201日目(番外編) イベルの学園祭(前編)
二百部記念番外としてイベルの学園祭の様子をお送りします。
時間軸としては本編より少し前のお話しです。
全部イベル目線です。
正直、ブランの頭はちょっと変だと思う。
……いや、ちょっとじゃなく、かなり変。変っていうか、おかしい。
本人に言ったら落ち込みそうだから言わないけど。
入学式で壇上に上がってきたときは心臓が飛び出るかと思った。何やってんのあの馬鹿、と叫びたくなったくらいには驚いた。
ただ、頭おかしいけど妙に回転は早い。
数本の指で同時に別のルーンを書いてた時は本当にこの人何者って思ったし。普通に考えてあり得ない。指を動かすだけではなく、魔力の操作も完璧にできないと魔法が発動しないどころか爆発する恐れもある。
それを片手間で行えるなんて、本当に頭おかしい。
「……あにき、兄貴!」
「えっ⁉ なに⁉」
「どうしたんですかボーッとして」
「い、いや、なんでもない」
真横からベル君が話しかけてきていた。
彼は学校で出来た最初の友人で、ブランがおれの保護者と知っている数少ない同級生の一人でもある。
「どうしたの?」
「今度の学園祭どうしますかって話です」
……あー、そんな話しあったな……
「パーティ毎になにか出し物をするってやつ?」
「そうです。なにします? シルフィ達には昼休みの時に話しましょう」
「そうだね……」
正直、何をしたらいいのかもよくわからない。こっちと日本とは全く別物だろうし。
「ベル君はなにしたい?」
「俺っすか? ……出店?」
あ、こっちもそんな感じでいいのか。
じゃあやること自体は日本のとそう大差なくても良さそうだ。
「出店かぁ。何を売るの?」
「え、ええと……武器?」
急に物騒だな! そもそも学生が武器扱っていいのか⁉
……ああ、でもこの世界なら十分あり得る選択肢かも。日本でやったら普通に銃刀法違反だけど、こっちではそんなもの無いしね。
そういえばブランの武器って日本に持っていったら銃刀法違反で捕まるのかな? あれただの白い棒にしかみえないし……。
「やっぱりおれ達だけで決めるのは止めておこうか。皆集まってから話し合おう」
「そうっすね」
そして昼休み。クラスが違う他のメンバーも集まって昼食の時間だ。
「「学園祭?」」
息ピッタリに双子のリュミカとエルナが聞き返してくる。
「そういえば、なにか必ず出し物をしなければならないという話だったな」
面倒くさい、と言外にいいつつアル君がため息をつく。アル君は商家の息子だからか利益のないことにはとことん無関心だ。
「なんでもいいなら適当でいいんじゃないですかぁ?」
シルフィーナは欠伸をしながらそう答える。ブランはどうやら乳がデカい子と覚えているらしく、シルフィの話をするといつも「ああ、あのでっかい胸の子ね」と反応を返してくる。
女じゃなかったらセクハラで訴えられるぞ。
「ええー、折角だからなんか面白いことやろうよ」
「なんかって何?」
「……なんだろう」
勢いだけはあるけど後先あまり考えないリュミカと慎重派のエルナは似ているようで実は性格は真反対だったりする。
「出店とかどうだ?」
さっきの会話をそのままベル君が繰り返す。それにアル君が反応した。
「なにを出すつもりだ?」
「武器とか」
「どうやって仕入れるつもりだ? 仕入れのコストや輸送費なんかを考えて売り上げを計算しようとするとかなり面倒だぞ」
アル君の正論がベル君に突き刺さる。
「アルマスは考えすぎなんだよ」
「君は考えなさすぎだ。商売というものがいかに大変か知らないからそんなことが言えるだけだろう」
このままだと口論に発展しそうなので一旦落ち着かせることにする。
「まぁまぁ、落ち着いて。何かはやらなきゃいけないんだし、ひとつの案としてはいいんじゃないかな?」
「じゃあリーダーは仕入れ先にツテでもあるのか?」
え、ツテ⁉ あるわけないじゃないか。
だっておれの持ってる武器って全部ブランが作った物らしいし……。
……ブランか。
「……ブランなら、いるけど」
「「「………」」」
全員が無言で固まる。
「あの人か……」
「いい人なんだとは思うんだけど……」
「その、なんていうか……」
多分全員考えていることは一緒だと思う。
(((滅茶苦茶厳しいんだよな……)))
ダンスを教えてもらった時、初めて知った。ブランのスパルタぶりを。
商売に絡んでくると相手がおれでも容赦ない。
この前召喚の練習をするためになにか呼び出せる道具を貸してって頼んだら色々と言いくるめられて一週間風呂掃除させられた。
高々風呂掃除だろって思うかもしれないけど、家の風呂あり得ないほどデカイからね⁉
風呂掃除だけで一時間半はかかるってどういうこと。
それでもう懲りた。ブランに頼み事をするのは極力やめておこうと。
「えっと、確かに、悪くはないツテでは、ある、か……」
「別に無理に頼まなくてもいいから!」
アル君もひきつった笑みであの人の武器なら問題ないかもとブツブツと呟いている。このままだと本気でブランに武器製作を頼まなきゃいけなくなる。
……それは、なんかやだ。ブランが嫌いだとかそういうことじゃなくて。
ブラン頭おかしいから……。
「じゃあさご飯は? 食べ物やさんなら出来るんじゃない?」
「おお、確かに。料理できる人!」
「「「…………」」」
え、まさかのゼロ?
「リーダーは?」
「……可もなく、不可もなくってものなら作れなくもない」
「……どうする?」
どうやら全員料理も苦手らしい。やるからには利益も欲しいし、今回の学園祭で成果をあげれば卒業後にもアピールポイントにはなる筈だ。
「おれの家の人にレシピだけ聞いて、皆で練習してみる? 明日から三日間お休みだし」
「賛成ですぅ。イベル君のお家の人お料理上手ですし、もし食べ物を売らないってなってもいい練習にはなるんじゃないでしょうかぁ」
ということで、お泊まりを兼ねてうちでメイドの皆に料理を教えてもらうことになった。
家につくとシシリーが出迎えてくれる。おれが小さい頃からずっと面倒を見てくれているメイドさんだ。
「イベル様、おかえりなさいませ。お友だちも御一緒に?」
「うん。今日から泊まるって」
「わかりました。お食事も人数分ご用意いたしますね」
「その事なんだけど……」
シシリーに料理を教えてほしいと頼むと、シシリーは不思議そうな顔をして小さく笑った。
「マスターに頼んでみては?」
「な、なんで⁉」
「マスターは料理もお得意なのですよ。料理長顔負けの腕前だとか」
「そうなんだ……」
あの人本当に何者なの。
「でもブランは今仕事でこの家に居ないんじゃ―――」
「ん? おお、イベル。お帰り」
「なんでこういう時だけいるの⁉」
「え? 商談があるから来ただけだけど?」
何故か絶対に居ないはずのブランがいた。今は他国に行ってるって訊いたから皆を家に連れてきたのに。
「イベル君。毒を食らわば皿まで、だよ」
「そう、だね……。ブラン、料理を教えてほしいんだ」
ブランは一瞬キョトンとして、
「ああ、いいよ?」
即答した。
そしてポツリと小さな声で、
「毒を食らわば皿まで……? 俺に料理を教えて欲しいって頼むのが毒なのか?」
と呟いていたのは聞こえなかったことにする。
番外編のくせに続きます。




