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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
225/374

二百二十五日目 薄れる過去

ーーーーー≪ブランサイド≫


 どうやらイベルの友達は俺が女だということを皆知らなかったらしい。


「なんだ、イベルは俺のこと詳しく話してなかったのか?」

「あんまり話しちゃいけないんじゃないかなって思ってたし」

「ああ……そうだな。英断だ。同業者に目をつけられかねんしな」


 確かに俺は自分に関する情報を極力流さない。


 家を出て仕事するときは基本的に変装する。本名もあまり知られてないし、俺の弱味を握ろうとする連中から遠ざけるには俺の情報は知らない方がいいだろう。


「女の人だったんですねぇ……てっきり背の低い男の人かと」

「背が低いというのは気にしないでくれると嬉しいかな。っていうか俺のこと男だと思ってたのに胸のこと教えてくれたんだ?」

「隠すことでもないじゃないですかぁ」

「それもそうか」


 減るもんじゃないし。とか思ってる女性は俺くらいだと思っていたけど、シルフィーナちゃんもその辺に頓着はないのかな。


 友人の保護者(男)が胸がなぜ大きいのかとか聞いてきたら普通「こいつ気持ち悪いな」と思うだろうに。


 別に減るものでもないしいいかと俺も思うが、気持ち悪いなとは感じるだろう。恐らく。


 それ聞かれて、セクハラじゃね? と認識できなかったら真面目に頭おかしくなってるかもしれないけど。セクハラは気付けると思う。多分。


「女だったからシルフィの胸を凝視するのに抵抗なかったのか……」

「そりゃ男だったらもっと謹み深く行動するよ。俺、女の子は恋愛対象外だから」


 今のところ同性愛に目覚めたことはない。


 この子達は可愛いとは思うが、どっちかというと鑑賞対象だ。犬猫を可愛いと言うのと似たような感覚。


「マスター。お仕事ですよ」

「ぅおっ⁉」


 背後からがっしりとメイドに肩を掴まれる。


 感知に気を張っていなかったからドキッとした。


「い、今本調子じゃないからあまり驚かさないでくれ……心臓止まりそう」

「それは申し訳ありません。では、参りますよ」

「はいはい。……んじゃ、俺は罰ゲームの続きしてくる。どうぞごゆっくり」


 イベル達に挨拶をしてからキッチンに向かった。


 先回りしていたのか、ソウルが出迎える。


「どうです? メイド業務には慣れました?」

「やってみると結構大変だぞ。特に掃除な。この拠点もそうだけど、広すぎんだよ。やっぱり引き払ってもっと機能性の高い家にするべきかもな」


 各国、各町にある拠点は全てメイド達に任せてある。


 俺達の移動に同行するメイドと拠点を管理している常駐メイドとは業務内容に大きく差が出る。


 勿論どっちのメイドも忙しいんだろうけど、掃除や維持を考えると常駐メイドの方が大変、なのかなぁ?


 だったら別に家でかくなくてもいいんじゃないのか?


 掃除の範囲広いし。


「ブランさんは狭い方が落ち着くんですか?」

「いや、狭いのが落ち着くって言うとちょっと語弊があるけど。家がでかいと掃除面倒くさいだろ」

「理由それだけですか?」

「それ以外になんかあるの?」


 掃除が楽であるかは重要だろう。


 あと俺はあんまりにも狭い場所は苦手だ。押し入れの中とか特に。だから狭い場所が落ち着くってのは少し違うな。立てるくらいのスペースで、出口があればいいよ。2畳くらいかな。それくらいが落ち着く。


「そういうことですか……でもそれなら家買ってきたのもメイドですし、気にしなくていいんじゃないですか? 皆嬉々として仕事してますし」


 そ、そうかなぁ?


 嬉々として仕事してる、ってなんか洗脳してるみたいで嫌だな……。確かに楽しんでやってくれるなら全然構わないんだけど。


「あ、これからご飯作るんですよね?」

「そうだけど」

「グラタン食べたいです」


 俺がある程度復活したら図々しくなってきたなソウルのやつ。


 昔からこんな感じだったか? 最早前の世界の記憶ってかなり朧気だけど。


 一応怪我人なんですけどね。外からじゃ分かりにくいけど。


 足の移植とかのついでに体の中弄くり回されたらしく、内臓とか結構ズタボロになってたからね。傷はもうあんまりないけど。


「……しゃあない。グラタンな」

「はい」


 ソウルは嬉しそうに目を細めた。


 改めて見るとこいつの顔本当に整ってるよな。日本の方の美的感覚が正直ハッキリとは思い出せないが、恐らくあっちでも相当な美形だとは認識されるだろう。


 日本とこっちで美的センスが全くの真逆なら、超ブサイクってことになるんだろうけど。感覚的に真逆な気はしないから多分どっちの世界でも顔はいいんだろう。


 羨ましい。俺多分中の中だぞ。運が良くて中の上だわ。


 ……なんか言ってて虚しくなってきた。考えるの止めよう。


 こんな気持ちになるってことは、昔の俺も似たようなことを考えていたのかな。


 今ではもう、元の顔もあまり思い出せない。


「どうしました?」

「? ああ、いや。なんでもない。少しボーッとしてた」


 そんなことを考えたって、記憶が戻らないものは戻らないんだけどな。

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