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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百二十八日目 好きで造形変えた訳じゃない

「駄目だ……さっぱりわからん」


 書類を投げ出してため息をつく。


 スキルも魔法も呪術も祈祷術も。まさか無いよなと思いつつ占星術とかも調べてみたけどやっぱりなかった。


 そもそも顔の造形や背丈が一晩で急に変化するってどういうこと。


 他人の魔力も感じないし、自分で自分にかけることも多分ない。やってたらやってたで気付けるし。


「偶然にしても謎過ぎる」

『まぁ今は放っておいてもいいんじゃない? 対してなにか困ることも無いでしょ』

「それはないけど」


 背が伸びて色々ぶつけることくらいだな実害は。


【周りが微妙な顔してるわよ】


 ……? ホントだ。


「お前らそれなんの顔?」

「いや、好きな人が性別どころか外見もガラッと変わったらそりゃ複雑な気分にもなりますよ」

「ごめん俺にはちょっとわかんない」


 俺、人の好みってあんまり外見とか気にしないし。


 判断基準は【悪意】だしな。基本的に。


【それ基準にできるの貴方だけよ】


 そうだろうね。特に日本人には悪意に敏感な人ってあんまりいないから。


 ちなみに、ゲーム時代のうちのギルド加入条件は俺が認めるか認めないかだ。


 あの頃から親父の件で悪意や敵意には敏感だったから、それを感じる人は加入を認めなかった。たとえゲーム内で有名なプレイヤーでも。


 あのギルドでは俺がルールだった。あんまり記憶もないけど、確かそうだった。


 そんなどうでもいいことを考えていると、通信機が着信を告げる。


『ブラック。今いいか?』

「ぉ? ああ、ゼインか。どうした?」

『これから来られないか?』

「なんで」

『レクスがお前に会いに行くと言って、今にも飛び出しそうだ』


 ……あ。そういや帰ってきてから会ってないな。


「……今じゃなきゃダメ?」

『なにか依頼でも受けているところか?』

「一身上の都合というか、なんというか」


 体がおかしくなってるって何て説明すれば。


 男になったと伝えればいいのか?


『暇ではあるんだな?』

「なんだよそれ。暇ではあるけど」

『では来い。国王命令だ』

「ここでそれ使うのかよ」


 突っ込んだら回線切られた。


 おい。この格好で行けってか? いいのかこれで?


 確実に門の前で止められる。今までは顔パスだったけど、顔が変わってる時に顔パスとか不可能だ。


 そもそも性別が違う。


 素直に話したところで「こいつ大丈夫か?」みたいな反応されるのは目に浮かぶし。


 それ以前に門前払いか、最悪スパイかなんかと間違えられて地下牢行きだ。


 貴族としてなら入れるかもしれないけど、俺の階級的にかなり危険だ。そこそこ階級が高いせいで偽物だと思われやすい。


 貴族として働いてないのに位が高いから、こいつ貴族としての評判聞いたことないのに評価がおかしいだろうと怪しまれる。


 俺にどうしろと。窓から侵入するとかは容易いが、後々ヤバイことに発展するかもしれない。やるなら緊急時以外は避けたい。


「あー……そうだ。ソウル。俺をお前の従者ってことにして」

「え?」


 というわけで。


 現在フードを被ってソウルと一緒にウィルドーズに来ています。ソウルなら顔も知れてるし、目立つから俺が隠れやすい。


 城の人も、ソウル相手なら無下にはできないだろう。


「えっと、そちらの方が従者ですか」

「はい」


 フードを一回取って顔を見せると、警備隊長さんが不思議そうに首を捻った。


「もしや、ブラック殿の兄君で?」


 惜しい。


 確かに、兄貴がいたらこんな顔かもしれない。俺の姉と妹は顔が整ってるし、言っちゃなんだが親父もお袋もそこそこ顔がいい。


 残念ながら俺にはその遺伝子が受け継がれなかったんだろうけど。


 兄貴がもしいたら顔が整ってても不思議じゃない。


 ……本当はいるけどな。書類上の兄は。


 俺は顔も覚えてない。会ったかどうかすら定かではない。


 俺は知らない、昔養子で親父が引き取ったとかいう、兄。


「ブラン? どうしました?」

「いや、なんでもない」


 いかんな。考え事をするとすぐにボーッとしてしまう。


 いつの間にかゼインの部屋の前まで来ていた。


「失礼します」


 ソウルがノックしてから部屋を開けると、内装が随分と変化していた。


 椅子や机が端に追いやられ、大理石の床にはふかふかのマットが敷かれている。


 マットの上には子供用のおもちゃが散乱し、部屋の中心には三つの揺りかごが鎮座していた。天井にはいくつものモビールが吊り下がっている。


 ……あ、右から二つ目のやつ、俺が出産祝いにつくって送ったやつだわ。


「おお、来たか。……? ソウル殿、ブランはどうした? 後ろの者は男だろう?」

「……えっと」


 なんでそこで俺に任せるんだ。ソウルが説明してくれよ。


 そう目で訴えたが、どうにも俺に喋らせたいらしい。


 一歩下がりやがった。


「……俺だよ、ゼイン。ブランだ」


 若干恨めしく思いつつ、フードを取って顔を見せる。


「…………」


 ゼインは数秒沈黙したあと、ぼそりと呟いた。


「……とうとう男になったか」


 ……好きで男になったわけじゃねぇよ!


 しかもとうとうってなんだよ!


 俺は男になっててもおかしくないってか⁉

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