表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 二冊目
24/374

二十四日目 レイジュ

 魔法も使えるし、体も動く。それでもゲーム内のように疲れを感じない訳じゃない。


「出口どこだよ……」


 そろそろ心が折れてきた。ヒメノとも連絡つかないし……


【でもずっと一本道よね】

「ああ、一回も曲がったりしてないんだけどここどれだけ広いんだよ。大迷宮だからかな」


 何に役立つかわからないけど兎は持ってきた。最悪、食べることになるかもしれない。刃物は持ってないけど水のルーンと風のルーンを駆使すればそれっぽいことはできると思う。


 捌くとか。想像しただけで嫌だけど。


「迷宮ってもっと一杯人とか居るんだと思ってたんだけど今のところ遭遇したのこの兎だけだし………」


 鑑定したところ弾丸ウサギって出た。まんまやんけ。


「あ、これ………」


 壁にあるものを発見。ランタンだ。


 割りと一杯生えてる。ゴーグル越しで見るとやっぱり綺麗だな。ここに来たときはなにも見えなかったし、光源として使ってたときはあんまり余裕なくてしっかり見ていない。


 ゴーグルが反応した。


『魔核からとれる貴重な魔石。武器の核に使ったり装飾品に使ったり用途は様々だが非常に稀少。かなり高値で売れる』


「おおー。なんかいいものっぽいぞ」


 ごめんなランタン。光るだけかと思ってたよ。ヒメノにお土産で持っていこう。俺もこれくらいの構造なら武器とか作れそうだし。


 服の内ポケットとかに二本入れて持っていく。最悪ただのランタンとしても使えるし、運ぶのに支障があるサイズでもないのでだろう。


「なぁ、リリス」

【?】

「これ、道が円状とかそういうのじゃないよな?」

【あー、あり得るわね】


 リリスにはこの世界のことを軽く説明した。武器としてお前を選んだといったら柄にもなく喜んでいた。


 失敗だったかもとかそう思ったのは内緒ね。


 で、リリスは簡単に納得していた。そもそも俺のところとゲームのところで世界違うじゃないって。お前からしたらあっちが本当の世界だもんな。


 VRMMO、というかあのゲームのことは置いておいて。問題はここ。ゆるーくカーブしているように見えないでもない。


 俺さ。これ前に進んでたらいつの間にかループしてるってことになりそうな気がするのは気のせいかな。


【じゃあ確かめてみればいいじゃない。どうせ貴方のことだから召喚獣を移動目的で選んだんじゃないの?】

「なんでわかるの」

【わかるわよ】


 その通りなのでなにも言えない。よっし、じゃあ呼び出すか。


 空中に幾つもルーンを重ねてかいていく。書き終わったら、指を一回、二回、五回と鳴らす。これが合図みたいなもんだ。


 そうしたら光って浮遊していたルーンが纏まって円のようなものを作り、そこから出てきたのは、


「ブルルルル!」

「レイジュ、久し振りだな。元気だったか?」


 レイジュが俺に頭を擦り付けてくる。摩擦が凄い。撫でてやると嬉しそうに声を出した。


 レイジュはメルドル霊山っていうとこで契約可能な召喚獣で何て言ったらわかるかな、鳥みたいなんだけど鳥じゃなくて。


 あ、ドラゴンをモフモフにした感じ。で顔はかわいい。


 説明下手でごめんな。因みに種族名は『セルフェル』で霊獣だからレイジュって名前にした。安直とか言うなよ。


 レイジュはほぼ戦闘能力はない。他のセルフェルに苛められてたくらいだし。弱いというより優しい性格なんだ。


 で、足が早い。空飛ぶのも速いし四本足で走るのも速い。乗り心地もいいし。あったかもこもこだからな。


「レイジュ。出口に行きたいんだ。わかるか?」

「フスン」


 鼻を鳴らして目を瞑り、ある方を見る。


「壁?」

「ブルルルル」


 ガリ、とレイジュが前足で壁を削ったら壁が崩れて道ができた。


「なんでだよ⁉」


 誰が気づくかこれ!


 レイジュが居て良かった。ホッとしたらレイジュが手元をじっと見てくる。


「あ、兎か」


 食べたいのか? ちらつかせると伏せて腹を見せた。犬かよ。っていうかそんな芸いつ覚えた。


 ………いや、聞くまでもない。こんなことするのルートベルクとメグだけだ。勝手に変なこと教えやがって………


「はい、食っていいぞ」


 ポイッと投げると嬉しそうにくわえて、


 バギャベキャブシャグシャァ


 って効果音立てながら咀嚼して飲み込んだ。ぉおう、心臓に悪い。


「ブルルルル」


 もう俺じゃ迷子になると思ったからレイジュに跨がって行くことにした。腹も空いたし(非常食の兎無くなったし)さっさと出るに限る。ヒメノとはもしこれ以上連絡がとれなかったら、とある程度のことは決めている。


 だから、大丈夫だ。あいつも初期メンバー。ワールドマッチにはキツいかもしれないけど簡単なランキングでは上位に食い込めるほどの実力はある。


 心配しないようにしてレイジュの背で寝転がる。これからどうなるんだろう。一文無し、家無し、家族無し、身分証無しのないない尽くし。


 そろそろ空腹もヤバイかもしれない。いや、それは最悪なんか調達すればいい。問題はポイントだ。


 言い方悪いけど世の中何をするにもお金がいる。


 移動や食事などの生活費や俺のゲームみたいな嗜好品までありとあらゆるものに金がかかる。


 高速道路なんて通るだけで金かかるし。


 ゲーム内のお金は全てポイントだった。


 買い物は勿論、武器の点検修理や銃なんかの武器の場合だと弾や燃料の購入なんかも全部ポイントだった。


 俺が今使っているのは銃系統の武器じゃないからそれほど使わない………訳でもない。


 リリスの本体は巨大な魔核だ。それをトンファーという体に嵌めて使っているので簡単にいえばトンファーそのものは着ぐるみみたいなもの。


 そしてリリスはそれを容赦なく破壊する。


 トンファーの素材は神鋼だ。中々手に入らないものだし、少しくらいなら欠けたりしても俺の鍛冶スキルでなんとかなりはするんだけど、点検や修理だけでポイントが結構な量消費されてしまう。


 それでさっきの兎と戦ったときにもう欠けたので直したんだけど、この調子だとかなりヤバイ。


「リリスを使わない戦闘も考えないといけないかな……」

【なんですって?】

「いや、リリスってボディのこと考えずに技ぶっぱなすだろ? そしたらポイントがヤバイことに気づいた」


 リリスを一日に直していた回数とポイントの消費量を掛け算して割り出したら、


「後二ヶ月も持たないで無くなる」


 男性Aにポイントの稼ぎ方聞いとけば良かった。ゲームの方ではお金のやり取りでそのままポイントが使われていたから、ものを売ったらそのポイントで色々出来た。


「この世界もポイント制なのか……?」


 そこだ。もしお金が流通していた場合、ポイントの補給が一切ないことになる。それは不味い。非常に不味い。


 流石に修理点検無しで戦いに望むのは怖い。怖すぎる。


「とりあえずリリスの使用は極力控えるからそのつもりでいろよ」

【私だって戦いたいのよ】

「わかってるけど。それで数ヵ月でお前が一生使えなくなる方が困るだろ」


 戦闘狂だもんな、リリス………


「ブルルルル!」

「っ⁉」


 なにかが飛んできたのを咄嗟に反応したレイジュが羽根を打ち付けて攻撃する。


 それがどうやら気絶したようで後方に飛んでいったので掴んでみてみた。


「なんだこれ………蝙蝠?」


 それにしては異様に牙が大きい。羽根に打ち付けられた衝撃で首の骨がへし折れているようだ。既にご臨終。なむ。


「っ、レイジュ! そのまま走り抜けろ! とんでもない数がいる!」


 一気にマップに表示された赤い光点が周囲に散らばる。花火みたいだ。見てるわけにはいかないけど。


 風刃のルーンと拡散のルーンを書いてから指を銃の形にして、前方にルーンを飛ばす。すると重なったところで風刃が発動し拡散のルーンで細かく分散されて周囲に風の刃の膜を作る。


 そこに突入してきた蝙蝠が次々とミキサーにかけられたように血と肉を散らばらせて死ぬ。


 これを見ても特に緊張しないって本当にどうなってるんだろ。


 ルーンを新しく書いて発動しながらそんなことを考える。


 これは広範囲に攻撃できるけどその分効果時間が短いから何度も何度も展開する必要がある。


 四発打ったところで蝙蝠は俺達を襲うのをやめたようだ。


 その瞬間、一気に視界が開けた。………外に出たんだ。


「フスン」

「お疲れさん、レイジュ。このまま進んでくれるか?」

「ブルルルル」


 レイジュの背を撫でながらゴーグルを取って回りを見てみる。


「うわぁ………!」


 見たこともない植物ばかりだ。どれも生命力に溢れている。綺麗だった。


 っと、そうだったそうだった。


 自分のステータスを確認してみると、前となにも変わっていない。ただ、ジョブが吟遊詩人になっていた。適正のあるジョブってこれだったんだ………


 吟遊詩人ってサポート向きのジョブだからソロで動くことの多い俺はあんまり得意じゃないんだけどな。


 俺は手のひらにあるルーンを書く。するとそれが光ってスッと消えていった。


 これはもの探しのルーン。ヒメノも俺も同じルーンを使ったはずだ。これで俺達の互いの居場所はなんとなくわかるようになる。


 あ、反応あった。


 丁度ここの真裏………反対側の出口からでたみたいだ。


「レイジュ。大至急あっちに向かってくれ。急いでくれたらご褒美あげるぞ」

「ブルルルル!」


 レイジュが砂煙をあげながら猛ダッシュし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ