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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百九十四日目 お願い?

「ふぅ、とりあえず落ち着いたかな……口の中は気持ち悪いけど」

「ねぇ鬼って皆血を飲むの?」

「え?」


 あれ?


 ……そんな人食い種族じゃないんだけど。食べるやつもいるけどさ。


「俺は吸血鬼だからな。それで血を飲むってだけで、大多数は人間とさして変わらない食生活だと聞いている」

「ツキって創作物に出てくるヴァンパイアだったんだ?」

「いや、よく間違われるけど俺は鬼でヴァンパイアはアンデッドだ。そもそも種族違うんだけど」


 感覚が完全に吸血鬼よりになっている今の俺からしたら、


「人間とサルって同じだよね? って言ってるのとそう大差ないぞ」

「えっ、ごめん」


 別に屈辱感はないんだけど、全くの別物なので間違えないで欲しいとは思う。


「吸血鬼含めた鬼族は、進化の過程で生まれた各種族の変異個体が集まって出来たと言われている。俺達吸血鬼の場合は翼人族の変異だな。膂力に優れ、空も飛ぶが、栄養価の高い血がないと生きていけない」


 鬼族はちょっと特殊な種族だ。同じ鬼と言っても各々種族の個性が全く違う。


 元々どの鬼も獣人だったり魔族だったり人間だったりした。


 それが偶然突然変異して別種族になった、というのが今のところ一番有力な説だ。


「でもそれって、どうやって鬼って判断するの? 突然変異したら全部鬼?」

「ああ、それは勿論判断基準はあるさ。魔力の質ってのもその一つだが、分かりやすいのはこれだな」


 服を少し捲って脇腹を見せる。


「なんか変な形の痣がある」

「痣……じゃないんだよこれ。鬼族は魔力の質からか体のどっかに溜まりやすいんだ。魔力濃度が高いから皮膚の上からでも見えるくらいにな」


 日によってどこに溜まるかはわからないから毎日位置は変わる。初めて顔に出てきたときは軽く焦った。


 だって右目周辺の皮膚が黒ずんでたからなんかの病気なのかと……。その後すぐにエルヴィンがこれを教えてくれたから良かったけど。


 エルヴィン居なかったら全員で病院に駆け込んでいた。


「へぇ。……?」

「どうした?」

「ちょっと、これ……」


 背中まで捲りあげられ、指先で軽く触れられる。


「くすぐったいんだけど……」


 軽く文句を言うと友里さんは真剣な表情をしていることに気がついた。


「ツキ。これ、いつの傷?」

「え? ああ、背中のか。それは……九歳くらいだったかな」

「………」


 事故の時に機材に潰され負った大火傷。


 もう痛みはないが、たまにひきつる感覚はある。


「いますぐここだけ人工皮膚に手術した方がいいよ」

「はぁ⁉ どういうこと⁉」

「傷が古すぎてあんまり気にしてないかもしれないけど、かなりヤバイよこれ。いつ千切れて大量出血してもおかしくない」


 なんだよ、それ。


 今まで医者も問題ないって言ってたのに……


 ……いや、多分最近の無理が祟っている。羽根で空を飛ぶときもその辺の筋肉や皮膚を引き伸ばす。


 なんか違和感あるな、とは思っていたが。


「そう、か。まぁ、仕方ない」

「仕方ないってなによ、心配しているのに」

「それはすまん。だけど多分手術しても無駄だし、時間もかかるだろう。そもそも俺はともかくキリカは長居できない」


 キリカは色々と超人的なあれこれを披露しているから忘れがちだがただの人間だ。


 長い間異世界に留まり続けてなにもない筈がない。


 友里さんがまた口を開こうとした瞬間、ノックの音が響いて扉が開いた。入ってきたのは知らない顔だ。


 ちょっと気まずくなったのか友里さんが椅子に座り直す。


「私は陣内です。ツキさん、でいいですか?」

「はい」

「橋から落下するバスをたった一人で支え続けたあなたにお願いがあります」


 ……協力関係を求めてくることにしたのか、それとも罠なのか。まずはしっかりと見極めてからだな。


「お願い、ですか」

「人工衛星を人のいないところに落下するように何とかすることはできますか?」


 ……なんだろう、思ってたのとは大分違う角度から切り込んできたな。それができるならバスに当たる前にやっている、と言いたいところだが。


 今回俺の対応が遅れたのは友里さんの安全を優先したのと、鬼であることを隠したかったからだ。


 だけど、それを気にしなくていいなら。


 隕石くらいの軌道修正は全然可能だ。流石に空中でピタリと止めるとかはちょっと難易度高いが空気抵抗とかをつかって落下地点をずらすくらい造作もない。


「……なんでそんな話に?」

「今回降ってきた人工衛星はデータを送信することで色々と次の行動を指示していた。それが突然制御不能になり、車の多い橋への直撃という形になりました」


 なるほど、話が見えてきた。


 この微妙に怒っている話しぶりや態度からして、管理システムの乗っとりだろうな。


 確かに力業でなんとかできる俺以外には止められない。


 人工衛星が落下する前にミサイルで迎撃、とかもできるかもしれないが、落ちてくるのを見た限りかなりのスピードがあったし、狙い撃ちは厳しいだろう。


 つまり、あれみたいにシステムで動いている人工衛星は少なくともまだあるってことか。


「あと、何機落ちてくる可能性があるんですか?」

「……四機です」

「確かに密集している場所にそれが落ちたりでもすれば」


 大砲なんかよりよっぽど危険だ。さて、どうするかな。

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