二百四十一日目 高額すぎる宿
村の中はあまり活気がない。
人の数が少ないわけではないけど、店があまり開いていないのかもな。
閉める時間としては早すぎるし、パッと見では品物そのものが不足している感じだ。
「ブランさん、どうしますか?」
「とりあえず宿へ向かう。アニマルは既に飛ばしているが、情報が集まりそうな酒場なんかもかなり少ないからあまり期待できないな」
アニマルゴーレムは村に入る前に何体か偵察に向かわせた。
だが、そもそも会話してる人が少ないみたいだし、盗み聞きは難しいかもしれない。
せめてこの活気の無さの原因だけでも知りたいんだけどね。
そうこうしてるうちにこの村唯一の宿に到着した。
とりあえず交渉のためにエルヴィンとキリカを連れて宿へ入る。他のメンバーは馬車と王族二人の護衛だ。
「いらっしゃい」
出迎えたのはちょっと窶れたおじさ……お兄さんだ。
みたところ三十代前半だろう。
「宿を取りたいんですが」
「三人部屋は朝食付きで一人10イルクだよ」
へぇ……?
え?
高くない⁉︎
一泊一人一万円⁉︎
どうみても庶民向けの宿でそれは高すぎない⁉︎
貴族用の宿の値段だよそれ!
「えっと、一人10イルクですか?」
「ああ。嫌なら帰んな」
なんてこったい。ぼったくりだ! しかも中々足元を見られているぞ!
この村入る時もそうだったけど、俺完全にカモられてる!
「店主、些か高すぎると思うのだが」
「文句なら領主様に言ってくれ。この値段よりは下げられんぞ」
エルヴィンの言葉にも動じない。
キリカがこっちに目配せをしてきた。どうするか、と訊きたいんだろう。
とりあえず、王族一行は泊まらせるとして問題は俺たちだな。
「ちなみになんですけど、他のお部屋のお値段はどうなっていますか?」
「大部屋は一人2イルク、一人部屋は15イルク、二人部屋は一人12イルクだ」
「馬小屋や納屋とかって選択肢にあります?」
「馬小屋だと? 馬小屋は……一人300アルクでいい」
やっぱり高すぎる。馬小屋に関しては普通だが、大部屋でイルク単位の値が付くのはありえない。
もっと栄えてる街なら、冒険者や旅人用の宿は大部屋400アルクが妥当だ。かなり安く感じるかもしれないが、大部屋なんて汚いし全然休めないから。どっかの小さい体育館みたいなただ広いだけの空間だから。
何度か個人部屋が埋まってて止むを得ず泊まったことがあるけど、野宿の方がいいと思える居心地の悪さがある。
「じゃあ三人だけ三人部屋で、あとは大部屋と馬小屋に分散するか。あ、あと馬車と馬ってどうしたらいいですか」
「馬車は一台2イルクで預かりだ。馬の世話はさらに一頭につき1イルクだな」
もう大出費だよ普通の旅人だったら!
俺そこそこ稼いでるから全く問題ないけど、引っ越し中の普通の旅人なら下手すりゃ次の村に辿りつけないよ。
「んじゃ、馬車五台と馬……うん、馬九頭で10+9で19イルク先に払いますね」
一頭馬じゃなくて亜竜だけど。
「ご、5台⁉︎」
「はい。今引っ越し中なんで」
その後、全員に話を通したら、王族二人が三人部屋に泊まり(護衛のスベンさんはドアの前で座って寝るらしい)俺とソウル、エルヴィン、ピネ、ライトで大部屋、後のメイド全員は馬小屋と馬車置き場に分かれて寝ることになった。
俺も別に馬小屋でよかったんだけどね。メイドたちに大反対された。
それで、メイド47人と俺たち4人と(ピネはカウントされない)王族組3人で52イルクと100アルクになった。
馬車の分と合わせて71イルク越えだ。
こんな搾取してたらこの村誰も寄り付かんだろ。一泊でこれはやばすぎるわ。
しかも高級宿でもないのに。
日本とは違い、この世界ではまず所得が少ない。一イルク千円くらいだと俺は言ってるけど、実はもっと価値が高い。特に生活に根付いている宿代や入村料なんかは人が土地から離れていかないように安く提供するのが普通だ。
おそらくこの街全体が、ありえないほど余所者に優しくない。
変わったばかりという新領主の政策なのかはわからないが、これはちょっとまずいな。
そのうち廃村になってしまいそうだ。




