がいる』し、そいつはどうやら俺たちを足止めしたいらしい」
嵐に関してはただの偶然だろうけど(嵐に魔力反応はなかったから多分魔法ではない)馬車が壊れてたり、俺が戦闘不能に近い状況に追い込まれているから、この推察は間違ってないだろう。
流石に色々と一気に起こりすぎだ。
「一番気がかりなのはゼインたちだ。今回の敵の標的は俺たちなのかゼインなのか。そこが分からなければこれからの行動によってはむしろ危険だろう」
「場合によっては、ゼイン様方を無理にでも転移魔法で送り届ける事が必要になるかもしれませんね」
そうだ。
今襲いかかってきている敵……一人なのか複数なのかも分からないが、そいつがどんな目的なのか分からなければ対策の立てようもない。
もし、これが俺を私怨で狙ってきている相手ならば一番手っ取り早くていい。殺しにきたところを潰すだけだ。
だが、狙いが俺じゃなかった場合がかなり面倒になる。
他国の間者だった場合、自国の裏切り者だった場合、私怨だった場合。どれもこれも対処が異なるし、俺は裁判官じゃないから判断が出来ない。
最も危険なのが、今向かっている公国のスパイという可能性。
もし公国が完全な敵対行動をとっているのならゼインをそんな場所に外交なんて行かせられないし、下手にこっちから手を出してしまえばあっちは『ウィルドーズが先に手を出してきた』と言い掛かりをつけて大義名分を得てしまう。
ウィルドーズに攻め入る絶好の機会をまんまと与えることになってしまうだろうな。
公国は魔導国家だ。国の機能を魔法の道具や魔法そのもので運用させている。
だが、魔法を使うというのは実はかなり大変だ。
魔力は膨大に必要になるし、道具を作るのにも金がいる。
公国には良い鉱山なんかもあまりないし、全体的に物資不足。食糧難にも陥りはじめ、寒村では村人が村を捨てる例も多いと聞く。
まだ戦争には発展してないが、各国の情勢を見る限り公国が宣戦布告するのもそう遠くないだろうと俺は見ている。
そんな国に何しに行くんだよって感じなのかもしれないけどな、俺は俺で用事があるんだよ。一応俺だって働いてるからね?
「取り敢えず、ゼインさんたち呼んできます」
「ああ、頼む」
ソウルがゼインたちを呼びに階段を上がっていった。大部屋は一階、小部屋は二階にある。
二階から物音がするから、多分もう起きてるな。
『ブラン、これからどうするの?』
「まだそれは話し合ってからだな。引き返すのも視野に入れておかないと」
引き返すのは無しだと思っていたが、敵がしつこい。下手に進んで嫌がらせを受けるくらいなら構わないと思っていたんだが、シャレにならない程度の嫌がらせに発展したら普通に困る。
特に今回はゼインとレクスがいる。慎重に慎重を重ねるべきだろう。
ソウルがゼインたちを呼びに行って数分後、レクスが部屋へ飛び込んできた。
「小さくなったのかブラック!」
「なんか地味に傷つく言われ方だな……」
チビなのはコンプレックスだから強く突っ込まないでいただきたい。
適当にレクスの相手をしていると、少し遅れてゼインが部屋に来た。その少し後ろにはスベンさんがいて、険しい顔でこっちを睨みつけてきている。
「またか……よく飽きないな」
「好きで呪われてるわけじゃないんだけど」
「わかっている。体の調子はどうだ」
「なんともなさすぎてむしろ怖い」
そう、今の自分の姿に違和感はあるんだけど、痛みとかは特にない。
遠近感が掴めなかったりするけどそれくらいだ。前も言ったかもしれないが、殺傷性が異常に低いんだ。
呪術ってもっと血なまぐさいものだと俺は勝手に思ってる(実際、平和な呪術はあまりない)んだけど。
それを踏まえてゼインと話をした結果、ゼイン本人の希望もあってさっさと公国に向かうことにした。
そう話が落ち着いたとき、スベンさんが声をあげた。
「情報屋、私は認めない。今すぐ引き返すのだ!」
どうやらこの人、わかっちゃいたけど俺のこと嫌いらしい。




