二十一日目 装備品
「う……………」
ポタン、ポタン、となにかが落ちるような音がする。
俺は………どうなったんだっけ………
「ヒメノ………!」
唐突に意識が覚醒する。顔をあげてもなにも見えない。
え、これどういうこと。あれか? 起きてるけど体は植物人間ってやつ? え、まさかそれ?
じゃあさっきから聞こえるポタポタは点滴とかの音?
いや、それはないな。だって今顔は上がった。あ、立てる。
「どっちが前………?」
暗すぎて何がなんだかわからない。足から伝わってくる感覚は床じゃない。なんだっけ………あ、石畳っぽい。
石畳っぽいけど、歩くように配慮されてる感じがしないから多分ただの石。手とか撫でてみたけど点滴とかの器具がついている感じはない。
「どういうことだ…………?」
とりあえず空中に手を彷徨わせてみる。適当に。
「あ、なんかさわった」
近づいてみると、石だった。まんま石だった。多分地面もこんな感じだから、ここは………
「洞窟………?」
夢か。夢だな。うん。夢だ。そもそも俺生きてるのか知らんけど。っていうか真っ暗の洞窟でさ迷ってる夢とか我ながら意味不明………
? なんか触った。冷たくない氷柱みたいな形状だ。
引っこ抜いてみた。
「ぅぁっ⁉」
思いの外簡単に抜けたから尻餅をついた。地味に痛くて悶絶した。………夢だけど痛いってあるのかな。
暫く地面をのたうち回って落ち着いたら手元のそれがなんなのかわかるまでいじくり回す。
ゴツゴツしてるな………微妙に冷たい。石か。えっと、大きさは握れるくらいだから長さは15センチくらい、太さは半径2センチくらいか?
「なにやってるんだろ、俺………」
…………お腹すいた。どれくらい時間たってるかわからんしちょっと寒い。だって半袖半ズボンなんだから。しかもおそらく薄いTシャツ。それ以外の身に付けているものは…………
「指輪‼」
手をさわってみたら、あった。あったぞ‼
………じゃあここは現実なのか? いや、どこだよ。
…………得たいの知れないこと考えるのやめよう。助かってるってことで納得しておこう。
手に握っているこれ、なんなんだろう? あー、ライトが欲しい。せめて足元見えるくらいの光量のがいい。
「懐中電灯とか落ちてないかな………なわけないよなぁ。せめてなんか光るもんでもあれば…………」
その瞬間、手に握っていた物が発光した。白い光を薄ぼんやりと放っている。いや、タイミング。これどうなってんの? どういう原理? 電池式?
まぁ、いいや。もし電池式だったら早く移動した方がいいな。電池切れるかもしれないし。えっと、よくわからない光る棒………ランタンってことにしとこう。
ランタンを持って壁沿いに歩く。因みに俺の身に付けていたものは白いTシャツに茶色の半ズボン、それと指輪しかなかった。
靴すらないってどういうことだよ。寒いし。
壁や床を照らしてみたけど黒い石がただただ延々とあるだけだった。本当にただの洞窟だ。
人どころか生き物すら見当たらない。草一本も生えてない。ってことはつまり、
「食べ物ない………」
どうすんのこれ。死因餓死とか嫌なんだけど。
ペタペタと俺の足音だけが周りに反響している。さっきから聞こえるポタポタは水がどこかで流れている音みたいだ。せめて水飲みたい。喉乾いた。
そう、思っていたら、
「光…………光だ!」
かなり遠いけど、光が見えた。もしかしたら人がいるかもしれない‼
走って、一回転んで走って。ようやくたどり着いたのは巨大な扉だった。どう見ても人工物。少なくとも人の出入りがあるってことか!
「あ、あの!」
声をかけて、ドアをノックして。
…………無反応。仕方ないから開けますよー、とか言いながら引っ張ってみたけど、開く気配、なし。
「心が折れそう………」
扉に手をかけたら、開いた。
「押して開けるドアだったのかよ⁉」
バランスを崩して中に入ると、大きなだだっ広い部屋だった。
中央には巨大な台座があって、その上には………
「メットゲーム………」
メットゲームっていうのはゲーム機のことで、元々VRゲームはヘルメットだったからそこから『ヘルメットのゲーム』でメットゲームっていう造語ができた。
俺が使ってたヘッドホンタイプのものもメットゲームっていう。
要するに、VRゲームをするゲーム機の総称。
ここにあるのは、俺がいつも使っている旧式のものだった。こんな立派な台座に乗せられている物にしてはなんか………それほど凄さを感じない。
メットゲームを手にとっていろんな角度から見てみる。特におかしいところはなさそうだ。
けど、これ配線が繋がってない。パソコンに繋げないでどうやってプレイするのだろう。
………嵌めてみればいいのかな?
ヘッドホンをつけるのにこれほど緊張したのはVRゲームを買ったとき以来だと思う。
「わっ………!」
目の前に表示されるいくつかの枠。VRの世界に入るわけでもない。現実に投影されている。
「これは………装備品?」
寂しいからかな。思ってること口に出しちゃう。指輪が目にはいる度に自分が落ち込んでいくのがわかる。
目の前に広がっているのは、ワールドマッチの時に運営から来るメールのものと一致していた。
防具、武器、小物。召喚獣に契約精霊、使い魔。それぞれの枠にひとつずつ。ワールドマッチで大量の召喚獣を一気にけしかけるっていうのは禁止されていて、そういったサポートするような装備は1枠につき1つ。
どの項目もほぼそれで武器のみは試合中でなければ交換してもいい。俺は一応全部のジョブをやってるからその中にテイマーだったり悪魔使いだったりというジョブもやっている。
だから一通りそういったものとは契約しているんだ。
視界の端に砂時計が表示された。多分これが落ちきるまでは悩み放題なんだろう。
全然嬉しくないけど。この状況も理解できてないし。
…………なにもしなくて時間切れになって無一文で放り出されるのも困る。とりあえず選んどこう。
防具は当然星操りシリーズ。小物はゴーグル。武器は一旦おいといて、契約精霊は一人しかいないから必然的に決まるし、
「使い魔は…………あー、どうしようかな」
火力重視かオールマイティーか。ちょっと悩んで火力重視のやつに。契約獣は戦うというより移動用で選んだ。
あとは武器。
「対応しやすいのはデッド・エンドなんだよなぁ………でも遠距離のほうが色々と………」
なんでこんなに真剣に考えてるんだろう。何度も行ったり来たりする。
そして、選んで枠の中に打ち込んだ。
【この装備でよろしいですか? yes/no】
yesを押すと、
【もう二度と選び直せませんが、よろしいですか? yes/no】
え、ちょっと待って⁉ 二度と選び直せませんってどういうこと⁉
その瞬間全ての砂が落ち、時間切れになってそのままの装備になった。
「ま、マジか………」
ちょっとミスったかもしれない………。




