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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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二百四日目 エクスキューター

「ん……あれ……?」


 頭を上げると、ライトの光が目を射してくる。


 いつの間にか寝てしまっていたらしい。


 最近こういうの多いな……気を付けないと。睡眠不足なのかわからないけど、種族柄睡眠少なくてすむから寝るのをたまに忘れてしまうことがある。


 眠れるときに寝ておかないと、いざというとき動けない。


「今何時だ……?」


 時計を見ると、一時間ほど経っていた。寝過ごしていなくて良かった。


 荷物はほとんどないけど、向こうに渡るためには準備が要るからな。


 魔力結晶を取りだし、溜め込んでいる魔力を更に追加していく。手のひらサイズの長方形の魔石の中にはここ数日でため続けている魔力が蓄積されている。


 その量、一般の魔法使い400人分ほど。これ一個あれば町の1つや2つ、魔法で壊滅させることのできる魔力量だ。


 これを使ってまたあそこに帰る。帰らなきゃいけないんだ。


「……あいつらが、助けに来ない可能性が高いなら俺も逃げられるんだけど……」


 そんな薄情なやつらだったら、俺はあいつらに惚れたりしない。絶対に助けに来てしまう連中だから、俺も逃げられない。


 さて。……死ぬ準備は整った。








「本当に急に来て急に帰るんだね」

「それはすまない。金は好きに使ってくれ。いくらあっても俺達こっちの金は使えないから」


 宝石を売った分の残りの金をいれた封筒を渡して、魔石を握りこむ。


 家の中だとうまく魔法が発動しない可能性もあるので外の公園から転移することにした。


 横に立つキリカの表情は明るいとは言い難い。


「マスター」

「どうした?」

「……いえ。なんでもございません」


 目を伏せて小さく頭を下げるキリカ。葛藤もあるのかもしれないが、俺の判断に従ってくれるみたいだ。


 悪いとは思うが……これはもう決めたことだ。曲げない。曲げるつもりはない。あいつら置いて一人で逃亡するなんてこと、少なくとも俺にはできないよ。


「じゃあ行くぞ、キリカ」

「はい」


 魔石に最後の魔力を送り込もうとすると、何故か魔力が反応しない。


「……? おかしい……魔法が……」

「どうされましたか?」

「発動しないんだ。急に魔力も動かないし、……⁉」


 反射的に近くの小石を拾って嫌な予感がした方にぶん投げる。


 ガン、と硬質な音がしてなにかが石を弾いた。


「え、なに⁉」

「友里さん、下がって」


 広大さんがここにいなくて良かった。守りきれない可能性がある。


「マスター、これは一体」

「嵌められた。いや、俺が楽観視しすぎていた。この世界の裏社会のことを」


 ガシャガシャと金属音を撒き散らしながら現れたのは、大量のロボットと、亜人。


 やけに簡単に逃がしてくれるんだなと不思議に思っていたが、こういうことだったか。


 今日帰るからとアニマル達を引き下げて、俺自身の警戒も緩めてしまっていたのが悪かった。


 油断した。


「銀雪。居るよな」

『ここに』

「友里さんを守れ。最後の命令だ」

『……承知』


 これで一先ずは安心だろう。銀雪は結構強いみたいだから預けても問題ない。


「キリカ。手伝ってくれ」

「勿論でございます。どうされるおつもりですか?」

「……死なない程度に殺す」

「畏まりました」


 ロボットが一斉に襲いかかってくる。


 数は全部で7。


「こいつらと遊ぶのは俺でいいか」

「はい。では私は他の者を」


 薄暗い公園。でも俺には周囲の暗さなんて関係ない。


 ゴーグルをつけて体が半分隠れるくらいの大きさの盾、カイトシールドを取り出す。


 殴りかかってくるロボットの手を盾の側面で滑らせ逸らし、首に見える黒いコードに盾を突き立てて切断、破壊する。


 使いようによっては盾だって立派な武器になる。ただの防具ではない。それは俺が何年も昔に編み出したスタイル。


 盾一枚を持ってクエストをソロでこなしていく、無理矢理かつ大胆な戦い方をしていたのは後にも先にも俺一人だった。


 誰だって盾を武器として使うという発想がないわけではないが、実行する人は殆どいない。剣で斬った方が早いから。魔法で殲滅する方が強いから。


 恐ろしく効率の悪い、盾職のソロプレイヤー。最初はかなり馬鹿にされた。


 仲間が居てこそ使える職業に、進んでなる人は少ない。それも最初からソロで戦うつもりなら意味がわからない。


 だから俺は、ゲームを始めた頃に【アンダードッグ(かませ犬)】というあだ名をつけられた。


 まぁ、要するに勝つ気のないマゾヒストだって揶揄されたんだろうけど。


 だが、ゲームを始めて数か月後、俺は気づいた。俺は他のやつらより基礎ステータスが圧倒的に高かったんだ。どうやら盾職はソロではほぼまともに戦えないという大きなペナルティを背負うかわりにステータスの育ちが異常な職業だった。


 それからも俺は周りにワンちゃんワンちゃんと言われながらも盾で戦い続けた。


 その結果、おかしな戦闘スタイルが身に付いてしまった。


「よい、しょっと」


 カイトシールドで足元を薙ぎ、バランスを崩したところでシールドバッシュ(体当たり)。後ろのやつもそれに巻き込めるから二体が転んだ所に関節部分を狙ってカイトシールドを突き立てる。


 お前の盾はまるでギロチンだとよく言われた。その内あだ名は【アンダードッグ】から【エクスキューター(執行人)】になっていった。


 わんこから人間にランクアップした。どっちもあんまり嬉しくなかったけど。


 まぁ、縮めてエクスって呼ばれることが多かったけどな。未だにそう呼ぶやつ居るし。


 ……人間型のロボット。亜人種。どっちも相手に不足はない。


「邪魔するならちゃんと掛かってこいよ……途中で逃げられでもしたら面白くない」


 盾を振り回し威嚇する。盾なら突き立てでもしない限り亜人を即死させることは出来ないからそこそこ安心して戦える。なによりこの武器は使い慣れている。


 久々にエクスキューター(執行人)と呼ばれていた頃のことを思い出しながら盾を構えた。

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