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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百五日目 コタロウ

 カイトシールドを振り回して牽制する。


 機械だからか動きが真っ直ぐで読みやすい。まるで初心者を相手にしたPVPみたいだ。


 所詮は盾職。攻撃力はかなり低いが、問題ない。


「機械人形の首を吹っ飛ばすくらい、節制解かなくても容易い」


 多少人間よりも重たいから体当たりするとこっちもちょっと痛いが、全然問題ない。重いと言っても車より軽いし。


 腕を半分に切断したものを一体含めて三体の人形が距離を詰めてくる。


 一方から同時に来ないだけマシか。一応散開して逃げ場を塞いで来ている。


「ま、俺には関係ないけど」


 だがそのやり方は、自分より身動きの遅い相手に効果的ではあるが相手の方が早いときはむしろ各個撃破されやすいから避けるべきだな。


「ちょっとやりにくいって感じるのは怯まないことくらいかな……」


 手を切断しようが、首を断ち切ろうが、足をもごうが前進してくる。ちょっとホラーだ。


 まぁ、アンデッド……ゾンビとそう大差ないけど。あっちの方が変な臭いするし、個人的には嫌だ。


 月光もリリスも超近接戦闘用の武器だから。あれが出てきた時は大抵魔法で燃やすけど。だってあれ触りたい⁉


 腐ってんの。触るとグチョッ、っていうんよ?


 あれ好き好んで戦うやつの気が知れない。まじで気持ち悪いから。


 ……グレートクローラーとどっちが嫌かって言われると、まだゾンビの方がいいけど。芋虫は本気で勘弁してください。


「そらよっと。ん? なにこれ」


 首辺りのケーブルをブチブチと盾で引き裂いたら銀色の液体出てきた。水銀?


 いや、それにしてはちょっとトロリとしてるか。


 ゴーグルで解析をかけてみると、うまく反応してくれなかった。つまりこれ、この世界独自の技術で作られたものなんだろう。


 この人形の血液みたいな物なんだろうか?


 結構気になるから持って帰って調べたいけど、世界バランス崩しそうだからやめておく。


「流石はマスター。お仕事が早い」

「誉めてもなんもでないぞ」


 昔みたいに盾ギロチンしてただけだしな。


 俺の周りには関節を悉く切り飛ばされた機械人形の残骸が散らばっている。さてこれどうすればいいんだ? 警察にいったら俺達のほうが捕まるしな。


「放置でいいか。通行の邪魔にならないところに寄せとけばいいだろ」

「そうですね」

「いや、だめでしょ普通に」


 あ。友里さん。無事だった?


「何がどうなってるのか全然わからないんだけど」

「俺もよくわかんない。けどとりあえず俺達追われてるっぽいね」


 なんでここまでこの世界の人が俺に執着するのか、正直謎だけど。


 ……正確には、俺じゃないか。鬼という種族の価値がどれくらいなのか、俺はよく知らない。


 ここまでして鬼を求める気持ちはわからない。


「じゃ、帰るか。邪魔もなくなったし。キリカ、妨害は止めたんだよな?」

「はい」

「そうか。じゃあさっさと――――」


 急に辺りに立ち込める、殺意。後方から、1つ。


「キリカ」

「はい」


 キリカも気付いたらしく、俺の背に隠れる。


 俺の方が硬いから見えない敵が突然現れたときは俺が前にでる事になっている。


 獣か? 人間ではない。


 かといって獣人でも、俺みたいな半端者でもない。


 まるで、魔物―――


「「「グルルルル……」」」


 暗がりから出てきたのは、黒い服の男性二人と……三つ頭の犬。


ケルベロス(地獄の番犬)……⁉ 何故ここに⁉』


 多分、召喚術だな。黒服のどっちか、あるいは両方が術者。


 ケルベロスは後ろ足だけで立ち上がると6メートルにもなる巨体で、大きさだけを見ればレイジュとそう大差ない。


 だが、その戦闘力はあのモフモフとは段違いで悪魔で例えるなら中級中位から下手したら上級下位あたりにもなる。ちなみにあのモフモフは下級中位から上位だ。


 影を使ったトリッキーな戦術を使う上、頭が三つもあるから死角も少ない。普通に噛む力とかも強いしな。


 そんなケルベロスが、突然目の前にでてくるとは想像だにしていない。……っていうか……


「マスター。どうしますか」

「………」

「マスター?」

「んぁ? ……ぁあごめん。ボーッとしてた」


 キリカが話しかけてきていたらしい。つい考え込んでしまっていた。


「流石にケルベロス相手では節制を発動したままのマスターと私では少々分が悪いかと。ユリ様もいらっしゃいますし」

「うーん……そうだね」


 なーんか……ちょっと気になる。


「先程からどうされましたか」

「いや……うん。まさかね……。ねぇキリカ。ちょっと試したいことがあるんだけどいい?」

「ここでですか?」

「うん」

「はぁ、どうぞ……?」


 意味がわからないなりに俺の行動を見守ってくれるらしい。


 俺は一歩前に出て、両手を広げた。


「……こた?」


 そう訊くと、ケルベロスは唸るのをやめて一瞬固まり……直後、俺に飛びかかってきた。


「ツキ⁉」


 後ろから悲鳴にも似た友里さんの声が聞こえた。


 そして俺は、ケルベロスに……甘咬みされていた。


「あっははは! おまえやっぱりコタロウか! 久し振りだなぁ!」


 この感じ、凄い懐かしい。撫でてやると尻尾を扇風機みたいに振り回す。


「えっと………マスター?」

「ああ、悪い。紹介が遅れた。こいつは俺の昔の召喚獣のコタロウだ。訳あって契約解除状態になってたんだが……あぁっ‼ くすぐったいから! こた!」


 数年ぶりの再会にこたも喜んでいるらしい。あ、こたってのはコタロウの愛称ね。


 俺の元召喚獣で、レイジュよりも前に契約していた。


 なんか見覚えあるけど流石に違うかと思ってたんだけど、この甘咬みの仕方は完全にこただ。脇腹をうまいぐあいに両側から噛むやつなんてこいつくらいしか知らない。


「いやー、本当に何がどうなってるんだろうね」


 なんでこんなところに?


 そういう疑問は、とりあえずこたが落ち着くまで置いておこうと思う。今はとりあえず遊んでやらないとな!

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