二百三十六日目 旅路
なんやかんやあって、一週間後。
「キリカ、罰の掃除はどうだった?」
「ねずみの宝庫でした」
「……ごめん……」
俺は途中で体が変わったことにより中断された(業務は結局やらされたがメイド服はなしになった。っていうかこの体でメイド服はやばい)お仕置きだが、キリカはきっちり一週間罰を受けた。
こうでもしないと自分を許せない、と言ってキリカも全力で取り組んでいたんだけど。
前にも話した通り俺は町の情報を基本的にはゴーレムで集めるが、手の回らない部分は動物達に教えてもらっている。彼らは基本、利益重視の考え方だ。騙して多く奪おうなどとは思わない。
だから大抵の情報は信じることができる。噂なんかも教えてくれるから結構重宝してるんだが、お金を払えばいい人間とは違うから、対価は当然それぞれ異なる。
猫や鳥なら食べ物を、ねずみなら住居を。そう、ねずみには住む場所なんだ。
だから俺の家、実はねずみだらけ。屋根裏とか特に。トイレは家の中でするなとか、物をかじるなとか、色々と約束してあるから家自体は清潔なんだけど。
まぁ、そりゃ普段入らない場所に行けばねずみの宝庫だろうさ……
俺が招き入れてるので正直ごめんとしか言えない。
そんなことを話していると、背後から声がかけられた。
「ブラック、まだ行かないのか?」
「待ちくたびれたぞ」
「おいそこの王族二人。何勝手に入ってきて寛いでんだよ。まだ出発まで3時間あるんだけど?」
リビングの大きいソファに全身投げ出して寛ぎまくっているゼインとレクス。まるでこいつらが家主に思えてくるほどの偉そうな態度だ。
「いいではないですか。こちらも準備はほとんど終わっていますし」
「甘やかすなよライト。余計に調子乗るぞこいつら」
二人に飲み物を出しながら、ライトが苦笑する。
その言葉通りもういつでも出られる用意は整っている。
もともと俺は一ヶ月くらいで拠点を転々とする生活を送っているから、荷物は結構少な目にしてる。収納があるから、というのもあるけどね。
ただ、あまりに荷物が少なすぎるのも変なので、普通に引越しするくらいの荷物はいつも馬車に積んでいる。
「ではもうさっさと行かないか? 待つのも疲れる」
「いや忘れてるかもしれないけど今回公国に行くのは俺で、あんたらは勝手についてくるんだからな? 俺は俺で用事があるんだよ」
なんでこっちが合わせなきゃいけないんだよ。そもそもよく考えたら、護衛するって話了承してないぞ。
「わかっている。で、まだか?」
「だからなんで急かすんだよ。俺のタイミングってもんがあるの」
まだ空間の刻、日本でいう朝の7時よ? さっき起きたばっかりだっての。
仕方ねぇなぁ、みたいな顔してるけど約束の時間は雷の刻、つまり朝の10時だよ。別に遅すぎる訳でもないでしょ。こいつらなんか早すぎんだって。しかも勝手に上がり込んで茶まで飲んでるし。
まぁ、馬車も操れない庶民の引越しとかになると街道の危険さ、国々を歩いて移動することを考慮するから、凄い早い時間に動き出すけどね。歩きだと馬車で一日の道のりに何日もかかるし、野宿はそれなりに危険も伴う。
その点俺たちは馬車も道具も充実してるし、全員結構強いから余程のことがなければ全く問題ない。
普通なら、引越しはかなり危険な賭けでもあるんだ。
で、1時間後。
「ブルルルルル♪」
「はぁ……なんで二時間も早く家を出にゃならんのだ……」
馬車をひいてご機嫌なレイジュの手綱を握りながらちょっとため息。ちなみに、この馬車は前から三番目の馬車だ。今日は5台の馬車で引越し中なので、丁度ど真ん中。
勝手に乗り込んできているとはいえ、一国の王と王子を死なせでもしたら本気でマズイことになる。だから一番安全な布陣で守らなきゃならない。
だからこの馬車には一応最大戦力である俺と、回復役としてソウル。それと流石に護衛なしでは他国に渡るとか無理だったらしく(俺は扱いとしては傭兵なので、正式な護衛としての家臣ではない)近衛騎士のスベンさんが同行している。
この人とは戦争では前線で会ったし、城内でも度々会ってるんだけど。どうも嫌われてるみたいであんまり話せてないんだよね。
どんな人かとかはある程度調べてはいるけど、所詮噂も入ってるしなぁ。
確実な情報は、名前と生年月日、家族構成くらいだ。
俺の次に強いライトは先頭の馬車に、戦闘の天才であるエルヴィンは最後尾に配置した。これで大抵はなんとかなるだろう。応用の利く戦い方をするキリカは俺のひとつ後ろの馬車だ。
御者をしつつ、周りの様子に気を配る。前はオークロードがいたからな。注意しておくのは悪いことじゃない。
アニマルゴーレムも周りに配置してあるので、索敵範囲はかなり広い。
ガサガサと周辺の草が動くのは、アニマルゴーレムが馬車と併走しているからだ。メイドたちもそれをわかっているから、音がする度に反応したりはしない。
「そろそろ小休憩に入るか。馬も休ませなきゃいけないし」
「このあたりだと……あ、もう少し先に川があります」
「じゃあそこで休憩しよう」
メイドたちに手信号を送り、少しだけ進路をずらしてから進んだ。




