二百三十五日目 次の目的地
結局自分で腕に噛み付いて血を出しました。結構痛い。
「なんかいい感じの武器って持ってなかったんですか?」
「七騎士に盗られるのも嫌だったから、収納の中身を各国拠点の金庫に移してるんだよ。未だに戻してないから俺の武器ってリリスくらいしかないんだよね」
「月光はどうしたんですか?」
「………」
月光……。なんか思い出したら急に申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
人工衛星、というか人工隕石を壊すためにあの刀に無茶をさせてしまった。もう刀として死んでしまっているのは、生産職の人間でなくともわかることだろう。
「色々あって、折れた」
「あれそう簡単に折れる強度じゃないと思うんですが」
刀剣使いの職業のスキル『閃光』
どんなものも一刀両断できるというぶっ壊れ性能の代わりに、どんな業物の武器でも壊してしまうという代償がある。
人工衛星を魔法をほとんど使わずに壊すなんて、リリスを使っても不可能だ。むしろ爆発して大惨事だろう。破片とか大変なことになりそうだし。
苦肉の策であのスキルを使うしかなかったんだけど、もっと時間があれば別の方法もあっただろうに。
「本当、申し訳ないことをしちゃったかな」
「後悔してるなら僕も何も言いませんけど、無茶はもうしないでくださいね」
「……善処しよう」
「するつもりないだろう、ブラック」
だって無理をしなければならない場面なんていくつもある。
俺が何でもかんでもなんとかできるなんて、そんな幻想抱かない。抱けない。
だって俺は出来損ないだから。
「あの、ブラックさん。ひとつお聞きしても?」
「なに?」
「かなり失礼な質問かもしれませんが……ご自分の容姿、お嫌いではないですか?」
え?
……嫌味じゃないよね、流石に。
あなたよくそんな顔で生きてけてますねっていう嫌味じゃないよね?
確かに俺の顔は平々凡々としてますけど。
「まぁ、好きか嫌いかと言われたら嫌いだけど……え? これどう答えるのが正解なの?」
数秒イーリャさんが考えこみ、何度か瞬きした後に小さくうなずいた。
「魔縄紋の発動条件はいくつかあるのですが、その中に『変わりたいと願っている』ことが含まれるのです」
イーリャさんの言葉に、ソウルとレクスが反応した。
「え、ブランさん変わりたいんですか」
「変わりたいのか?」
何その反応。変わりたいと言って欲しくないみたいな言い方だ。
「いや……どうだろ。姉貴と比べられるのが嫌だったのは確かだけど」
「ブラックに姉がいたのか⁉︎」
「かなりの美人さんですよ」
おいソウル。勝手に俺の身内の話をするな。そもそもお前姉貴に会ったことないだろ。
テレビとかで見たかもしれないけど。
「僕としてはブランさんの方が好みですけどね。僕としては」
「わかったわかった。二度も言わんでもわかったから」
俺が比べられるのを嫌っているのを知っているからか、ソウルはやけに庇ってくれようとする。
昔に比べたら容姿なんてどうでもいいと思うようになったし、別にもう気にしてもいないんだけどな。
人の顔色を読むのが異様に上手いソウルだからこそ、妙なまでに気を使ってくれるのかもしれないけど。
「ちょっと幼いくらいの方が可愛いと思いません?」
「あ、それはわかるぞ!」
おい、お前ら。俺が童顔だって言いたいのか。
その通りなのは確かだが、気分としてはディスられてるんだけど。
童顔でいいことなんてある? 今のとこ何もないよ。舐められるし。
まぁ、そんな話は置いておいて。
「そもそもその呪具って今どこにあるんだ?」
「ブラックでも知らんのか」
「呪具は守備範囲じゃないから。魔法具ならまだしも、呪具は使わないから場所の把握とかもしようと思ったことないしな」
流石に自分が使えもしない道具の情報まで完璧に仕入れることができるほどじゃないよ俺。
それに、情報屋にも専門性はある。
俺は基本的に地理や民衆の噂に関する情報を集めている。
この国に行くならどういう道があって、どんな対策をすればいいのか。
物価の上がり下がりや魔物の発生率、貴族のゴシップネタまで結構手広く情報を集めている。
王族は別として、基本的には貴族よりも冒険者とか町民とかの所謂平民を相手にする仕事だから、仕入れる情報もそれに合わせたものになっている。
「情報屋にも色々あるんだな」
「まぁな。下手な情報流せばこっちの信用に関わるし、一瞬で値崩れすることもあるからあんまりお勧めできる職業ではないな」
じゃあ何で情報屋やってんだよと思われるだろうが、そこは気にしないでいただきたい。
正直、俺も何で情報屋始めようと思ったのかよく覚えてない。
「俺の情報網は平民向けの情報を集めることに特化してる。貴族様の求める武器や魔法具、呪具の情報は仕入れても民衆には売れんのさ」
貴族にはそういうものをコレクションとして集めたがる人種も割と多くいる。
珍しいものを持っているというそれだけで、かなり優劣がつくらしい。俺にはよくわからん世界だな。
「それで、イーリャさんは魔縄紋がどこにあるかご存知で?」
「確か……公国だったかと」
公国か……。あの魔導国家なら、確かにありそうだな。
世界一魔法具や魔導具に異常なまでに敏感になる国。
町中に魔法道具が溢れ、優秀な魔法使いや魔導具使いが大勢いる特殊な国だ。魔法使いって意外と適正ある人そんなに多くないから結構貴重なのに。
あそことはあまり俺も仲が良くない。険悪というわけでもないんだけど、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるせいかしっかりと内部には入り込めていない。
「行くか、公国。この前の一件で行きそびれたし」
「そうですね。もう誘拐されないでくださいよ」
「そんな簡単に捕まってたまるか」
ソウルと話していたら、レクスとゼインが割り込んできた。
「その話、我々も乗っていいか」
「え?」
「外交の話になるが、公国に近々行かなければならない用事があってな。ブラックがいるのなら心強い」
……何で俺が護衛するの前提なの?




