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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 二冊目
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二十三日目 兎

 またラノベ的展開。けど俺のよく読んでたやつは相手が嘘をついていることがほぼ大半だった。


「この世界のシステムが綺麗に回るようになれば簡単に帰れるよ。多分それをやったら君は自力で帰れるんじゃないかな」

「自力で………」


 出来るのか、俺に。けど、今の俺はセドリックでも元の俺でもない。この体では帰れない。


「じゃあ」

「なに?」

「じゃあ俺たちが死ぬ少し前に戻ることは出来るか」


 死んでいたらどうにもならないけど、生きている内に戻ればあの場所に帰れるのではないか。


 体がないから戻れない。だったらからだがあるときに戻れば………


「うん。できるよ」


 妙にあっさりした言い方だった。


「出来るのか」

「今は無理だろうけどね。その頃になったら君はきっと自力でそれくらいのことはできるようになると思う」


 なら、迷う必要はない。死んでるんだ。もしこっちで死ぬことになっても悔いはない。


「それで、今君はマイトライ大迷宮にいることになっている。彼もそう遠くない場所にいる」


 聞いたことのない名前だ。けど、さっきシステムは同じって言ってたから多分ゲームとやることは同じか。


「さっきヒメノにペナルティがどうとか言ってたよな。あれはなんだ」

「簡単さ。メニューの一部が使えなくなった上でポイントを全て没収、一部のスキルにロックをかけた。けど、戦えるよ」

「そうか………」


 それぐらいなら、なんとかなるか………?


「君の所持品は最初に選んだもの以外は全て没収、また収納の類いも全て使用禁止になる。それはいいかな?」

「マジか………」

「君の所持品が多すぎてこっちも大変なんだよ………」


 つまり持ち物は全て持ち歩かなければならないってことか。強い武具選んでおいてよかった。


「………具体的に俺は何をすれば?」

「魔物を倒してくれればいい」

「それだけ?」

「そうさ。やることは今までとなにも変わらない。ただ倒してくれるだけでこの世界の浄化システムはうまく起動してくれる筈だ」


 そんなんで大丈夫だろうか。ぶっちゃけると俺ってそんなに強くないし元々盾職だから純粋なファイターって訳でもない。


「ここから出てみればわかるよ。君の戦闘力が異常なのがね」

「…………」

「ああ、それとジョブはこっちで勝手に決めさせてもらった。一番適正の高いやつにしたから体には馴染むと思うよ」


 ドラグーンじゃないのか。ゲームでは最後は確かドラグーンだった。まぁ、適正が高いならそっちの方がいいのか?


「それと、この指輪。なんでこれだけ持ち込めたんだ?」

「それだけ君がそれに思い入れがあったからだよ。彼もつけてたから」


 ヒメノもつけてたのか………


「これ、壊れるとかしないよ、な………?」


 普通の指輪だからなぁ………しかも俺にしては高かっただけで多分安物って言えるようなものだし。


 壊れたらやだな…………


「じゃあそれ貸して」

「?」

「いいから」


 指輪を渡すと男性Aがそれを握りこんで直ぐに手を開く。なにも変わってないように見えるんだけど…………?


「効果はゴーグルで確認してみてね。それじゃ、頑張って」

「は?」


 足元が消えた。落し穴⁉


「頑張ってねー」

「ギャアアアアア⁉」


 雑過ぎるだろ⁉









「ハッ‼」


 落とし穴とか古典的すぎだろ…………。


 どうやらメットゲームをはめたまま寝ていたようだ。なんか変な夢―――


 顔を横にすると壁にセドリック(小)が映っている。


「夢じゃない…………」


 もうこうなったら割りきるしかないのかな………。電源が切れていたのでメットゲームを外し、もとの場所に置く。


 いつのまにか直ぐ近くに服であり防具の星操りシリーズやゴーグルなど俺が選んだ装備一式がマネキンに着せられて飾られていた。


 マネキンとはいっても人間っぽくないやつだけど。首から上がないやつ。


「………装備(セット)


 そういった瞬間に目の前の物が消える。それでもって、いつの間にか着込んでいた。


 一個ずつ手でつけれるけどMPを少し消費してこんな風にはや着替えだってできる。


 星操りシリーズは手袋、コート、靴、マフラー、ベルトの5つでシリーズ装備。


 コートは所謂ナポレオンロングコートって呼ばれるやつで全体的に白いのが特徴。所々金色の刺繍でルーンが書かれていて、魔法を使うときにその威力をあげたりする上、簡単な攻撃なら勿論刃も立たない。


 額にはいつものゴーグル。これ本当は特殊ゴーグル、名前を『森羅万象』っていう意外とかっこいい感じの名前だったりする。


 そして腰のベルトには両側に白を基調とした神鋼と呼ばれる鉱物で作ったトンファー。星操りシリーズの物と同じ様に金色の装飾が魔法や身体能力を強化するルーンを組み込んである。


 もう、わかったよな? 俺が選んだ武器は………


【ね、ここどこ? ってあら? 縮んだかしら?】


 魔神リリスだ。


 装備交換できないのはキツい。リリスは消費が激しすぎる。それとずっと相手してると疲れる。


【今、なにか変なこと言った?】

「いってない。言ってない」


 ゴーグルを嵌めて手を見ると指輪の鑑定がされた。


「破壊不可に自然回復(中)………凄い」


 ただの指輪にどれだけの価値のある付与をしているんだろう。破壊不可とか見たことない。それと使用者登録までしてあるから俺以外の人はこれを身に付けることはできない。


 その時、扉が開いた。出てけってことなんだろう。


「仕方ない、行くか」

【ここどこか説明してちょうだいよ】

「歩きながらするから」


 マップを起動させると当たり前だが全て初期化されている。自分でマッピングしていくしかない。


 ゴーグルがあってよかった。暗視機能がなかったらどうしようかと。


「とりあえずヒメノに連絡…………がとれない」


 さっき男性Aが言ってたペナルティか………こうなったら自力で探すしかないのか。


 周囲に生き物の気配はない。とりあえず進もう。ちょっと小煩いけど話し相手もできたし、精神的な余裕は出てきたと思う。


「行くよ、リリス」

【いいけれど、貴方小さくなったわね? 顔がいつもより近いわ】

「あー、うん。十歳ほど縮んでるかもな………」


 セドリックは外見年齢20代中盤から後半くらいの年齢にしてある。丁度10歳ぐらい小さくなっているくらいだろう。


「とりあえずここを出たら話すから。集中しよう」

【ちゃんと説明しなさいよ】

「わかってるって」


 やっぱり話し相手がいると違うな。


 すると、マップに光点が現れた。赤色ってことは、


【敵ね】


 マップには動物全てに光点がつくようになっている。敵意のあるものは赤、無いものは黄。友好が緑。


 これは現時点でということになり、変わることも勿論ある。


「隠れる場所はなさそうだな………よし」


 リリスを持ち、呼吸を整える。


「グゥルァアアアア!」

「…………兎?」


 少し拍子抜けしてしまった。どう見てもただの兎。鳴き声さえ気にしなければ。友達の家の兎のみっちゃんもこんな感じだったと思う。


【セドリック!】

「ぅおっ⁉」


 兎が弾丸のような速さで突進してきた。なんとか反応できたけどあれ当たったら助骨おれる程度ですまないと思う。


「あっぶねぇ………油断してた」


 まさか兎が飛んでくるとは思わないし。でも今通りすぎたときにちょっと見えてしまった。


「足ムッキムキだな」


 今気づいたけど。しかもさっき飛んできたとき多分跳び膝蹴り仕掛けてきたんじゃないだろうか………? あのスピードで動いたら自分の膝が砕けそう。


「グゥルァアアアア!」

「鳴き声全然可愛くないし‼ みっちゃん似てるって思ってごめんねー‼」


 みっちゃんに申し訳なかった。再び飛んできた兎。トンファーの形状を利用して攻撃を逸らしてから下から思いっきりぶん殴る!


 ビシャ、と顔面に血を浴びた。トンファーの先端部分が貫通している。


「うわ………」


 もう動かない兎をトンファーから外して水のルーンを書いてから顔を洗う。服はMPさえ流せば汚れが落ちるっていうラッキーな仕様によりこのまま使えます。


「なぁ、リリス」

【なに?】

「俺、生き物こうやって殺したの初めてで、それでも思っていたより罪悪感がない。なんでだろう………」

【襲われたからじゃないの】


 正当防衛だから、なのか………? 手にベットリとつく血は人間の物と同じ様に真っ赤で、鉄の臭いがした。


 俺、こんなに冷酷だったのかな………。


 そのうち、何を殺してもなにも感じなくなりそうで怖い。二度と動かない腹部に大穴を開けた兎を見て、そう思った。

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