二百十七日目 バレンタイン番外編
日付け変わるギリギリにバレンタインの話題。しかも本編全く関係なし!
急に思い付いて勢いで書いた為にオチも特にないので面白さはそんなにないです。
どうでもいいやという方は次回の更新をお待ちください。次回はちゃんと本編書きます。
ーーーー≪ブランサイド≫
……ここ数日、うちの男連中がそわそわしている。
理由は多分、2月14日が近付いていることだろう。
あいつらは一体俺に何を求めているんだろうか?
……チョコを求めているんだろうな。
だが、正直に言わせてもらう。
俺はそんな展開にするつもりが全くないと。
だってなんか今更感あって恥ずいし……
「マスター。本日のご予定ですが」
「ああ、視察だろ? 行ってくる」
「いえ。マスターにはもっと重要なお仕事がございます」
……え? 視察より重要な仕事ってなに。
王族達からの依頼なら俺を直接通して話が来るはずだし、デカイ案件があった覚えもない。
なによりスケジュールには視察って書いてあるぞ。
「いや、じっちゃんから頼まれた視察が」
「それならば私共が行って参ります」
いや俺に直接来た依頼なんだけど。
「じゃあ俺の仕事ってなによ?」
「お菓子作りです」
「……へ?」
……お菓子? なに言ってんのこの子⁉
そもそもバレンタインなんてこの世界にはないだろ!
ソウルがこの前皆に話してたけどさ。
「なんで俺がお菓子作んなきゃならないわけ? っていうかその風習こっちにはないだろ」
「ありません。ですが、みてください。ソウル様方の目を」
リビングを出入りするソウルたちはチラチラとこっちを確認している。地味に気になる。
「まぁ、期待の目で見られてるのはなんとなくわかるけど」
「夫を喜ばせるのも妻の役目です。マスターの鮮やかな料理スキルで皆様に幸せを提供していただければと」
…………それをなんでメイドから要求されるんだ。
そもそも俺はお菓子作りなんてあんまり得意じゃないぞ。飯の方がまだできる。
食べる専門だし。……プリンは食べたいからよく作るけど。
「本日の業務は我々メイドが分担して勤めさせていただきます」
なんでそんなに俺にお菓子を作らせようとするんだ。
「メイドにはなんのメリットもないだろ」
「はい。ですが、主人の幸福を心から願うのが我ら従者でございます。それが我々の望みなのです」
……これ、本心で言ってるんだよね……。
俺が幸せになれば自分達がどれだけ辛くても幸せだって言い張っちゃう子達なんだよな……。
個人的には、俺じゃなくて自分の幸せ追求してほしいところなんだけど。
まぁ、でもここまで言ってくれるんだ。彼女達の思いを無下にもできない。
「……わかった。今日の業務は全て任せる。無理のない程度で構わないし、なにかトラブルにでもあったら遠慮なく俺を呼べ」
「はっ!」
遠慮なく呼べ、とは言ったがこの子達はよほどの事がなくちゃ俺を頼ってくれないんだよな。
俺もあんまり人を頼る性格じゃないから人のこと言えないんだけどね。
「さって、それじゃ作りますかね」
うーん、何にしよう?
あいつらチョコを期待してそうだからチョコを使うとして……
「普通にチョコ固めただけじゃ面白くないし……ケーキとかも、まぁ、無難ではあるが」
色々と考えてみよう。
チョコレートと一言に言っても結構種類がある。
生クリームをいれて口溶けを滑らかにする生チョコとかもそうだが、カカオとミルクの比率、砂糖の量とかでも味は大きく変わる。
砂糖は量が違えば甘さが変わるのは当然だが、カカオの比率でかなり変わってくる。75パーセントを超えると一気に苦味が強くなり、85パーセントを超えるとお菓子というよりスパイスに近くなってくる。
俺は甘党だからあんまり苦くないのを食べるけど。
ポイントショップに製菓用チョコレートとかは揃ってるからそれを使うとして。
問題は何を作るかだな。
わりとどんなお菓子にも合うから、そこまで味がぶつかることを考えなくてもいいのが楽だが、逆に何を合せるか迷う。
個性的な味をしてるから素材を生かすタイプのお菓子だと全部チョコに持ってかれちゃうからそれは避けるとして。
「うーん……チョコのお菓子ねぇ」
どうせならこっちの世界ではあまり食べないやつがいいな。
エルヴィンがあまり甘いの好きじゃないから甘さは抑えるとして。そうなると、むしろちょっとしょっぱいくらいの物に合わせてみるか。
……よし、決めた!
ーーーーー≪ソウルサイド≫
今日は、日本の日付に合わせれば2月14日。
バレンタインデーだ。
正直、日本にいた頃はあまりにも貰えてしまうせいで友だち減って悲しい思いした経験しかないからあまり好きな行事じゃなかったんだけど。
……好きな人がいれば、別だ。
ゲームのなかではブランさんは性転換してたからむしろ貰う側で僕はあげる側だった。
でも今はブランさんは女で僕は男‼
ここまでワクワクするイベントだとは思ってなかった。無くなってしまえとか思っていた自分が恥ずかしく思えてくるくらい。
数日前からそれとなくブランさんや皆に今日の話をしてたし、行事を面倒くさがるブランさんも今回くらいは参加してくれるかもしれない。
…………あれ?
……夜になっちゃったけど。ブランさん、リビングで普通に本読んでるけど。
……これは不発?
僕が散々言ったから忘れてることはないと思う……でもブランさんのことだ。やっぱどうでもいいやと作りすらしてない可能性がかなり高い。
バレンタインデーのことを言って回ったせいでエルヴィンさんやライト達も期待しちゃってるし‼
……そして、夕御飯も食べ終わってもうほとんど寝るだけになってしまった。
ブランさんは相変わらず本を読んでいる。もう、これはないパターンで確定か……
「ブランー‼」
部屋に行こうとすると、夜だというのにレクス君が遊びに来た。こんな時間に?
「ああ、やっと来たか。ほれ」
レクス君にぽいっとなにかを放り投げるブランさん。
「お前らも。ん」
投げて寄越された袋に入っていたのは、二枚のクッキーに挟まれたチョコレートアイス。
「一応、バレンタインデー、だから」
……完全に不意打ちできた。無いと思っていたからぽかんとしてしまう。
「ブラン‼ 食べてもいいか?」
「ああ。中に入ってるのはドライフルーツだ。マンゴーと、イチゴと、パイナップルの細かいやつな」
よく見てみればアイスの中に立方体のゼリーみたいなのが粒々と入っている。
食べてみたらクッキーはあまり甘くない塩気のあるやつで、味としてはビスケットに近い。
全員が無言で食べ進める。
「お前ら恵方巻食べてるんじゃないんだから……」
ブランさんが苦笑しながら本のページを捲った。
食べ終わった頃を見計らってブランさんがソファから立ち上がる。
「じゃ、俺部屋で書類整理してくるから」
「あ、あの」
「ん?」
「美味しかったです」
僕には語彙力がないから、これくらいしか言えない。
ブランさんは一瞬キョトンとして、笑った。
「そっか」
そっけない、ブランさんらしい態度だ。
……こんな平凡で幸せな日がこれから先も、ずっと続けばいいのに。
僕はそう願っている。




