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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百十六日目 似てる?

 ……どこだ、ここ?


 体を起こすと、額に乗っていた濡れタオルが落ちた。


 十畳くらいの小さな部屋。反対側の壁には暖炉がある。


「っ、う……!」


 立ち上がろうとしたら、腰辺りに鋭い痛みが走った。


 服を捲ってみると包帯が巻かれている。


 ……助かった、のか?


 えっと、確か正気が戻ってから何とかして外に出て……ん?


 ……そこから記憶がない。多分倒れたのかも。


「っていうか痛い……」


 包帯がしてあるのにもかかわらず、じんわりと血が滲んできているのが見える。エルヴィン、結構容赦なく刺してきたな……


 俺が治せないってかなり本気でやってるだろこれ。


 ガチャ、と小さく音がして扉が開いた。そこから出てきたのは男女一人ずつ。その顔に見覚えはない。


 ……いや、男の方は見たことがある。写真で、だけど。


「大丈夫か?」

「……お陰さまで。それで、どうして助けたんです?」


 男は兄上……じゃない、傲慢の部屋にあった写真の中にいた。傲慢と、こいつと、傲慢の弟。三人が笑顔で佇んでいた。


「まず、詫びをさせてくれ。……すまなかった。リドを止められなかった」

「リド?」

「傲慢のことだ」


 あいつそんな名前だったのか。


 それより気になるのはこいつと傲慢、リドとやらの関係。


「私はクリス。憂鬱の能力者だ」

「憂鬱? ……怠惰に含まれるんじゃないんですか、それ」

「本来はきっとそうなのだろうが、君の存在が色々と影響しているらしい。傷が痛むかもしれないが、まずは私の話を聞いてくれると助かる」


 正直、傲慢の手先の可能性の方が高いからあんまり話したくないんだけど、助けてもらったっぽいし完全な敵対行動とられる前は話くらい聞こう。


 襲いかかってきたらこっちも応戦するけどさ。


 それで、クリスの話をざっと纏めるとこうだ。


 クリスは傲慢、リドと親友だったらしい。子供の頃はリドの弟、フィルも連れて三人で悪戯したり探検したりして遊んだらしい。


 だが、病気がちだったフィルは満足に動けず徐々に弱っていった。


 それを助けるためにリドとクリスで働いて薬を買ったりしてなんとか命を繋いでいたのだそうだが、世の中どこにでも屑はいるらしい。


 なけなしの金でなんとか買った薬を因縁つけられて貴族に奪われ、そのせいでフィルが死んだらしい。


 ……物語だとわりとありがちなストーリーだが、事実だとすればかなり酷い話だ。


 フィルが死んでから、リドがどうやらおかしくなってしまったらしく、その原因が『傲慢』のスキル。


 リドはその相手の記憶を改竄する力で貴族に復讐し、今では世界征服すらたくらんでいる、というのがクリスの話だった。


 ……なんていうか。ベタすぎてなんとも反応しづらい。


 話聞いてるとき先が読めたし。


「それで、自分に何を求めているんですか?」


 展開的には「あいつを止めてくれ」か「あいつを殺してくれ」辺りがテンプレだけど。


「フィルになってほしい」


 ………?


「え?」


 なんか、斜め上の答えがきた。俺に、死んだ弟になれって?


 そういえばリドも一時的に記憶がない時の俺に「お前はフィルだ」みたいなこと言ってきて色々と弟ポジション強制されたな。


 自分のことをボクと呼べとしつこく食い下がってきたし。


「えっと……似てるんですか? 自分とフィルって」

「顔は似てない」


 まぁ、そうだよな。だってフィルの写真みたけど確実に別人だったし。っていうか小学生くらいの写真だったし。


「だが、気配がちょっと似てる」

「気配って似るもんなんですか」


 全くわからん。


 でもエルヴィンも前に俺の気配はすぐわかるとか言ってたしな。


 意外とわかるやつにはわかるのかも。


「それで、もしフィル役をしたところでこっちにメリットあるんですか?」

「正直に言わせてもらえば、ない」


 ないのかよ! じゃあ嫌だわ普通に!


「あいつはフィルがいないせいでおかしくなった。それを埋めてからじゃないと、大本は叩けない」


 大本?


「それはどういうことですか」

「傲慢のスキルは破格だと思わないか? 君の暴食も中々に性能いいと思うが」

「まぁ、それは確かに」


 何て言ったって記憶改竄だもんな。魔法でもそこまで完璧に消せないし、魔力消費も半端なものではない。


「それをなんの代償もなく発動できるっておかしくないか?」

「う……」


 それは、ずっと思っていた。


 暴食のスキルはあまりにも強い。強すぎるんだ。


 基本的に複数人が同時に同じ名前のスキルを所得できないという制限はあるものの、ぶっちゃけ俺達には関係ない。


 俺のスキルの効果は、際限なく物や動物を出し入れできる空間を出現させることができる上、全身体能力三倍というトンでも性能。


 こんな旨味のあるスキル、裏がないわけがない。


 ……便利だからガンガン使っちゃってるけどね。


「そういう言い方するってことは、代償がなにか知ってるってことですか」

「そうだ」


 クリスが脇腹を触って、


「スキルを発動するとき、ここに痛みを感じるだろう?」


 ああ、いつものやつか。巨大注射針でブスッとやられるみたいな痛みが走る。


 頷くと、クリスが真剣な表情で俺に顔を近付けてきた。


 ……この人、なんか妙に距離感が掴みづらい。


「代償は、俺達能力者の依り代化だ」

「………はい?」


 どうしよう。話が全くわからない。……この説明で理解できないのって俺だけ?

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