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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
218/374

二百十八日目 劣等感

ーーーー≪ブランサイド≫


 依り代?


 えっと、依り代って何て意味だったっけ……


 ゴーグルを収納から取り出して検索機能を使う。


 なになに……依り代とは、神霊が寄り憑く対象物のこと。


 ……ああ、うん。微妙にわかんない。


「詳しく説明する。が、その前に」

「なんです?」

「飯にしよう」


 このタイミングでご飯かよ!


 確かに体を超特急で治してるせいで腹が減ってるのは確かだ。俺の場合喉が乾いてるって言った方が正しいけど。


「着いてきてくれ。歩けるか?」

「な、なんとか……」


 歩く度に鈍痛が響くが、動けないほどじゃない。支えがあればなんとかなるだろう。


 少しよろめくとクリスの後ろにいた女性が肩を貸してくれた。


「ありがとうございます」

「………」


 ニコッと笑って会釈された。


 そういや彼女のことは聞いてない。


 ……後で聞けばいいか。


 支えてもらいながら大きなソファがある部屋に到着した。


 さっき俺がいた部屋より三倍くらい広いが、ソファと机が大きいせいかそれほど広くは見えない。


 かといって狭いとは感じないから、丁度いいくらいなのかもしれない。白黒として働く俺の拠点はどこも広すぎるんだよな。


「そこに座ってくれ。食事を頼む」


 俺をソファに座らせてから女性は一旦部屋を出ていった。


「彼女は?」

「ああ、言ってなかったね。彼女は【忍耐】のスキルを持っている」


 忍耐。キリカが危険視していたスキル持ちだ。


 正義は彼女自身の性格が危険だから純粋に戦闘能力に気を付ければ良かった。


 けど、忍耐のスキルを持っている人をキリカは見たことがないといっていた。


 姿が見えなければ誰だって警戒するだろう。


 忍耐が現れなかった理由は、同陣営に入っていなかったからなんだ。


「詳しく説明しよう。まず、このスキルについてだ。このスキルは君の時はどうやって手にいれた?」

「えっと……確か、吸血鬼になった直後。急に目の前にスキルのサークルが出てきて」


 なるべく事細かに当時のことを話した。


「そうか。やはり君の場合は体が目当てだったみたいだな」


 なんかその言われ方嫌だな。


「その力は【幽霊が自分の体を得るため】に私たちに与えた力だ」

「幽霊?」

「そうだ。神なんかじゃなく、幽霊だ。死んだ元英雄達が復活したいが為に私達に力を与え、無理矢理に馴染ませようとしている」


 ……突拍子もない話すぎて理解が追い付かない。


 つまり、幽霊が俺を使って復活しようとしてるって?


 あり得ない。だって死んでるんだろそいつ?


「君も、経験があるのではないか? 感覚のズレを妙に感じたりだとか、知らないはずのことを知っていたりだとか」

「そんなこと……」


 ある。


 手の長さに違和感を覚えたり、知りもしない相手の名前がパッと浮かんだり。ここ最近ずっと。


 なんかの病気かと思っていたが、


「俺は、その幽霊とやらに乗っ取られる準備をしてるって?」

「そうだ」


 ……ははは、笑えねぇ……


 最近の違和感が、こんな形で解決するとは。俺は知らず知らずの内に自分で自分を殺す準備してたとか、ゾッとする。


「どうすれば、なんとかできますか」

「力を使わなくとも、持っているだけで侵食は進む。だが、解決法はない訳じゃない」


 能力を消したところで、第二第三の俺が幽霊に乗っ取られる手伝いをすることになってしまう。可能なら、なんとかして幽霊の方を消したい。


「劣等感がある筈だ。それを無くせ」

「え」


 劣等感?


 しかもそれを無くせって?


 無くせないから劣等感が存在するんじゃないのか?


「そんな簡単に言われても」

「出来なきゃ今の君(ブラン)は死ぬことになる」


 劣等感………


 今の俺が、感じている劣等感。


「………わからん」


 ちょっとまってそもそも何に劣等感を感じているのかさえ不明なんだけど。


 日本での暮らしでなら劣等感ってものがかなり身近にあった。


 優秀すぎる姉と妹がいて、なにをやっても一番になれず。親には出来損ないの不良品と罵られ、唯一自慢できることと言えばゲームだったけどそれも親には認められなかった。


 学校ではそれほど苦労もせずわりと上手く友人付き合いもしてたけど、それ以上に進展することもなければなにか特筆すべきこともなく。


 平々凡々。それが俺の人生だ。


 こっちの世界ではそこそこ強くなったし、国王含め友人関係も良好。仕事も軌道に乗って、四人の恋人どころか息子までいる。


 信頼できる仲間も家族も友人も出来て、金に困ることもない日々。血を飲まなければ生きていけない少し面倒なところはあるが、それも家族から分けてもらえば十分解決する問題だ。


 これ以上を望んだらバチが当たると本気で思う程度には順風満帆。かなり幸せな毎日だ。


 これのどこに不満がある? 正直、仕事量以外は最高な環境だ。仕事も量が多いだけで死にそうって程じゃないし、むしろ仕事に追われる感覚が染み付いちゃって休みになると何をしたらいいのかわからなくなる。


 多分今の仕事がなんだかんだ言ってそこそこ好きなんだと思う。


「……劣等感。劣等感……」


 俺は誰の何を羨ましいと思ってるんだ?

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