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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百九十六日目 13リットル

 俺の意図に気づいているのか、いないのか。互いに無駄なカマの掛け合いが続く。


「こっちからすれば、迷惑でしかないんですよ。そもそも人間が何万死のうが関係ない話ですし」

「中々冷たいですね」

「あなただって、今この瞬間世界のどっかで紛争が起きてるからってそれを止めに行ってないでしょう?」


 軽く睨むと、陣内さんはため息をついて肩を竦めた。


 ほんの少し考えるそぶりをし、


「金は?」


 呟くように訊いてきた。


「要りません。使えませんから」


 そう答えると、にやっと笑って自分の右手で左手首を指差す。


「では、要るものならどうです?」

「……そうきましたか」


 とんとん、と軽く叩く指先は浮き出た血管を押さえている。


「まぁ、確かに要るものですね。それ無いと死にますし」

「他には?」

「……貸しってことで。浅間家に恩があるということは伝えておきましょう」

「これはこれは、高くつきそうな借りですね」

「嫌ならやめます?」

「いいえ。ではそれで手を打ちましょう」


 大雑把に話が纏まったところで友里さんが服の袖を引っ張ってくる。


「ねぇ、どういうこと?」


 小声で訊いてきた。


「ああ、血と貸しってことで今回の件引き受けたって話」

「え⁉ あんなに渋ってたのに⁉ いいの⁉」

「リスクとリターンがつり合ってなかったからな。取引ってのはちゃんとそういうところ見ないと」

「そ、そうなんだ……で、さっきの条件ってつり合ってるの?」


 ……それはな。そうでもないんだよ。


「微妙。リスクの方がまだ大きいくらいだ。血は確かに必要だが、俺の場合燃費悪いからあまり無茶できない。貸しの方の値段を決めるのは俺じゃないしな」


 血はあって困ることはないが、力を使えば大量消費は免れない。今回のことで魔法を使うことだってあるだろうし、受け取った分使い果たす可能性だって大いにある。


 その場合俺は働き損だ。


「……取引はしっかり半々。働きには正当な対価が必要だと思うタイプなんですよね、俺は」

「どれくらいです?」

「50リットルくらいかな」

「「⁉」」


 え、そんなに突拍子もない数字?


「これでも大分譲歩してますよ?」

「こちらで賄える分を遥かに越えています」

「そう言われても、人工衛星何とかしたいなら30リットルは最低でも必要ですよ? 俺めちゃくちゃ燃費悪いから」


 消すにしても、燃やすにしても、どっか飛ばすにしても、かなりの体力を消耗するのは間違いない。しかも目視から落下まではタイムラグがほとんどない。


 それくらい反射で動くならかなりの食料が必要だ。


「人間が飯食べるのと同じで、俺も血で栄養補給します。今回はいろいろと予想外が重なってるので、消費も多い」

「なんとか、15リットル以内に抑えてもらえないですか」

「15リットル……防げても二つで俺が干からびますよ。というか餓死します」


 ……あ、いや。無理じゃないかも。


 ペンと紙を取りだし、ルーンを組み合わせた絵を描き連ねていく。


 ルーンは元素によって形が変化し、環境や、描き重ねる量によって魔力消費も変わってくる。


 初級の魔法であればルーンは少なく済み、上級であればルーンを書く量も、扱いやすさも変わる。


 詠唱での発動方法も同じだ。あれは言葉によって「世界をどう改編するか、指示を出す」行為だ。


 ルーンも同じ、世界を書き換える力。要するに、世界にどう変わってほしいのかを文字や言葉で世界に伝える、という作業が魔法を使うことに直結するわけだ。


 ルーンを描き、世界がそれを認識、改編、その過程で必要なエネルギーとして魔力を使用し、魔法が現象として現れる。


 何度も扱っていれば、感覚的にどんなルーンがどれ程魔力を消費するのかがわかるようになる。


「13リットルで、いけないこともない。かも」

「本当ですか」

「ただ、その場合貴方達自身でこの国を守っていただきます」

「自身で、ですか?」


 計算上だと、ギリギリなんとかなることにはなってるけど、計算と現実は別物だ。


 どれだけ完璧にシュミレートしたところでうまく行かないことなど多々ある。


 特に、他人任せなやり方はうまく行かないことが多い。そっちの方が、圧倒的に。


「ミサイルとか、ありますよね?」

「あるにはありますが、あんな速度で落ちてくる人工衛星を射抜く精度なんて」

「別にあのとんでもない速度のものを打ち落とせなんて言ってないですよ。でも、あるにはあるんですね」


 それなら、俺が手助けする形で手を出せば圧倒的に魔力量は少なくできる。


 攻撃と周りへの防御を二段構えで行わなきゃと思っていたから魔力消費を余分に見ていた。


 攻撃を人まかせにできるのなら、その負担はかなり軽減されるだろう。多分。


「俺が落ちてくる人工衛星の勢いを一気に削って、速度を下げます。その状態なら、ミサイルでも打ちぬけるでしょう」

「え、え……?」


 まぁ、これ以上の案はひとまず俺にはない。この人達は、どうするんだろうか?

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