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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百九十九日目 イライラする

 ゆっくりと過ぎていく景色を見ながら大きく欠伸をする。


「退屈ですか?」

「……走った方が早いです」

「本当に人間離れしてますね」

「別に好きで人間やめたわけじゃないんですけどね」


 これからどうするか。とりあえず帰るまでの魔力は溜まった。だけど事故を予測していくともう少し多目に補充しておきたいところ。


 さっきの一件で体内の魔力は激減した。自分でも驚くほどの速度で回復してはいるが、万全とは言い難い。


 魔法を使うのはなるべく控えておくか。そうなると少しの間だけでも足を隠している隠蔽系の魔法なんかも一旦解除したい。


 夜中にこっそり元の姿に戻るかな……。


 ……なんか眠くなってきた。魔力使いすぎたなこれ……。


 ドアに体重を預けていたら、だんだんと眠気がピークに迫ってきて。








 目を覚ましたら全身ガッチガチに拘束されていた。


「………あー……こう来たか」


 人工衛星を止めるなんて普通じゃないことやったらそりゃ少しは隙が出来ると考えるわな。


 背後からズバッとやられる可能性は警戒していたけど、事が済んだから「もうないかな」なんて甘ったれた考え方した俺が悪いわ。


 このタイミングでの裏切りは想定していなかった。やっぱ自分で帰れば良かった。普通にイライラしてる。


『申し訳ありません、ツキさん。あなたは少し……異常すぎる』

「……そうですか。じゃあもうこれから本気でキレますけどいいですね?」


 スピーカーから聞こえた声はボイスチェンジャーでも使われているのか、俺の耳でも特定できない合成音声っぽい感じだった。


 だが、正直に言おう。今俺はかなりキレている。


 折角助けてやったのにこの仕打ち。いくら家族さえ無事なら自分のことはどうでもいいと思っている俺でも流石にキレる。


 頬がひきつる。


 こいつらのやり方、だいっ嫌いだ。個人的に。


『それは困ります。協力していただきたいことが沢山あるので』

「協力? 言葉選びには気を付けた方がいいですよ。なにが琴線に触れるかはわかりませんから」

『ご忠告ありがとうございます』


 嫌いだ。イヤだ。こんな場所。一刻も早く立ち去りたい。


「ではここから出してください」

『それはできません』

「じゃあ勝手に出てくんで、損害の責任はそちらで負ってくださいね」


 右の掌からナイフをとり出し、拘束具を叩き斬る。


 妙に固かったが、俺の手で壊せない程のものでもない。


『やめ―――(ブツッ)』

「煩い」


 スピーカーにナイフを投げて壊し、とりあえず周囲のカメラもナイフで斬りつけたり踏み壊したりして全て破壊しておく。


 よし。八つ当たりしたらちょっとだけスッキリした。この部屋かなりボロボロになったけど。


 さっき試したら何故だか魔法が使えない。あらゆる特殊効果の無効化。やっぱりこの世界の亜人と人間はどっかで繋がっているらしい。


 互いの技術を互いに共有できるくらいには親交が深いみたいだな。


「んじゃ、とりあえず上に出てみようかな」


 どこに進んだらいいのかわからなければとりあえず上に出てみればいい。


 空を飛ぶという選択肢が生まれるからな。


 ゴーグルを嵌め、周囲の状況を確かめる。


「真上ならいいか。人もいなさそうだし」


 どうやらここはプレハブみたいな一戸建てみたいだ。


 二階もないみたいだし、突っ切ってしまえばいい。


「はぁっ!」


 真上に向かって全力で拳を振り上げる。


 魔力を纏わせた拳は、使いようによっては空間そのものをねじ曲げて破壊することすら可能にする。


 結果として真上には大きな風穴が空いていた。


「やりすぎたかなぁ……ま、いいか。俺にはもう関係ないし」


 今の衝撃で使えなくなっていた魔法も使えるようになったっぽいしね。空を飛んで帰るか……ん? ああ、来たか。


「動くな‼」


 黒くゴツい服を着込んだ男達が周りを取り囲む。


 やけに電子音がするのは何でだろうか。この服から?


 ……ああ、これが友里さん達のつくってるスーツってやつか。


 人間が人間以上の身体性能を手に入れるための道具。


「ちょっと気になるから試していい?」


 それがどんなものか。興味がある。


 地面を軽く蹴って飛びあがり、目の前の男にこれまた軽く回し蹴りを食らわせる。


「ぐ、っ……捕まえたぞ」

「おお。耐えた」


 普通の人間なら確実に気絶するくらいの威力で蹴ったんだけど、持ちこたえるどころか足を掴んできた。中々面白いなこのスーツ。


「もうお前は逃がさん」

「俺を鎖で縛っておくことができるのは、俺の家族くらいだよ。あんたには無理」


 捕まれた足を軸に体勢を立て直し鳩尾に一発ぶちこむ。


「ゲフッ⁉」

「ここまで力入れると流石に落ちるか。加減が中々難しいな。これ以上力込めると腕が腹を貫通しそうだし」


 中途半端に固いから調節が難しい。


 目の前の男は足を掴んだままぐったりとその場に横たわる。


「力加減は大体わかった。あとはもう、作業だな」


 後ろにこっそりと近づいてきていたやつに、ちょっとだけ強めの拳を振り抜いた。

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