二百三十七日目 大破した
川にたどり着いた。魔法で確認してもらった(喉乾くから俺じゃなくてソウルが)ところ、水質的にも問題ないものだったので馬にはその水を飲ませる。
レイジュもその横でガブガブ飲んでいる。
「ドラゴンはあまり水飲まなくてもいいのではなかったか?」
「まぁ、普通そうなんだけどな」
ゼインのその疑問もわかる。だが、レイジュに普通は当てはまらない。
弱すぎて仲間にいじめられていたくらいだし。
いいんだよこいつは。癒し担当だから。もふもふならそれでいい。
「ブラン、少しいいか?」
エルヴィンが呼びに来たので一旦その場を離れる。
「これなんだが」
「うわぁ。やばいなこれ」
「持つか?」
「多分ギリギリだな。車輪だけでも交換するか」
エルヴィンの乗っている馬車、つまり一番後ろを走っている馬車なんだが、それがどうやらガタがきているらしい。
いろんなところにヒビが入っていて、険しい道でも走ればバラバラになってしまいそうだ。
おかしいな、一応出る前に確認したはずなんだけど。
予備の車輪を収納から出して取り替える。これで大丈夫だろう。
応急処置だが、公国までの距離なら十分持つ。
それから少し走って、陽も落ちてきたのでここで野宿することにした。俺たちの用意なら夜通し走り続けて最速で向かうこともできるけど、別に急ぐ旅でもないしゆっくり向かうことにする。
収納から調理器具や食材を取り出し、調理をメイドに任せてから再び馬車の点検に入る。
やっぱり結構歪んできてるな……もう少しいじってみるか。
そのうち、調理が進んでいるのかいい香りがしてきた。
とりあえず修理を終えて皆のところへ戻る。
「む。やはりブラックの家の料理は美味いな!」
「恐縮です」
メイドがレクスに褒められて照れている。
もっといいもの普段食べてるだろ。王族なんだし。
「お前らちょっとは遠慮しろよ……」
まぁ、そんなこと言っても無駄だろうけど。
「気遣いで出していただけるものを遠慮するのも無礼だろう」
「まーた屁理屈……」
ゼインはこういうものを受ける立場だから、庶民の感覚はわからないんだろうなぁ……。身内みたいなもんだから別にいいんだけどさ。
メイドの一人が、小さな椀に入ったスープを持ってきてくれた。細かく野菜や肉が入っていて栄養バランスが考えられているのがわかる。
冒険者の一般的な食事なんて、日持ちさせるためにやけに硬い乾パンとか妙に塩辛いビーフジャーキーみたいなのとか、バランスなんて全く考えられていない。
野菜は数日経てば腐るし、根菜類とかは特に重くなる。持ち運べないから野菜を抜いてビタミン不足になりがちだ。
壊血病とか実際に結構あるみたい。長期の旅になりそうな冒険者には、一応注意喚起するんだけど。
俺の場合、収納があるから全く関係ない話なんだけどね。
「ブラックの旅に同行すれば、こんなにいい飯が毎日食べられるのか」
「おい、今回は仕方ないけどもう着いてくるなよ。俺は俺のペースで旅をするし、護衛なんてやりたくないからな」
って言っても聞かないだろうな。
ゼインはびっくりするほど頑固なところあるし。
俺の食事は基本的にすぐ終わる。量が少ないし。
暇なので少し離れた場所へ行って体を動かす。
「ちょっと鈍ってるかな……」
背丈にかなり慣れてきたとはいえ、それでもまだまだ十全には使えていないのが実感できる。
空中に丸太を五本放り投げ、落下の前に剣で全てを八等分する。
練習にもなるし、暖炉用の薪も作れる。一石二鳥だ。
丸太を力任せに上空に投げ、なるべく繊維に沿って切り分ける。不安定な場所だから意外と難しい。繊維から逸れると割れるし。
慎重に、早く、正確に。
【ねぇ、私を使ってよ】
お前でやったら薪が爆散するわ。
剣の練習がてら薪を量産しているとメイドの一人がやってきた。最近来たばっかりの新入りで、あまり面識はない。
「……どうした?」
「いえ、お一人で何をされているかと気になったもので」
「ああ、ごめん。勝手に身体動かしてた。戻るよ」
薪を収納してから馬車の方へ向かうと、
「「!」」
馬車は、一つ残らず残骸になっていた。
「どうして、馬車が……!」
「俺たち以外に人がいるのか、それとも契約獣の類がやったのか……とりあえず人為的なもので間違いはないな」
馬車の残骸に手を突っ込むと、所々炭化しているのがわかる。
「これはもうダメだ。壊された上で焼かれてる。まだ赤色が残っているから、本当に今さっきだな」
用意周到なことだ。ただ破壊されただけなら魔法で戻せるが、燃やされたらその工程が一気に面倒臭くなる。
どうやらよほど公国に行って欲しくないらしい。
「おかしいと思ったんだ。メンテナンスはちゃんとしてたのに、馬車にガタが来ていたから」
さて、これからどうやって移動しようかな。




